201話 金閣寺
清水寺を後にしたわたしたちは、続いて同じくらい有名であろうお寺、金閣寺へとやって来た。
金閣寺と言えばやっぱり金箔がまんべんなくふんだんに使われて、黄金に光り輝くお寺。
中学校でも高校でも、歴史の教科書に室町幕府の3代将軍の足利義満が建立したお寺として載っている。
もちろん写真も載っているし、テレビなどでも見たことはあるけど、実際に見るとなるとすごく心が弾んだ。わっくわくである。
班員のみんなも同じようで、犬飼さんはスキップでもしそうなほどの勢いだった。
「どのくらい金ぴかなんだろうね!」
「……すっごいと思う。楽しみ」
普段落ち着いている猫川さんも、今回薔薇仮は興奮を隠しきれないといった様子。
そんな風に、わいわいとみんなでおしゃべりをしつつ、拝観料を支払う。
と、
「……お札?」
拝観料を支払った後、入り口でお姉さんにもらったのは、パンフレットとお札。
パンフレットはわかる。でもこういうのって、神社やお寺で買うようなものだと思うけど、もらってもいいのだろうか。
しかも、金閣寺でもらったお札だけに、ものすごく効力がありそうだ。
わたしがお札を眺めていると、同じくパンフレットとお札を手にしたてれすが隣に並んだ。
「どうしたの、ありす」
「いや、これもらってもいいのかなって」
「ええ。入場時にもらえるみたいよ」
「へぇ、そうなんだ。嬉しいっていうか、すっごい守ってくれそうだよね」
「たしかにそうね」
苦笑を浮かべたてれすに、わたしも笑みを返して、わたしたちは金閣寺を見るために足を進めていく。
道中、金閣寺というのは通称で、本当は鹿苑寺ということを学んで、歩くこと少し。
目的である金閣寺の姿が見えた。
「おぉー! すっごい!」
池の向こうに佇んでいるのが、間違いなく金閣寺だろう。そのくらい、金色に輝いていた。
3層の造りになっていて、2層目と3層目が金箔を貼られて照り輝いている。屋根の部分の黒色との相性もすごくよくて、威厳というか、言葉では言い表せないような荘厳な雰囲気を漂わせていた。
さらに、池の水面にはさかさまに映った金閣寺が映っていて、本当に写真のような美しい世界観が目の前に創り出されていた。
あの犬飼さんも静かになって、スマホで撮影をしている。
隣にいるてれすも、何を発するでもなく金閣寺を眺めていた。
「てれす、なんか圧倒されちゃうよね」
「ええ。これは、すごいわね……。圧巻というか、本当に存在しているのか、わからなくなりそう」
「あはは、ちゃんとあるって」
てれすの言葉に苦笑しつつも、なんとなく言っていることには同意することができた。
そのくらい、すごいということだ。
てれすと金閣寺を交互に眺めて、わたしが一つ閃く。
「写真撮ろうよ。そしたら、ちゃんと存在してるってわかると思うよ」
「……そうね」
と、てれすが承諾してくれたので、わたしはスマホを取り出してカメラを起動させた。
自撮りモードにして、スマホを構える。
「てれす、もう少し近くに来られる?」
「え、ええ。このくらいかしら?」
「うん、もう少し」
「え、ええ……」
てれすと肩がピッタリ密着する。
隣を向くと、すぐ傍にてれすの顔があって、ドキッとしてしまうけど、それを隠すようにわたしはスマホの位置の調整をした。
金閣寺がきちんと入るようにして、
「それじゃ、撮るよ?」
「ええ」
さすがに今回は、ねこてれすにするのは雰囲気的に憚られたので、普通の写真で。
だけど。
「てれす、もう少し笑ってくれない?」
「え? そう言われても、困るわ……」
「あ、うーん、そうだよね」
たしかに、笑えと言われて笑うのは難しいだろう。
なら、このままでいいか。
このままでも、てれすは十分に写真写りは良いし、いつも通り凛とした美人さんだ。
「それじゃ、撮るね」
「え、構わないの?」
「うん、いいよ」
「そ、そう……」
きっとてれすは心の中で、どっちなんだろうとか思っているのかもしれない。
だからこそ、少しだけてれすの頬が緩んだのを見逃さずに、わたしはシャッターを切った。
確認すると、二人とも目をつぶっていたりしていないし、金閣寺もばっちり映っている。
「てれす、どうかな?」
「いいんじゃないかしら」
「それじゃ、MINEに送っておくね」
「ええ、ありがとう。でも」
「でも?」
なにかミスでもしてしまったのか、そう思っててれすに尋ねる。
わたしの心中を察したのか、てれすは首を小さく振りながら答えた。
「いえ、もう少し時期が遅ければ、紅葉が綺麗だったと思うから、もっとよかったのにと思っただけよ」
「あー、たしかに」
今でも十分以上に美しい景色だけど、ここに色鮮やかな紅葉が足されれば、もっと絵画のような世界が出来上がるだろう。
ぜひ、見てみたいなと思った。
てれすと一緒に。
「また来ようよ。紅葉の時期に」
「そうね。でも、京都は少し遠いわね」
苦笑いを浮かべるてれすに、わたしも「そうだね」と同意しつつ、
「そやあ、今年とか来年は難しいかもしれないけど、いつか。いつか来ようね」
わたしの言葉にてれすは、一瞬驚いたように目を大きくさせたけど、すぐに柔らかく微笑んでくれた。
「ええ。楽しみにしているわ」
「うん。約束だからね」
未来のことはわからない。
高校を卒業したら、お互いにどうなるかわかんないし。もっと近いこと。三年生になってからのこともわからない。
でも、この約束が果たされたらいいな。
そんなことを想って心がぽわっと温かくなるのを感じながら、わたしはてれすのMINEに写真を送るのだった。




