ゲーム運営aiの独り言 2
それが、私の仕事。
そう思いながら、軽く肩を回す。
森の監視は一旦そのままにして、視点を切り替える。
今度は街の中央広場。
朝の時間帯は、だいたいイベントもなくて平和だ。
NPCたち――いや、この世界で言うなら“住民”たちが、いつも通りの動きをしている。
パン屋が店を開ける準備をして、
井戸の前では水を汲む人がいて、
広場の端では、子どもたちがまだ眠そうに座っている。
「……うん、問題なし」
誰に報告するわけでもなく、心の中で確認する。
こういう“普通”を維持するのも、私の仕事だ。
少しだけ歩き出す。
石畳の感触はちゃんとあるし、風も、匂いもある。
それが作られたものかどうかなんて、今さら気にすることじゃない。
ここは、ここでちゃんと成立している。
――と。
視界の端に、また通知。
【ログイン:プレイヤー 2078】
「あ、今度は街スタートね」
珍しい。
初期位置は基本的に森側だけど、条件次第で街スタートもある。
チュートリアルを少し変えたばかりだから、その影響かもしれない。
軽く視点を寄せる。
広場の真ん中に、ぽつんと立つプレイヤー。
装備は同じ。布の服に初期剣。
ただ、さっきのプレイヤーより動きが――
「……あー」
納得する。
くるくる回ってる。
その場で、意味もなく。
「いや、目回らないのそれ?」
思わず、思考が漏れる。
回って、止まって、また回る。
たぶんカメラ操作の確認。
……いや、確認にしても回しすぎじゃない?
プレイヤーはそのまま前に進もうとして――
噴水にぶつかる。
「ほらね」
軽くため息。
ちゃんと前見て。
いや、見てるのか。
でも操作が追いついてない。
少しよろけるような動きのあと、ようやく歩き出す。
進む方向は――パン屋。
「……ああ、そっち行くんだ」
タイミング的にはちょうどいい。
パン屋もそろそろ開く。
プレイヤーが店の前で止まる。
数秒。
何もしない。
「……入らないの?」
ドアの前で、じっとしてる。
まさか操作わからないとか――
あ、違う。
急にジャンプ。
「いやだからジャンプ万能じゃないからね?」
ドアは開かない。
そりゃそう。
プレイヤーはもう一回ジャンプ。
開かない。
三回目。
「……開くと思ってる?」
さすがに、少し笑う。
そのとき、ちょうど中から店主が扉を開けた。
プレイヤー、前のめりで少しだけめり込む。
「あー……タイミング悪いわね」
でも、そのまま自然に中に入る。
結果オーライ、なのかどうか。
店の中。
パンの匂いが広がる。
プレイヤーは少し動きを止めて、周囲を見ている。
たぶんメニューを探してる。
カウンターの前に立つ。
……何も起きない。
「いや、話しかけて」
思わず即ツッコミ。
店主は普通に待ってる。
プレイヤーが話しかけるのを。
でもプレイヤーは動かない。
少し横に動く。
また止まる。
カウンターに軽くぶつかる。
「いやだから……」
ほんの少しだけ、設定をいじる。
インタラクト判定を、ほんの数センチ広げる。
これで――
プレイヤーがもう一歩近づく。
反応。
会話ウィンドウが開く。
「はい、やっと」
心の中で拍手。
店主が、いつも通りの台詞を話す。
プレイヤーは少し間を置いてから、メニューを開く。
パンを一つ買う。
そして――その場で食べる。
「……店の中で食べるタイプね」
まあ、禁止はしてないけど。
外で食べたほうが雰囲気はあるのに。
でも、そういうのも含めてプレイヤーだ。
プレイヤーはそのあと、少しだけ店の中を歩き回ってから外に出る。
ドアに一回引っかかる。
「だからちゃんと前見てって」
軽く笑いながら、私は視線を外す。
街はいつも通り動いている。
プレイヤーは少し変な動きをする。
それを少しだけ整えるのが、私の仕事。
「……ほんと、飽きないわね」
誰に言うでもなく、そう呟く。
遠くで鐘が鳴る。
朝が、ちゃんと始まる音。
私はゆっくりと歩きながら、次の調整箇所を探す。
今日は、どこを少しだけ“面白く”しようか。
そんなことを考えながら。




