表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありすとてれす  作者: 春乃
201/259

201話 金閣寺

 清水寺を後にしたわたしたちは、続いて同じくらい有名であろうお寺、金閣寺へとやって来た。


 金閣寺と言えばやっぱり金箔がまんべんなくふんだんに使われて、黄金に光り輝くお寺。

 中学校でも高校でも、歴史の教科書に室町幕府の3代将軍の足利義満が建立したお寺として載っている。


 もちろん写真も載っているし、テレビなどでも見たことはあるけど、実際に見るとなるとすごく心が弾んだ。わっくわくである。

 班員のみんなも同じようで、犬飼さんはスキップでもしそうなほどの勢いだった。


「どのくらい金ぴかなんだろうね!」


「……すっごいと思う。楽しみ」


 普段落ち着いている猫川さんも、今回薔薇仮は興奮を隠しきれないといった様子。

 そんな風に、わいわいとみんなでおしゃべりをしつつ、拝観料を支払う。

 と、


「……お札?」


 拝観料を支払った後、入り口でお姉さんにもらったのは、パンフレットとお札。

 パンフレットはわかる。でもこういうのって、神社やお寺で買うようなものだと思うけど、もらってもいいのだろうか。

 しかも、金閣寺でもらったお札だけに、ものすごく効力がありそうだ。


 わたしがお札を眺めていると、同じくパンフレットとお札を手にしたてれすが隣に並んだ。


「どうしたの、ありす」


「いや、これもらってもいいのかなって」


「ええ。入場時にもらえるみたいよ」


「へぇ、そうなんだ。嬉しいっていうか、すっごい守ってくれそうだよね」


「たしかにそうね」


 苦笑を浮かべたてれすに、わたしも笑みを返して、わたしたちは金閣寺を見るために足を進めていく。


 道中、金閣寺というのは通称で、本当は鹿苑寺ということを学んで、歩くこと少し。

 目的である金閣寺の姿が見えた。


「おぉー! すっごい!」


 池の向こうに佇んでいるのが、間違いなく金閣寺だろう。そのくらい、金色に輝いていた。


 3層の造りになっていて、2層目と3層目が金箔を貼られて照り輝いている。屋根の部分の黒色との相性もすごくよくて、威厳というか、言葉では言い表せないような荘厳な雰囲気を漂わせていた。


 さらに、池の水面にはさかさまに映った金閣寺が映っていて、本当に写真のような美しい世界観が目の前に創り出されていた。


 あの犬飼さんも静かになって、スマホで撮影をしている。

 隣にいるてれすも、何を発するでもなく金閣寺を眺めていた。


「てれす、なんか圧倒されちゃうよね」


「ええ。これは、すごいわね……。圧巻というか、本当に存在しているのか、わからなくなりそう」


「あはは、ちゃんとあるって」


 てれすの言葉に苦笑しつつも、なんとなく言っていることには同意することができた。

 そのくらい、すごいということだ。


 てれすと金閣寺を交互に眺めて、わたしが一つ閃く。


「写真撮ろうよ。そしたら、ちゃんと存在してるってわかると思うよ」


「……そうね」


 と、てれすが承諾してくれたので、わたしはスマホを取り出してカメラを起動させた。

 自撮りモードにして、スマホを構える。


「てれす、もう少し近くに来られる?」


「え、ええ。このくらいかしら?」


「うん、もう少し」


「え、ええ……」


 てれすと肩がピッタリ密着する。

 隣を向くと、すぐ傍にてれすの顔があって、ドキッとしてしまうけど、それを隠すようにわたしはスマホの位置の調整をした。


 金閣寺がきちんと入るようにして、


「それじゃ、撮るよ?」


「ええ」


 さすがに今回は、ねこてれすにするのは雰囲気的に憚られたので、普通の写真で。

 だけど。


「てれす、もう少し笑ってくれない?」


「え? そう言われても、困るわ……」


「あ、うーん、そうだよね」


 たしかに、笑えと言われて笑うのは難しいだろう。

 なら、このままでいいか。

 このままでも、てれすは十分に写真写りは良いし、いつも通り凛とした美人さんだ。


「それじゃ、撮るね」


「え、構わないの?」


「うん、いいよ」


「そ、そう……」


 きっとてれすは心の中で、どっちなんだろうとか思っているのかもしれない。

 だからこそ、少しだけてれすの頬が緩んだのを見逃さずに、わたしはシャッターを切った。


 確認すると、二人とも目をつぶっていたりしていないし、金閣寺もばっちり映っている。


「てれす、どうかな?」


「いいんじゃないかしら」


「それじゃ、MINEに送っておくね」


「ええ、ありがとう。でも」


「でも?」


 なにかミスでもしてしまったのか、そう思っててれすに尋ねる。

 わたしの心中を察したのか、てれすは首を小さく振りながら答えた。


「いえ、もう少し時期が遅ければ、紅葉が綺麗だったと思うから、もっとよかったのにと思っただけよ」


「あー、たしかに」


 今でも十分以上に美しい景色だけど、ここに色鮮やかな紅葉が足されれば、もっと絵画のような世界が出来上がるだろう。


 ぜひ、見てみたいなと思った。

 てれすと一緒に。


「また来ようよ。紅葉の時期に」


「そうね。でも、京都は少し遠いわね」


 苦笑いを浮かべるてれすに、わたしも「そうだね」と同意しつつ、


「そやあ、今年とか来年は難しいかもしれないけど、いつか。いつか来ようね」


 わたしの言葉にてれすは、一瞬驚いたように目を大きくさせたけど、すぐに柔らかく微笑んでくれた。


「ええ。楽しみにしているわ」


「うん。約束だからね」


 未来のことはわからない。

 高校を卒業したら、お互いにどうなるかわかんないし。もっと近いこと。三年生になってからのこともわからない。


 でも、この約束が果たされたらいいな。

 そんなことを想って心がぽわっと温かくなるのを感じながら、わたしはてれすのMINEに写真を送るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ