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Hypersomnia〜幻想と現実の旅人〜  作者: 七瀬渚
★君のいる世界★
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三つ夢


ーー涙が滲んでしまう程、凄まじい雑音と圧迫感に声も出せないまま悶えてた。もうやだ…!絞り出すように声を上げようとした。


あ、ああ、とかすれた呻きだけがやっと出せた。参ったな、また誰か起こしてしまうかも知れない。頼むから治まって、早く…!そう願ったときようやく解き放たれた。




身動きなら取れるようになった。だけど決して楽ではないと知った。思い出した、私の時空の旅はまだ続いているんだとめまぐるしく流れる景色に身を委ねながら。




それはいつか何かのアニメだか映画だかで見たタイムマシーンからの景色のようだった。モモもシンもルナもマミも居ない。レオとサキはきっとまだあっちの時代で眠ったまま。私は独りきり。



ただただ続いていく。夕暮れの花園、曇りの海辺、広大な緑の平野、森の中の教会…かつて身を置いていた景色たちが、ただただ美しく煌めいては過ぎていくだけ。



ああ、このままきっと、もうそろそろ現代に戻るんだ…そんな予想さえやがて裏切られた。恐れていた事態が起きた。



流れる景色にデジャヴを感じる。さっきも見た、さっきも通った。まさか…ループしてる…?私の焦燥は膨らんでいく。



そんな、嫌だよ。このまま出られないなんて、いくら美しい景色でも繰り返すなんて嫌だよ。もう前に進みたいよ、未来が見たいよ。




ーーあなたを探している人が…ーー




脳内で語りかける彼女に言った。



どうしよう、ルナ。いないよ、見つからないよ、そんな気配何処にもないよ…


もういいでしょ?休んでも私…





疲れたよ。






一言、こぼした最後。それを機に流れる駿足の景色が速度を緩めた。それからまた速くなっていく。今までのどれよりも凄まじいその勢いは私の身体ごと天へ上昇させていく。途方もなく遠い場所へ連れていく。



視界に混じってくる藍とちらつく光の粒。その正体を知るときにはすでに遅く、私はもうその場に居たんだ。






風さえない、静寂。







眼下の青い星。









真空なのに何故か原型を保っている私の身体と意識。この世界はこんなのもありなのか、と思いながら見渡した。広大過ぎる、終わりの見えない宇宙の中で。




まるで何十年、何百年と時を超えてきたみたい。いや、超えてしまったのかも知れない。今見えているこの地球も私が知る時代のものじゃないのかも知れない。



はは…と乾いた笑いがこぼれた。漂いながら思ってた。


未来が見たい、なんて願ったからかな。それならしょうがない、自分で願ったんだから、と。



やがて月の側に辿り着いた。初めて目前にする月面はこうして見るとただ虚しい死の大地のよう。私はそこへ両足を落ち着かせた。今の私にはむしろ似合っている場所とさえ思って。




しばらくじっとそうしていた。懐かしい地球を見下ろしながら、いいんだ、と呟いてみた。




これで、いいんだ。


現代に居てもどうせ私は付いていけない置いていかれるだけの存在。時代は前へ進む。みんなを連れて進んで行くんだ。



過去に取り残される存在がほい、と未来に飛んだだけじゃないか。忘れ去られるのは同じ、何も変わらない。変わらなければいい。



…もう、何も止めたくないんだから。






ふと、後ろから気配を感じた。お節介なレオが目を覚まして迎えに来たのか…そんな風に予想した。


ヴァンパイアが時空を超えるなんて聞いたこともないけれど、何せあっちの世界の常識など通用しないファンタジーな世界だ。思春期真っ盛りの女子の入浴中に裸の男が平然と入ってくるような世界だ。何もおかしなことはない、なんて思った。




だけど…





片方の手にそっと触れた、温かさ。視線を落とした。確かに重なっている二つの手。



それから見上げた。そのまま固まった。遅れて、呼んだ。






タカ……?






あり得ない場所、あり得ない環境、あり得ない世界の中、私のすぐ横に立っていたのは紛れもない彼…千葉巳隆。




何で?何でここに…




問いかけようとするも言葉が出てこない。目を見開き立ちすくむばかりの私に彼が声の一つもなく、微笑んだ。



音ばかりでなく時間なるものまで消え失せたかのように感じる中、代わりに増していくものがあった。



高まる鼓動、タカの匂い…



そっと瞳を閉じた彼の顔がこれまでにない程近く迫ってくる。私の後頭部に手まで添えて、近付いてくる。




更に実感を増す、タカの息遣いと体温。




なのに、私は、私ときたら…



何故こうも自然と受け入れているんだろう?目の奥から熱く溢れるものまで宙に散らせて。





ーーアサギ。





彼の気配が少し離れる頃、やっと声がした。





アサギ…




浅葱…







呆然としていた。耳に届くのは確かに彼の声なのに、ただ口も開かず微笑んでいるばかりの彼が…タカの姿が、不思議で。




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