十一の夢
ーーそれはあの日あっちの世界で耳にした音に似ていた。
キィィィ…
ガガガガガガ…!!
聞こうと必死だったのを今でも覚えてる。弱々しく寂しげでも受け止めたかった声、それを容赦もなく遮ろうとする音が邪魔だったこと。
忘れられない。やっと聞き取った彼のあの言葉も、あの顔も。
何度となく経験してきた金縛り。上から強く押さえ付けられる感覚が苦しくてもがいた。しばらくそうしてやっと解放された頃、瞼だけ先に動かせた。次に開いた唇がやっと得た空気を一気に吸い込んで間もなくすぐにむせ返ってしまった。
何事かと思った。この埃っぽい空気は一体何だのだ、と苛立ちと共に身体を起こした。目を見張った。
こっちの世界に来るようになって初めて目にする光景だった。狭い室内、揃ってこちらを見ているおびただしい目のような壁の木目に背筋が凍る。壁寄りにはいくつかの木箱が積み上がっている。天井寄りの高い位置にある小窓は、暗い。夜なのだろうか?全体的に薄暗く天井にぽつんと一つだけぶら下がった剥き出しの電球の灯りだけが頼りだ。
小屋と思われるその場所の真ん中にどうやら私は寝そべっていたらしい。しん、と静まったそこに他の誰かの姿はなく恐ろしいことに扉すら見当たらない。こんな物言わぬ狭い密室の中、私がするべきことは何だろうかと考えた。何気なく目を止めたのは木箱だった。
そう、ロールプレイングとかいうジャンルのゲームの世界でももはや定番ではないかと閃いた。木箱とか樽とか宝箱とか見つければとりあえず開ける、もしくは叩き割る。こっちの私がファンタジーの典型とも言える“魔法使い”に当たるのならなおのこと、この法則には素直に従って良いのではないかとわずかばかりの期待を連れて木箱の山に近付いていく。
一つ持ち上げてみた。腕の力に対してひょい、と思いのほか軽く上がって後ろによろめいてしまった。中で何か動いている気配も鳴る音もしない。この感覚はやっぱ…
ああ、やっぱり。ハズレ。
空の箱の底を見下ろして私はため息をついた。本当に何もないのか?砂金がくっついてるとか数ミリばかりの宝石が転がってるとか、そんな希望の膨らむサプライズが潜んでやしないかと両手をざらついた木製の底に這わせてみた。ただ冷たく平らなばかりのその感触は何だか懐かしい。
気を取り直してもう一つ木箱を持ち上げて下ろした。先程と同じくらいすんなりと運んだ動作。開けてみる。思った通り、やっぱりハズレ。
もう一つ、またもう一つと繰り返すも宝物めいたものどころか塵一つ現れない。私はいよいようんざりし始める。無駄なことの繰り返し、今ここに居る意味は一体何なのかと答えも返らない問いを何処ぞに投げかけていたときだった。
ふと、だいぶ少なくなった未開封の箱の一つにわずかな重みの違いを感じた。やっとか…そう思って蓋を開いてみた。
目に飛び込んだものに私は見入って静止した。薄暗い中でもわかる鮮やかな色の数々に意識の全てを奪われていた。
だけどそれも束の間だった。ただ平らに並んでいるだけの薄っぺらい色の一つを手にするなり、先程より更に重い落胆が胸を占めていく。
何だよ、コレ。
こんな布切れで何をしろっていうの?
私は呟いた。箱の中に大人しく納まっている七色の布を見下ろしながら、思った。
これじゃないんだ、私が今欲しかったのは。答えを探すのも考えるのも、もう疲れた。
完成したものが見たい。手にしたい。今は…
確かなものが欲しいのに、って。




