一つ夢
ーーもうどれ程の間こうしているのだろうか。こんな場所で脇目も振らず黙々と。
思ってみても意識はまた元の場所へ戻ってしまう。下の木目さえわずかにしか見えない程に色とりどりの布で埋め尽くされた床へ。
いつか心の折れる思いをした小屋に私はまた一人きり。だけどあの頃のような虚しさはない。手慣れてきた魔法によって形を成していく布切れたちの行方に好奇心が掻き立てられて仕方がないのだ。
やがて出来上がったいくつかの洋服を前に、あの頃の私は何故これをしなかったのだろう、などと不思議に思ってしまう。我ながらなかなかの仕上がり。更なる未来を想像してはおのずと口元がにやけてくる。
ウエストから下がチュチュになったミルキーホワイトのミニワンピ…これはモモに。透け気味な桃色の髪とよく合うはずだ。
薄手の生地で仕立てたスカイグレーのチェスターコート…これはシンに着せたい。色調は淡く柔らかいから青の髪にも浮かない。すでに170センチは超えているあの背丈に細身な身体なら難なく着こなせることだろう。
レギュラーカラーのシンプルなシャツ…これはレオのだ。ペールピンクと迷ったけれどここはスタンダードに白。度々真紅の薔薇と共に登場する極端な美意識をくみ取ってやったのだ、感謝してもらいたい。
もう一枚、同じ形のものを手にした。まだ笑うことはできないけれど同じように想像してみる。
これは…サキの。レオと同じデザインにしたのはマズイかな?でもこのスマートなラインもペールアイリスの色調も、ミステリアスなアンタにはよく似合う。早く戻ってきて袖を通してみてよ。
形作られた一通りを眺めた私はふと視線を移した。横座りの脚を膝ごと覆っている黒の布地へ。そしてぎゅっと両手で握る。
かつてためらっていたのが嘘だったみたいに
迷いもなく、引き裂いた。
膝上まで露わになった平坦な両脚。仮に何処かで見ている者がいるのなら安心してくれ、と言いたい。下には抜かりなくインナー用のショートパンツを仕込んである。
とりあえず何か穿いておけばいい、という発想は何ら変わっていないことに気付いてちょっと可笑しくなってしまったが。
誰に命じられた訳でもなく、おのずとすべきことがわかる。それは周囲から置いていかれそうでもどかしかった半年を忘れさせてくれるようで、目が霞む程の疲れさえ安心感で満たしてくれる。あっちの方でも度々感じている達成感にも似ている。
だけど…
ふとよぎった感覚があった。でも今はそこに焦点を当てる気分ではない。爽快なときはとことん爽快に、単純になって楽しむと決めたんだ。
すっと私は立ち上がった。浮き上がったミニ丈のスカートの裾から同色のショートパンツが覗く。つい先日、あっちの世界の雑誌で“見せたくないならミニを穿くな”(23歳男性・金融)という意見を目にしたが関係ない。ミニは穿きたいがパンツは見せたくない、それだけのことだ。
季節は秋、9月中旬。私ももうすぐ21歳。
程よい温度の空気を直に感じられる足元を見下ろして呟いた。
「やっぱり動きやすさ重視でしょ」
そう、やっと歩き出したんだから。




