十三の夢
ーー閉じていてもわかる眩い光が瞼の血潮を赤く照らし出していた。開いてみると相反する涼しげな色調が広がった。
抜けるように遠い空。地平線で蠢く入道雲が見たこともない速度でこちらへ向かってくる。次第にどんより沈んだねずみ色へ、そしてスカイブルーを覆い隠してしまう。
数分程前の晴れの空はもはや幻のように思えた。すっかり重く垂れ込めた暗雲の元で私は身体を起こした。一面の芝生の上だった。
ザッ、と地を踏み鳴らす音が後ろから。振り返った私の目に映ったのはひょろりと細いヴァンパイア。表情は乏しかったけどわりかしすぐに理解できた。サキではないと。
レオ…!
私は駆け出した。姿を消したサキ、彼の無事を信じ込んでいるモモ、そんな彼女に想いを寄せるシン…気になる者の数人の中でも今最も会いたかった存在だったからだ。
話したいことがあるの…レオ。
驚いたように見下ろしている彼にすがって言った。おのずと溢れる涙を抑えることさえできずに、告げた。
アンタが探しているお姫様…私、あのとき見たんだ。彼女が襲われるところを…槍でお腹を突かれてた。
もう駄目かも知れないんだ。生きていないかも知れない…でも、言えなかったんだ、どうしても。
ずっ、と鼻をすすり上げた。微動だにしない彼の胸元を両手で握ってまたこぼした。
…ごめん、レオ。黙っていて。
容赦もなく打ち付け身体を冷やしていく冬の風。握り締めたままの彼のシャツからも伝わる冷感。冷え切っているのがわかる。そしてきっと心はそれ以上に…と思うとまた胸が苦しくつかえてくる。
ーーアサギ…ーー
やがて、彼の低い声がした。一体どんな顔で見つめ返せばいいというのか。わかりもしないまま恐る恐る顔を上げた。
ーー彼女…姫の命の気配を感じるんだーー
ーーきっと、生きているーー
小刻みに震える私の元に降りたのは救いとも思える言葉と、穏やかな笑み。だけど見逃さなかった。きっと奥に閉じ込めたつもりであろう悲壮の色が見えるようでまた顔を伏せてしまう。
サキも…どうなっちゃったのかわからないんだ。
アイツ、荒れた海の中へ入っていったから…
そう告げるなり大きく見開かれた双眼。レオの手がそっと私の肩に触れた。彼は言った。
ーーアイツを知っているのか?ーー
小さなその問いに私はうん、と呟いて頷く。そうか…と独り言のようにこぼしている彼をしばらく上目で伺っていた。やがて声が返ってきた。
ーーアイツの命の気配は…わからない。感じ取れないーー
え…
奈落の底に叩き落とされた気分だった。サキはもう、駄目なの?彼には逢いたい人がいたのに。その人は彼の無事を信じ込んでいるというのに、一体どうやって伝えれば…そう考え始めていたときだった。
ーーなぁ、アサギーー
ーーアンタは知らないんだな?信じる力がどれ程大きいかをーー
意外とも思える反応だった。もう立っているのもやっと、すがり付くだけで何とか持ちこたえている私へ容赦もなく降り注ぐあまりに優しい声色と笑み。
全体のほとんどを占めている緑の地さえぼやけてしまう程、両目に熱い潤いを溜めた私に彼…レオは言った。今まで聞いたどんな声色よりも、優しく。
ーー俺は信じる。だからアンタも、信じていろーー
ーー姫とあの馬鹿の無事を。そしてアンタ自身を、決して見失うなーー
あの馬鹿、それはきっとサキのことだ。初めての対面の日、サキが口にした言葉が脳裏に蘇る。
あんな奴と一緒にしないで、そう彼は言った。やっとほんの少し、関係性が見えたようだった。
見紛う程によく似たこの二人はきっともう何年と顔を合わせていないんだ。だけどまだ希望は消えていないんだ。本当は何処かで繋がりたいと思ったままなんだ。
堤防を打ち破り流れ込んでくる確信の中でただ一つが疑問だった。
何故あなたは、何故こんな状況で、こんな事実を知ってなお、何故…
まだ私の身を案じているの?レオ。




