リリーの誕生日
ロンドンのアパートのリビングの壁は上品なライトブラウンで塗られ、使い込まれたソファーの上にはカラフルなクッションが散らばっている。
玄関のドアが開き、「ただいま!」という甲高い声と共にリリーが飛び込んできた。
サラサラの赤毛が肩まで流れ落ち、その中心で輝く緑の瞳は子供のようにキラキラしている。
彼女は手に持っていたハンドバッグを床に置き、リビングの中央にあるローテーブルに駆け寄った。
そこには、金髪の癖っ毛が光を反射し、灰色の瞳を持った快活なルームメイトのラベンダーがテキストブックを広げている。
「ラベンダー! 聞いてよ! 最高の誕生日だったの!」
リリーはソファーに飛び乗って興奮を隠せない様子で身を乗り出し、ラベンダーはテキストブックに栞を挟んでにっこり微笑んだ。
「お帰り、リリー。って言っても、まだこんな時間だけど。今日はオリバーの家で丸一日過ごしたんでしょ?」
「そう! オリバーって本当に気が利くの! もう最高! 朝、オリバーの家に行ったらね、まずブランチが用意されてたの。彼はスポーツ好きだからよく食べるんだけど、今日は私の好きなパンケーキを作ってくれたの! メープルシロップと、ラズベリーがいっぱいだったわ♪」
ラベンダーはクスッと笑った。
「あぁ、あのオリバー特製の甘すぎて倒れそうなやつね。想像できるわ。」
「倒れないよ、幸せで満たされるだけ! それでね、ブランチの後にオリバーが『午後は賑やかな方が楽しいだろ?』って言うから、何かなって思ったら……」
リリーは一息入れ、まるでサプライズを今体験しているかのように声を潜めた。
「彼の双子の姪っ子のペチュニアとデイジーが来たの! あのね、2人とも本当に可愛くて、私に手作りのバースデーカードをくれたのよ。ペチュニアは猫の絵、デイジーは王冠の絵だったわ。」
リリーは立ち上がり、2枚の色鉛筆で描かれたカードをハンドバッグから取り出してラベンダーに見せた。
「あら、可愛いじゃない。オリバーったら、相変わらずマメね。リリーが子供好きなのを知ってるもの。」
「そうなの! それで、3人で一緒に公園に行ってフリスビーで遊んでたんだけど、オリバーがフリスビーを取る時に足がもつれて泥まみれの芝生にダイブしちゃったの!」
リリーは思い出し笑いを堪えきれずにソファーで転がり、彼女が子供のように無邪気に笑う姿を見てラベンダーはテキストブックを完全に閉じた。
「まあ、オリバーらしいエピソードね。それで夜はどうしたの?」
「ディナーはね、オリバーが焼いてくれたローストチキンと、私が大好きなスパークリングワインだったの。それから、私がずっと欲しかったヴィンテージの緑色のガラスの花瓶をプレゼントしてくれたのよ!」
リリーの顔は、もうこれ以上ないほど幸福に輝いている。
「オリバーとの誕生日は、いつも幸せで満たされるの。私を、私らしくいさせてくれるから……♡」
一通り話し終えたリリーが満足の溜め息をついた時、ラベンダーは立ち上がってローテーブルの下から何かを取り出した。
それは、彼女が今日一日隠していた小さな包みとデパートの袋だ。
「さあ、リリー。彼氏とのデートが終わったなら、次はルームメイトとの時間でしょ? オリバーとは違う、アパートのリビングでのバースデーよ。」
ラベンダーはリリーの前に小さなラベンダーカラーのケーキを乗せた皿と、紅茶のマグカップを置いた。
「誕生日おめでとう、リリー。オリバーのパンケーキとは違って、食べても倒れない上品なケーキにしたわ。」
「ラベンダー……!」
リリーはまた立ち上がり、今度はラベンダーに勢いよく抱きついた。
「ありがとう、ラベンダー! 世界で一番頼りになるルームメイト! これで、私の誕生日が完璧になったわー!」
リリーは涙ぐみ、子供のような話し方で感謝の言葉を繰り返した。
「さあ、早くケーキを食べてプレゼントを開けなさい。明日も仕事なんだから早く寝るのよ、リリー。」
「うん!」
リリーはオリバーのくれた緑の花瓶を傍らに置き、ラベンダーの用意したケーキを嬉しそうに見つめている。
ロンドンの夜が、彼女達の暖かなリビングを優しく包み込んでいた。




