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ありすとてれす  作者: 春乃
207/259

207話 出し物決定……だけど

「てれす、どうしたらいいと思う?」


 文化祭のクラスの出し物についての話し合いが行われた日の放課後。

 わたしは一緒に帰っているてれすに相談する。

 意見がたくさん出たのは、出ないことと比べたらいいんだけど、嬉しい悩みとなっていた。


 教室を使ったものだと、喫茶店などの飲食、それ以外だとお化け屋敷とか展示とか、短い映画みたいなムービーとか。

 他にも屋台のような模擬店(何を売るかは意見がたくさん)、体育館のステージを使った演劇など、本当にたくさんの意見が出ていた。

 

 いや、出すぎだ。

 どうやって、みんなが納得する形でまとめればいいのだろうか。


「そうね……」


 わたしの相談に、てれすはしばし考え込んでから口を開く。


「まずは絞り込むことよね。今のままだと選択肢が多すぎるから」


「そうだね。ちなみにだけど、てれすはしたいこととかってあるの?」


「わたし?」


「うん。ホームルームの時間、てれす寝てたでしょ? 途中で起きてくれたけど……」

 

 だから、てれすに何か意見があるとしたら言えていないはずだ。

 まぁ、イベントごとにあまり積極的とは言えないてれすのことだから、たぶんないとは思うけど……。

 けど、いいアイデアがあるかもしれない。


 指摘すると、てれすは少し頬を朱に染めながら申し訳なさそうに視線を逸らした。


「……特にないわ」


「そう?」


「ええ。できれば劇とか目立つようなことはしたくないけれど」


「たしかに。てれすだったら、主役とかになりそうだもんね。お姫様役とか似合いそう!」


 主人公でもヒロインでも、てれすならすごく注目を集めるだろうし、きっちりやり切ってくれる気がした。

 わたしもお姫様てれすを見て見たいなとは思うけど、隣を歩くてれすため息を吐く。


「勘弁して……」


「あはは……でもとりあえず、何をするか決めないと。やっぱりみんなにアンケートみたいな感じになるのかなぁ」


「ええ。結局は多数決になると思うわ」


「だね。てれす、話聞いてくれてありがと」


「いえ、別にわたしは何も」


「ううん、すごく助かったよ。次の話し合いのとき、投票みたいなことしてみようと思う」


 ただ、全部の候補を書いて、そこから一つ選んでもらうとかになると、あまり効果がないと思う。

 まずは、みんながどういったジャンルのことをしたいのか、方向性を決めてから具体的な内容について詰めていったほうがいいかもしれない。


 となると、喫茶店、出店、お化け屋敷、ステージみたいな感じから、選んでもらおうかな?


「あ、そうだ、てれす」


「なにかしら」


「次は寝ないでよ」


「…………」


「なんで黙るの!?」


「……前向きに検討するわ」


 とか言いつつも、きっとてれすのことだから、次のホームルームの時間はきっちり起きてくれるんだろうな。

 

 それから数日後。

 2度目の話し合いが行われた。

黒板の前に立ったわたしは、てれすにも手伝ってもらったお手製のアンケート用紙をクラスメイトに配る。


 それに記入してもらう前に、先生から他のクラスの様子なんかを聞かせてもらった。

 すでに出し物が決まっているクラスもあるのか、と感心しつつ、それを参考にして、わたしもアンケートに記入する。


 数分後、高井さんに手伝ってもらって、集計を行う。

 黒板に正の字を書いていって、


「――最上さん、これで最後。お化け屋敷」


「お化け屋敷っと……」


 最後のアンケートの回答を加えて、結果が出た。


「喫茶店が13票に、お化け屋敷が12票か……」


 他の模擬店やステージにも何票かは入っているけど、上位の二つとは少し離されている。

 たぶん、先生から教えてもらった事前情報で、他のクラスや部活動が模擬店をするところが多かった、というのが結果に繋がった気がする。


 とはいっても、その上位二つも過半数を超えているわけではない。


「では、喫茶店とお化け屋敷で決選投票を行いたいと思います。この二つの裡、したいほうを選んで書いてください」


 再びクラスメイトに紙を配って、記入してもらう。

 今は一票差で喫茶店が勝っているけど、最初の投票で喫茶店とお化け屋敷に入れなかった人によっては十分に逆転もあるだろう。


 うちのクラスの出し物は何になるのか。

 わくわくしながら、再度集計を行った結果。


「――というわけで、わたしたちのクラスの出し物は、お化け屋敷に決定しました!」


 わたしは小学校、中学校とやったことはないけど、これも王道だと思う。

 それに、お化け屋敷なら目立つようなことはないから、てれすも嬉しいのではないだろうか。


 クラスのみんなも、出し物が決まったことで盛り上がりを見せていた。

 仕事を終えたわたしは、自分の席に戻る。

 

 そして黒板の前に立った先生が、注目を集めるためにパンパンと手を叩いた。


「はいみんな。楽しみにするのは良いけど、忘れてないよね?」


 何か含みを持たせたような先生の物言いに、クラスメイト達は首をかしげる。代表して、犬飼さんが尋ねた。


「忘れるって、何をですかー?」


「何って、テストよテスト。期末テスト」


「え」


「中間テストで範囲はあまり広くないと言っても、油断しちゃダメよ? 補習とかになったら、準備に迷惑をかけることになるんだから」


 先生の一言に、さっきまではあんなに活気に溢れて楽しそうだったクラスがしんと静まり返った。

 かく言うわたしも、忘れてしまっていた。

 

 修学旅行に、文化祭と忙しいとはいえ、テストのことを忘れるなんて……。


 ちら、とてれすの方を見る。


 このクラスで唯一といってもいいかもしれない。

てれすは落ち着いていて、いつも通りの凛とした美人だった。


 その姿を見ていると、わたしも慌ててはいけないなと思う。

 焦ったところで、テストはなくならないのだ。

 それに、今までの授業だって普段通り受けているのだから、変に慌てる必要もないはず。今からでも、しっかり準備すればいいのだ。


 それに、またてれすと一緒に勉強会ができると思えば、中間テストだって楽しみになる。


 楽しい文化祭を迎えるために、中間テストがんばるぞ。


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