215話 プレゼント フォー ありす
わたしのサプライズ誕生日会で、みんなにお祝いしてもらったあと、赤川さんの言葉でみんなで相談しながらしっかり文化祭の準備を行った。
わたしの採寸も、わたしを教室から離すためだけでなく、普通に必要なことだったらしい。
犬飼さんと猫川さんが、まだ教室に残っていた人たちを順々に採寸していく間、わたしたちはお化け屋敷の内装について話し合う。
できるできないとか、どうやって仕掛けるとかは置いておいて、ひとまずは数を出していくことになった。
その途中。
わたしの次に、つまり話し合いが始まってから一番目に採寸に行っていたてれすが教室に戻ってきた。
てれすは教室を見まわして、わたしの隣に腰を下ろす。
放課後の話し合いは、座席自由だ。
普通の授業のときは離れ離れだから、その分嬉しさ倍増だった。
「お疲れ、てれす」
「ええ」
「どうだった?」
「……そうね。ミニスカートは回避できた……と思いたいわ……」
「思いたい?」
「ええ。だって、作るのはあの二人だから勝手に作られたら、わたしはどうしようもできないもの……」
げんなりとした表情で、てれすが答える。
たしかにてれすの言う通りだけど、いくら犬飼さんでもてれすが嫌がっていることを無理強いさせることはしないだろう。
「大丈夫だって。さすがにそんなことはしないよ。信じよ?」
「……そうね」
てれすは力なく笑う。
かなり疲弊しているみたいだ。わたしの知らないところで、かなり激しいやり取りがあったのかも。
本当にお疲れ様。
心の中でつぶやいていると、前を向いていたてれすが首をかしげて尋ねてくる。
「ところで、今は何を話しているの?」
「お客さんを怖がらせるアイデアを出してるの」
「なるほど、それで黒板に色々書かれているのね」
テレビの砂嵐とか、電話が鳴るとか、こんにゃくとか、その他色々とベタなものから革新的なものまで様々な意見が出されていた。
その後もみんな各自にたくさんの意見を提案して、今日の話し合いは終了した。
それを実行委員の二人が持ち帰って、予算や人の数、教室の広さを考慮しつつ検討するらしい。
黒板に書かれていた意見を高井さんがメモして、終わると赤川さんが黒板の文字を消す。
綺麗に消してから、赤川さんがこっちを向いて、
「お疲れさまでしたー!」
礼をしたので、わたしたちも授業のときのように頭を下げて、解散となった。
けっこう内容を詰めることができたんじゃないかな、とわたしは今日の話し合いを振り返りながら帰る準備をする。
と、隣に座っていたてれすがカバンの中を見てから、話しかけてきた。
「ありす、一緒に帰れる?」
「もちろん」
いつも一緒に帰っているし、今日もそのつもりだ。
「それじゃあ、帰りましょう?」
「うん」
てれすに続いて、わたしも肩にカバンをかけながら立ち上がる。
教室を出る前に高井さんや赤川さんにあいさつをしてから、わたしたちは学校を後にした。
「てれす、今日は本当にありがとう」
「え? あ、あぁ、いいのよ。わたしだけじゃなくて、みんなのおかげだもの」
「それでもだよ。ほんとにびっくりしたし、嬉しかった」
半年前のてれすを思い出すと、今日みたいに誰かの誕生日をお祝いする、それもサプライズを行うなんて、とてもじゃないけど考えられない。
「それで、そのありす」
「ん、どうしたの?」
てれすが立ち止まったので、わたしも足を止める。
てれすはカバンをゴソゴソとして、可愛らしくピンク色の包装紙でラッピングされた箱を取り出した。
「これ、受け取ってもらえるかしら」
「え?」
差し出された箱に、思わず固まってしまう。
「これって」
「ええ。ぷ、プレゼント……」
「いいの?」
「もちろんよ。ありすのために買ったんだもの」
「あ、ありがとう」
まさか、ここに来てもう一つサプライズがあっただなんて。
今日は何度驚いて喜べばいいんだろう。
プレゼントを受け取ると、てれすが視線を逸らして小さな声で言った。
「気に入らなかったら、捨ててもらってもいいから」
「てれすにもらったもの、そんなこと絶対しない。開けていい?」
「ええ」
リボンを解いて、ラッピングを開ける。
出てきた箱はオシャレで、中身はなんだろう? アクセサリーとか、そんな感じだろうか。
ふたを開けて出てきたのは、
「これ、ブレスレット?」
「ええ。ありすに似合うと思って……」
「すっごい可愛い」
てれすにもらったプレゼントの中身は、多面カットされたシルバープレートと同じくシルバーのチェーン。シンプルだけどおしゃれで可愛いブレスレットだった。
「嬉しい……でもこれ、本当にもらっていいの?」
「それはもちろん。返せなんて言わないわよ」
「けっこう高いんじゃ……」
比べるものじゃないと思うけど。自分がてれすにあげたヘアゴムを思い出す。
あれもけっして安いものではないけど、このブレスレットと比べると……。
「いいえ。ありすの思っているほど高いものではないわ。そういうのは、困ると思って」
「そう?」
「ええ。だからありすは気にしなくていいのよ」
「……わかった。ありがと、てれす」
さっそく、ブレスレットを左の手首につける。
サイズも良い感じだし、つけてみてもすごく可愛かった。
「どうかな?」
「すごく、似合っているわ。自分を褒めたいくらい」
「えー? そんなに?」
「ええ」
そんなに強くうなずいて即答されると、お世辞だとしても嬉しくなってしまう。
でも、てれすが言うんだったらそうなのだと思う。てれすはやっぱりセンスがいいし、わたしのために選んでくれたと思うと、嬉しくてたまらない。
「てれす、本当にありがと!」
「いえ、いいのよ」
「あ、でも……」
「どうかしたの?」
「これ、学校じゃつけられないよね?」
「た、たしかにそうね……」
アクセサリーって校則違反だったような気がする。
すごく可愛くてとても気に入ったけど、学校にまでつけていったらたぶん没収されてしまう。
「ごめんなさい。そこまで考えていなかったわ……」
「ううん、謝らないでよ。おうちとか、てれすと一緒に遊ぶときとか、つけられるときはつけるようにする!」
「ありがとう、ありす」
「お礼を言うのはわたしのほうだって」
学校でつけられないから、他の子に自慢するのはできないのは残念。
だけど、つけられるのは学校だけじゃないのだ。
とりあえず、帰ったらお母さんに自慢しよう。
今までこういったアクセサリーみたいなものって、あんまりつけたことなかったけど、けっこういいかも。可愛いし。
「ね、てれす」
「?」
「京都で買ったキーホルダーをおそろいにしたけど、こういうアクセサリー系のおそろいもいいかもね。学校のときじゃなくて、遊ぶときにつけられるし」
「っ! そうね、そう思うわ」
てれすがものすごい食いつきを見せる。
いつになるのか、何のきっかけになるのかはわからないけど、もしも選ぶ時が来たら、てれすに選んでもらおう。
そうこうしていると、てれすとお別れの交差点にやって来てしまった。
「それじゃあ、てれす、今日はありがとう」
「そう言ってもらえると、とても嬉しいわ」
じゃあね、とお互いに手を振る。
駅の中に消えていくてれすの背中を見送って、わたしもおうちへ足を進めたのだった。




