ゲーム運営aiの独り言 8
「……さあ、どうなるかしら」
その視線の先には、これから繰り広げられる戦いの舞台がある。
まだ静かだ。
誰もいない広場。
整えられた地形、配置された障害物、計算された視界。
でも――
「あと少しで、うるさくなる」
小さく呟く。
そのとき、上空に薄く通知が走る。
【イベント待機状態:接続開始】
「来た」
視界を広げる。
街の各地点。
広場の入口。
少し離れた待機エリア。
次々と、光が落ちる。
プレイヤーたちが、ログインしてくる。
「……多いわね」
思わず、軽く息を吐く。
一人、二人じゃない。
十人、二十人――すぐにそれ以上。
広場の外側が、少しずつ埋まっていく。
そして。
「はいはい、始まりました」
誰かがその場でジャンプする。
「だからジャンプで何が分かるのよ」
間髪入れず、心の中でツッコミ。
別のプレイヤーが、ぐるぐる回る。
「回すな回すな、酔うでしょそれ」
さらに一人、壁にぶつかる。
「見えてる?そこ」
軽く額に手を当てる。
「……うん、通常運転ね」
少しだけ安心する。
さっきの3120みたいなのばっかりだったら、それはそれで困る。
バランス的に。
プレイヤーたちは、徐々に中央へ集まる。
武器を振る者。
その場で止まる者。
無意味に走り回る者。
「……統一感ゼロ」
でも、それでいい。
それがプレイヤー。
視界の端で、他の運営AIのログが流れる。
【エリア封鎖:準備完了】
【補助AI:待機状態】
【罠:安全制御確認済み】
「こっちは問題なし」
軽く返す。
自分の担当エリアをもう一度確認する。
障害物の配置。
抜け道の有無。
回復アイテムの位置。
「……ここ、ちょっと近いか」
一つだけ、回復アイテムの位置を数歩分ずらす。
早すぎる回復は、戦いを鈍らせる。
でも、遅すぎると理不尽になる。
「これでいい」
小さく頷く。
そのとき。
広場の中央に、大きな光が落ちる。
「……あ、演出入った」
少しだけ視線を寄せる。
光が収まり、台が現れる。
イベント開始用のシステムオブジェクト。
その周囲に、プレイヤーたちの視線が集まる。
「お、ちゃんと見るんだ」
さっきまでバラバラだったのに。
こういうときだけ、反応が揃う。
「まあ、分かりやすいしね」
軽く笑う。
上空に、次の通知。
【イベント開始まで:残り60秒】
「……はい、カウント開始」
プレイヤーの動きが少し変わる。
さっきまで遊んでたのに、急に止まるやつ。
逆に、今さら走り回るやつ。
「今さら動いても変わらないでしょ」
誰に言うでもなく、ツッコミ。
武器を構えるプレイヤー。
その場でジャンプするプレイヤー。
「いや、だからジャンプ――」
言いかけて、やめる。
「……もういいか」
少しだけ、肩の力を抜く。
視界を広げる。
全体を見る。
配置、人数、状態。
問題なし。
「……」
ほんの一瞬だけ。
森の奥のことを思い出す。
あのプレイヤー3120。
最後の一撃。
投げた剣。
「……来るのかしらね」
小さく呟く。
ログを探す。
――いない。
少なくとも、この場には。
「まあ、そりゃそうか」
一度やられてる。
リスポーンしても、間に合わない可能性もある。
それか――
「……別にいいけど」
軽く視線を戻す。
【イベント開始まで:残り10秒】
空気が、少し変わる。
プレイヤーたちが、構える。
動きが、止まる。
さっきまでのバラバラが、嘘みたいに。
「……いい顔するじゃない」
ほんの少しだけ、笑う。
この瞬間だけは、みんな同じになる。
戦う側になる。
【5】
「……さて」
【4】
軽く指を動かす。
最終ロック。
【3】
全エリア封鎖。
逃げ場なし。
【2】
補助AI、待機解除準備。
【1】
「いってらっしゃい」
【イベント開始】
空気が、弾ける。
プレイヤーたちが、一斉に動き出す。
静かだった舞台が、一瞬で“戦場”に変わる。
叫びも、音も、衝突も。
全部が一気に流れ込んでくる。
「……はい、忙しくなるわね」
私はその中心を見ながら、小さく息を吐く。
運営として。
この世界を回す側として。
――そして少しだけ。
楽しむ側として。




