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ありすとてれす  作者: 春乃
203/259

203話 帰りの新幹線

帰りの荷物についてです。

本文では書いていませんが、各自が先生の指示(強制ではない)でホテルから自宅へ郵送したことになっています。

よろしくお願いします。

 修学旅行の最終日、最後の予定である京都駅での自由行動を終えたわたしたちは、集合場所で点呼を受けていた。

 

 各クラスの担任の先生が丁寧に一人ひとりを確認していく。そしてどうやら、全員が無事にそろっていたようなので、最後に学年主任の先生がお話を始めた。

 帰るまでが修学旅行というお話を聞き終わって、わたしたちは関西にさよならを告げて地元へ帰るべく、新幹線に乗り込んだ。


 行きのときと同じ席順、一列目に高井さん、わたし、てれす。二列目に赤川さん、犬飼さん、猫川さんといった順番で座る。

 新幹線が動き出すまでの間、わたしたちは思い出話に花を咲かせた。

 犬飼さんが残念そうにつぶやく。


「もう帰っちゃうのかー、もう少し遊びたかったな」

 

 犬飼さんの言葉に、わたしもうなずく。


「たしかに、あっという間だった気がする。つい昨日、関西に来たって感じ」


「だよねだよね! 最上さんもそう思うよね」


「うん」


 修学旅行だから仕方のないことだけど、時間がきっちり決められていたから、回り切れなかった場所もたくさんある。

 特に京都の自由行動なんかは、一日じゃなくてもっと何日かでゆっくり観光したいと思う。


 てれすがどうだろう、と視線を送ると、てれすが苦笑を浮かべた。


「わたしは、正直クタクタだから、ちょうどいいくらいだと思うけれど」


「あー、てれすの言ってることもわかるかも。思ってる以上に疲れてるよね」


「ええ。いつもと違う場所や雰囲気で、あれだけはしゃいだんだもの」


「だねぇ……」


 この修学旅行では、まだたくさんてれすの新しい一面も見られたと思うし、さらに仲良くなったと思う。

 てれす自身も楽しんでいたみたいだし、この6人の中はかなり深まった。


 次に控えている文化祭はもちろん、今後の学生生活でも大きな意味のある旅行になったはず。4月のてれすからすれば、考えられないほどに。

 というか、そう。

 次は文化祭があるのだ。

 2年生はすごく多忙な2学期だなぁと思っていると、わたしたちの会話を聞いた犬飼さんが不満そうに言った。


「えぇ! わたしはまだ一週間くらいは余裕だよ! みんなと一緒にもっといろんな場所とか行きたかったなぁ!」


「嬉しいけど、さすがに一週間は……」


 高井さんや赤川さん、猫川さんもけっこうぐったりしているのに、犬飼さんはどれだけ元気なんだろう。

 感心というか、運動部ってわけでもないのに底知れに体力に尊敬してしまう。


 と、そんな感じで思い出を話していると、新幹線が動き出した。

 それから十数分。

 行きはあれだけ賑やかで盛り上がっていた新幹線の中も、しんと静まり返っている。聞こえてくるのは寝息が主で、それに気を遣ってか起きている生徒の話す声もかなり小さめだった。


 わたしたちの班も、てれすを除いてみんなぐっすりだ。

 

「みんな寝ちゃったね、てれす」


「ええ。やっぱり疲れていたのよ」


「うん」


 後ろをちらっと見ると、特に犬飼さんが一番気持ちよさそうに眠っていた。

 あと一週間はみんなと旅行していたいと、ついさっき言っていたのに、爆睡である。


 と思っているわたしも、人のことはあまり言えそうもない。

 かなり眠い。

 てれすは寝ないのかな? と思って、話しかける。


「……てれすは眠くないの?」


「…………」


「てれす?」


 顔がわたしとは反対に向けられているので、表情はわからない。

 でも、返事がないってことは、とてれすの顔を覗き込むと、


「あ、寝てる」


「…………」


 静かな可愛らしい寝息を立てて、てれすは眠っていた。

 長いまつげや白い肌、整った顔立ち。肌とは対照的な長い黒髪に見惚れていると、わたしの瞼も段々と重たくなっていき、夢の中へといざなわれた。






「――す。ありす」


「――ッ」


 身体を揺さぶられて、わたしは目を開ける。


「……てれす?」


「ええ。おはよう、ありす」


「お、おはよう」


 目覚めてすぐのてれすも美人。

 ふわりと柔らかく陽だまりのような笑みを浮かべるてれすに、少しだけどぎまぎしてしまう。

 

「あ、もしかして、もう着いた?」


「いえ、まだ。でも、もう少しだから、先生が起こせって」


「そっか」


 周りを見てみると、他の子たちも起こされていた。

 

「もう帰ってきたんだね」


「ええ」


 てれすの表情は地元に帰ってきた安心感と、もうすぐ修学旅行も本当におしまいだということで、少しの寂しさが滲んで見えた。

 きっとわたしも同じような表情をしているのだろう。

 そのくらい充実している修学旅行だった。


 そして、先生がまだ寝ている生徒がいるなら起こしてあげてとクラスに言って、わたしとてれすで他の班員を起こしていく。

 一番最後まで起きなかった犬飼さんにてこずったけど、なんとかみんな起きて、出発した駅に帰ってきた。


 先生からお話があって、この駅で解散。

 みんな疲れ切った表情や安堵した表情、眠たい目を擦りながら、それぞれの帰路に就く。

 高井さんたちともお別れをして、わたしとてれすは電車に乗った。


 わたしのお家の最寄り駅に到着して、


「それじゃあね、てれす」


「ええ、また」


「うん。またね」


 手を振って別れて、わたしは自宅へと足を進める。

 見慣れた景色がすごく久しぶりな感じで、返ってきたということを実感した。


「……なんだか懐かしいかも」


 こうして、無事に街に帰ってこられた。

 けど、先生も言っていた通り、まだ修学旅行は終わっていない。

 おうちに帰るまでが修学旅行なのだ。


 わたしは眠気を振り払うように頭を振って、再び歩き出した。


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