第4話 当たらない――俺の攻撃も、相手の攻撃も
実技の時間がやってきた。
屋外の訓練場に整列した俺たちに、ハーグ・レイゼン教師は短く告げる。
「基礎確認だ。制御を見せろ。過度な魔法は禁止」
ペアに割り振られ、対面する。俺の相手は見覚えのない男子生徒だった。
「よ、よろしく」
「ああ」
開始の合図が鳴る。
相手が先に動いた。風の刃が一直線に飛んでくる。速い。でも見える。
俺は横にずれる。最小限の動きで、軌道から外れる。
二発目。角度を変えてくる。判断は悪くない。でも遅い。体を捻って、かすめさせる。
相手が踏み込んでくる。近接に切り替えた。正しい選択だ。魔法が通らないなら体で来る、当たり前の判断。
剣が振られる。
俺は半歩下がる。
刃は届かない。距離は合っているはずなのに、なぜかほんの少しだけ短い。
(……ここか)
感覚が引っかかった。昨日と同じあの"ズレ"。
距離が、噛み合っていない。目の前にいるのに、ほんの少しだけ遠い。
俺はそのまま踏み込もうとして――
(試してみるか)
拳を、少しだけ別の角度に向けた。目の前の相手じゃなく、何もない空間に向けるように。
触れた気がした。
手応えはない。でも確かに、何かに触れた感覚があった。
次の瞬間、相手の体が横に弾かれた。
「え?」
誰かの声。周囲が静まる。
俺も止まっていた。
(殴ってない。当ててない。なのに)
倒れた相手が俺を見上げている。何が起きたか分からない顔。
そうだよな。俺も分からない。
「そこまで」
ハーグの声が入り、試合が終わった。
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区画を出ると、リュシアが立っていた。
「当たって、なかったよね」
「そう見えたなら、そうなんじゃないか」
「……うん」
彼女は整理するように俯いてから、また俺を見た。
そのとき、別の視線を感じた。
アルト・レグナスが、こちらを見ていた。
相手はすでに倒れている。圧倒的な差だったんだろう。でもアルトは勝ったことより、俺を見ることを選んでいた。
無言で、測るように。切り分けるように。
(面倒だな)
でも、視線は外さなかった。
逸らす理由がない。
数秒後、アルトが先に目を切った。何も言わず、背を向ける。
(納得してない。でも否定もしてない)
それだけ分かった。
俺は手を開いて、閉じる。
さっきの感触を確かめるように。
何もない。でも確かに、触れた。そしてまだ続いている。




