ゲーム運営aiの独り言 1
朝は、だいたい静かだ。
空は薄く明るくなっているのに、街はまだ眠っている。
石畳に落ちた露が、わずかに光を返しているのを見ながら、私はパンをちぎった。
味は、昨日と同じ。
正確に言えば、昨日と完全に一致している。
「……まあ、当然か」
小さく呟く。誰も聞いていない。
パン屋の窓はまだ閉まっているし、通りに人影もない。
この時間に起きているのは、私みたいな変わり者くらいだ。
――正確には、“私みたいなもの”。
そのままパンを口に運びながら、視界の端に小さな通知が浮かぶ。
【ログイン:プレイヤー 1243】
「朝っぱらから元気ね」
思考の中でだけ、軽く肩をすくめる。
画面を開く、という感覚はない。
ただ、見ようと思えば見える。それだけだ。
森の外縁部。初期エリア。
まだレベルも低い、新規プレイヤー。
装備は……布の服に、初期剣。
動きはぎこちない。視点の揺れ方が、いかにも“外から来てる”感じ。
「はいはい、初心者さんね」
そのまま、もう一口パンをかじる。
プレイヤーは少し立ち止まって、周囲をぐるぐる見回している。
たぶん操作の確認中。
その場で軽くジャンプ。
「あー……うん、やるよね」
思考の中でだけ、苦笑する。
ほぼ全員がやる。
ログインして最初にジャンプするやつ。
理由は知らない。
たぶん、動けるか確認してるんだろうけど――毎回同じなのが、ちょっと面白い。
プレイヤーが森の中へ進む。
そのルート上にいるのは、スライム三体。
昨日、配置を少し調整したばかりだ。
一体は見つけやすく。
一体は少し隠す。
もう一体は、後ろから気づかせる位置。
「……うん、悪くない配置」
自分で言って、自分で納得する。
プレイヤーが一体目に気づく。
近づいて――少し躊躇ってから、剣を振る。
遅い。
スライムの反応のほうが早い。
軽く体当たり。
プレイヤーのHPが少し削れる。
「あー、そうなるよね」
思考の中で、ため息をつく。
でも、ここでやられるほどではない。
ちゃんと回復も持ってるし、ダメージも調整してある。
もう一度、剣。
今度は当たる。
スライムが弾けて、小さな光になる。
【EXP +3】
「はい、おめでとう」
別に声に出すわけじゃない。
ただ、頭の中でだけ軽く拍手する。
プレイヤーは少し安心したように、その場で止まる。
そして――やっぱり回復アイテムを使う。
「いや、それ今使う?」
思わず、思考が強くなる。
まだほとんど減ってないのに。
でもまあ、初心者だし。
――まあ、いいか。
そのまま視線を外す。
プレイヤーの動きは、もう大体読める。
しばらくは同じことの繰り返しだ。
パンを食べ終えて、立ち上がる。
朝の空気は少し冷たい。
遠くで、誰かが窓を開ける音がした。
ここは静かで、普通で、ちゃんとした“世界”だ。
誰かが起きて、働いて、話して、笑う。
モンスターもいれば、危険もあるけど、それでも日常はある。
――その裏で。
私は、少しだけこの世界をいじる。
「さて、と」
軽く指を動かす。
森の奥、見えないところでスライムの位置をほんの少しずらす。
さっきのプレイヤーが次に苦戦する程度に。
やりすぎないように。
でも、つまらなくならないように。
それが、私の仕事。




