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ありすとてれす  作者: 春乃
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209話 実行委員

「やっぱり、てれすはすごいなぁ」


 文化祭の準備に取り掛かる前に、わたしたちの前に立ちはだかったといってもいい大きな壁。その2学期の中間テストが無事に終了した。


 結果は誰もが予想していた通り、てれすが一番。またしても、わたしは2番だった。

 前回の期末テストのときよりも、てれすとの合計点数の差は少しだけ縮まったけど、やっぱりてれすはすごい。さすてれだ。


 わたしの言葉に、てれすは頬を朱に染める。


「あ、ありがとう……。でも、ありすのおかげよ。ありすのうちで勉強したから」


「そう? それなら、嬉しいかも」


 効率よく集中して勉強できたとはいえ、たった一日のことだから、どのくらいの効果があったのかわからない。でも、てれす本人が言うのであればそうなんだと思う。

 それに、実際わたしの成績も上がっているから、あながち間違いじゃないのかもしれない。


 ……毎日てれすと勉強をしていたら、いつかてれすを追い越すことができるかもしれない。


 そう思ったけど、さすがに毎日はね、と苦笑する。

 それに、てれすと一緒に勉強するのだから、当然てれすの成績も上がるから、追い越せない気がする。


 ……と、いうことは一旦置いておいて。

 今から半月くらいは、そうも言っていられない。学生の本分は勉強だと思うけど、学校生活はそれだけではないのだ。


「テストが終わったから、いよいよ文化祭の準備が始まるね」


「ええ。力になれるかわからないけど、がんばるわ」


「うん。頼りにしてる」


 そしてホームルームの時間。

 先生に促されて黒板の前に立ったわたしは、教室のみんなの視線を浴びながら口を開く。


「えっと。それじゃあまず、うちのクラスの文化祭実行委員を決めなきゃなので、二人決めたいと思います」


 誰もいなかったら、片方はわたしがやるとして、もう一人はてれすにやってもらおうかな? そんなことを考えながら尋ねる。


「やりたい人いますか?」


 言い終わった瞬間、いや、同時くらいに二人がさっと手を挙げる。

 わたしの視界の右と左。ちょうど対角線になっている二人――高井さんと赤川さんだった。


「高井さんと赤川さん、やってくるの?」


「うん、やりたい。高井とテスト勉強してた時に話してたんだ。ね、高井?」


「こういうとき、いっつも最上さんに頼ってたじゃない? だから、今回はわたしと赤川に任せてほしい」


「別にあれは、わたしがやりたくてやってるから気にしなくていいのに……」


「ダメ」


 と高井さんが言い切って、席を立つ。

 そのままわたしの隣に歩いてきて、


「さ、最上さんは座って? ここからはわたしと赤川でやるから」


「え、う、うん」


 教室を見る限り、高井さんと赤川さん以外に手を挙げている人も上げようとしている人もいない。

 というよりも、二人のやる気がすごすぎる。


「ほらほら。最上さんは席に戻って?」


 近くにやって来た高井さんに背中を押されて、席に戻るように促される。


 たしかに、実行委員が二人に決まったのなら、任せるべきだろう。いくらクラス委員でも出しゃばる場面じゃない。


「……わかった。お願い」


「任せて」


 高井さんの返事を聞いて、わたしは自分の席へと戻った。

 そのわたしと入れ替わるように、赤川さんがてれすの隣の席から黒板の前へと移動して、話し合いが再開される。


 先生や、過去にお化け屋敷をクラスでしたことのある子に意見を出してもらいながら話し合いは進んでいって、とりあえず必要なものが黒板に書き出された。


 衣装、道具、お化け役。

 

 これらを分担するらしい。

 書かれた黒板を見て、赤川さんがつぶやく。


「衣装って、どうするんだろう……」


 買うにしても、予算には限りがある。それに、買うと言っても衣装だけではないから、道具などとのバランスを取らないといけない。

 と、元気のいい声が鼓膜に届いた。横を向くと、犬飼さんが立ちあがって高々と挙手をしている。 


「はいはいはーい!」


「犬飼さん?」 


「わたし……はあんまり得意じゃないけど、ねこっちは裁縫もけっこうできるから、みんなでがんばれば何とかなると思う」


「ほんと?」


 と高井さんが猫川さんに確認を取る。

 話を振られた猫川さんはびっくりしたように肩を揺らしたけど、うなずいた。


「……えっと、うん」


 家庭科部は文化祭でお菓子を作って販売すると言っていたから、料理だけなのかと思っていたけど、そっか、勘違いをしていた。

 そりゃあ、料理もするんだろうけど、家庭科って他にもいろいろあるのだ。

 だって、料理だけなら料理部って名前のはずだもんね。


 猫川さんと犬飼さんは料理だけじゃなくてお裁縫もできるのか、とたぶんわたしだけでなくクラスのみんなが感心する。すごく女子力が高いなって思う。


 救世主が現れたことに、赤川さんもほっとした様子。


「それじゃ、衣装のリーダーは犬飼さんと猫川さんに任せるとして」


 犬飼さんに顔を向けていた赤川さんが、高井さんに目を戻す。


「高井。お客さんを呼ぶのは、やっぱりお化けだよね」


「まぁ、お化け屋敷だし」


「だよねだよね」


 赤川さんが、どこか一点を見つめてピタッと止まる。

 その視線を辿ると、てれすがいた。

 てれすはどうして自分が見つめられているのか理解できていないようで、可愛らしく小首をかしげている。


「ねぇ、高井」


「なに?」


「高千穂さんって、美人だよね?」


「急に何?」


「いいから」


「えぇ……? うん、そりゃあ、そうだと思うけど」


 それで? と高井さんは赤川さんに続きを促す。

 高井さんもわたしもてれすも、たぶんクラスのみんなが赤川さんが何を考えているのか、よくわかっていない。


「高千穂さんがお化けしてたら、人が来ると思わない? 例えば、お化けメイドさんとか、化け猫とか」


「何のお店をするつもりなの……」


「大丈夫大丈夫! お触りは禁止だから!」


「いや、お化け屋敷としてどうなのそれ……暗くて見えないと思うし」


「細かいことはいいじゃん!」


 ……そんなことがありつつも、みんなの役割を決めて終わる。


 猫川さんと犬飼さんをリーダーとした衣装班。

 小道具を作ったり、配置や仕掛けを考えたりするのは、お化け役の人が兼任することになった。

たしかにお化け役だけだと、本番まで衣装を合わせることくらいしかないから、いい感じだと思う。


そして、そのお化けリーダーを任されたのは。


「最上さん、お願いできる?」


「うん、任せて」


「あと、高千穂さんも」


「……ええ」


 今回は実行委員という大変な役割りを、高井さんと赤川さんに引き受けてもらっているだ。そのくらいは力になりたい。


 という感じで、みんなの分担が決まった。

 高井さんがチームごとに紙にメモして、それが終わったのを確認した赤川さんが言う。


「よぅし、それじゃあ具体的なお化けのことを考えよう? 衣装のこともあるし」


 ホームルームの残りの時間、誰がどんな格好でお客さんを驚かせるのか、という話し合いが行われるのだった。


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