第3話 積み上げる男と、使えるものを使う俺
翌日、最初に話しかけてきたのはアルト・レグナスだった。
黒髪、金の瞳。制服の着こなしが完璧で、立っているだけで周囲の空気が引き締まる。入学初日から名前を知らない生徒はいない、という類の人間だ。
俺が窓際の席に座っていると、そいつはまっすぐ近づいてきて、開口一番こう言った。
「昨日の件、何をした」
質問じゃなくて確認みたいな言い方だった。
「何もしてない」
俺は正直に返した。
「そうか」
アルトはすぐには引かなかった。数秒、俺を見てから続ける。
「再現できるか」
「できたら苦労してない」
「……曖昧だな」
「曖昧なんだ」
短い沈黙が落ちる。価値観がぶつかる、みたいな空気。
アルトは少しだけ表情を変えた。切り捨てるんじゃなく、整理している顔だ。
「アルト・レグナス」
唐突に名乗った。
「レイン・ヴェリス」
「一つ言っておく」
アルトが続ける。
「説明できないものは、評価できない」
断言だった。迷いのない言葉。積み上げてきた何かに裏付けられた確信。
俺はわずかに目を細めた。
「そうか」
否定はしない。その考え方は理解できる。ただ。
「俺は、使えるなら使う」
それだけ返した。
理屈が先か、結果が先か。そういう違いだ。
アルトは一瞬だけ沈黙してから、
「……非効率だ」
と言った。
切り捨てではない。純粋な評価だ。でも、視線は外れない。完全に否定しているわけじゃないのが、なんとなく分かる。
「かもな」
俺は軽く返した。
アルトはそれ以上何も言わず、踵を返す。
完成されている。あの動き方も、考え方も、全部。正しい、という言葉が似合う人間だ。
(対して俺は)
考えるのをやめた。答えは出ない。
窓の外に視線を戻す。
"ズレ"は、まだそこにある。名前もなく、説明もできないまま。
でも確かに、存在している。




