204話 修学旅行から帰宅
3泊4日の修学旅行が終わって、わたしは自宅への帰路に就いていた。
周りに見える見慣れた道や建物が、すごく懐かしくて帰ってきたなぁって強く感じることができた。
「あと少し……」
早くおうちに帰って、ゆっくりくつろぎたい。
お母さんの顔を見るのもなんだか久しぶりな感じがする。たったの3日で何かが変わるとも思えないけど、少し浮き立っていた。
お土産、喜んでもらえるかな……。
ちょっと不安だ。
でも、お菓子に関してはてれすも一緒に選んでくれたし、京都のお土産も京都っぽくて可愛いものを選んだつもりなので、きっと大丈夫。
親子だし、感性は似ていると思う。
ともあれ、一番は疲れたという気持ちでいっぱいだった。
他のクラスメイトや、てれすと一緒にいるときはまだ話をしたりして気が紛れていたんだろうけど、すっごくクタクタだ。
いつもの通学路を一歩ずつ、ゆっくり歩いていって、やがて自宅が見えてきた。
ここ、自分のおうちだよね? と一瞬思ってしまったけど、間違いなくうちだ。
表札には最上と書かれている。
時刻は夕方やや遅め。
学校があるとき、真っすぐ帰った時よりも遅い時間帯。
わたしは鍵を取り出してガチャッと開いて、扉を引いた。
「ただいまー」
何度も見た玄関。
やっと帰ってきたんだという安堵の気持ちが湧き上がってくる。
と、奥からドタバタと足音が聞こえて、お母さんが姿を見せた。エプロンで手を拭きながら、お母さんは優しく微笑む。
「おかえり、ありす」
「うん、ただいま」
お母さんの声を聞いた途端、安心したからか力が抜ける様な感覚になる。
カバンは下に下ろしてしまったけど、わたしは倒れるわけにはいかないので、なんとか耐えた。
「修学旅行、どうだった?」
「すっごく楽しかった。けど」
わたしは靴を脱ぎながら答えて、そして最後の力を振り絞ってカバンを持ち上げた。
両手で必死にリビングへカバンを運んで、力尽きたようにソファに倒れ込む。
「疲れたぁ……」
「あらあら、お疲れ様」
「うん。楽しかったから、はしゃぎすぎたかも」
「子供ねぇ」
「…………」
呆れたようにお母さんに言われたけど、言い返すことができなかった。
たしかに体調が悪いわけでもないのに、家に帰って来て倒れるほど遊ぶというか、みんなといたのはどれくらいぶりか。小学校低学年の頃以来かもしれない。
だけどもう高校2年生なわけで。
ちょっと恥ずかしくなったわたしは、起き上がってカバンをゴソゴソと探す。そして目当てのものを手に取って、机の上に置いた。
「はいこれ、お土産」
「あら、いいの?」
京都で買ったあぶらとり紙を手にして、お母さんが首をかしげる。
「うん。可愛いでしょ?」
「うん、ありがとうありす。大切に使うわ」
「それから、こっちがお菓子ね」
「まだあるの……って、そのキャラクター!」
大阪の遊園地で、てれすと一緒に選んだクッキーを机の上に置くと、お母さんが目を大きくさせた。
「そうだよ。大阪で買ったの」
「へぇ、やっぱり人気なのねぇ」
「うん。すっごく目立つところにあったし。それ、てれすが選んでくれたんだよ」
「あら、てれすちゃんが?」
「うん。どれがいいか、わたしだけだと決められなくって」
「さすがセンスがいいわねぇ。またお礼をしなくっちゃ」
「あはは、そうだね」
やっぱりてれすの選んでくれたものにして正解だったみたいだ。てれすにアドバイスを求めてよかった。
さすがはてれす。さすてれだ。
とりあえず、カバンにあるお土産は全部机に並べると、お母さんはそれを一つずつ見て、確認していく。
「これは? ポップコーン?」
「うん、抹茶の」
「あぁ、たしかに。美味しそう」
「だよね。あとで食べよ?」
清水寺でてれすとおそろいで買った組紐のキーホルダーは、学校に行くときのカバンに付けようと決めて、お土産のお披露目はおしまいとなった。
「楽しかったみたいでよかったわ」
「うん、すっごく楽しかった」
「よしよし。それが一番だものね」
よいしょ、とお母さんは立ち上がって、
「お腹空いてる?」
「うん、すっごく」
「それじゃ、準備するわね」
お母さんはキッチンへと移動していった。
いつもなら、わたしもご飯の準備を手伝わなきゃいけない。けど、今日はクッタクタだ……。でも、働かざる者食うべからずだし。
と思っていると、キッチンからお母さんの声が聞こえた。
「休んでていいわよ。すぐできるから」
「ありがと」
「いいえー」
そして数分後。
ご飯自体はできていたみたいで、すぐに食卓に夕飯が並べられた。
京都や大阪で美味しいものはいっぱい、観光地でもホテルでも食べたけど、やっぱりお母さんの作るお味噌汁や肉じゃがが一番美味しい。
数日ぶりのお母さんの手料理に、わたしは感謝しつつ舌鼓を打つのだった。




