曖昧な関係と安寧(5)
「リナさん、話せますか?」
彼は私を大事そうに抱きしめている。
柔らかな布団が私達を包み、安心する反面、少しの後悔があった。
「…ごめんなさい。」
私は呟いた。
その言葉で彼は少し私の身体を強く抱きしめ直す。
「謝らないで下さい。リナさん、イヤなら話さなくても良いんです。」
彼は私の頭に顔を埋め、必死に言葉を探している。
「…私は小さい頃、従兄から性的虐待をされてた。今まで誰にも言えなかった。知られたらどんな風に見られるのか不安だったし、家族に心配かけたくなかった…。惨めで、ツラくて、自分が汚いもののように思えた。」
少しずつゆっくり話した。
話していくうちに涙が止まらなくなり、それに気がついた彼は私の顔を覗き、
「リナさん、もう喋らなくて大丈夫ですよ。イヤでしたよね。僕も怖かったんじゃないですか?」
切なく泣きそうな顔をしていた。
「触られてる時に時々、思い出してしまう…。けど、ユウくんは違うでしょ。私をちゃんと見てくれてたから。」
私はユウくんの顔を見て笑った。
「ツラい時に笑わなくて良いんです。頑張らなくて良いんです。イヤならちゃんと言って下さい。」
彼は優しく私の背中をゆっくりさする。
言葉が痛かった。
「ユウくんはイヤじゃない。来てくれて安心したから。本当にイヤじゃないよ。」
私は不安でつぶれてしまいそうな気持ちをふりきるように伝えた。
「…今日、会社に電話があって…久しぶりに声を聞いたらずっとしんどくて…。私は、私がイヤになる。忘れたいのに、忘れることが出来ない…。」
言葉がうまく出ない。
喉の奥に何かを詰められたように、苦しい。
彼はそれ以上何も言えず、ただ抱きしめている。
規則正しい心臓の音がユウくんから聞こえる。
私は彼に話したことが正解だったのかはわからない。
記憶の共有をさせてしまった。
朝、目が覚めるとユウくんは起きていて、私をいとおしそうに見ていた。
その目には少しだけ淋しさがある。
「…そばにいても良いですか?リナさんがツラいことを思い出さないように、イヤなこともしません。ただ、そばにいたいんです。」
彼の瞳が揺れていた。
不安な気持ちが伝わった。
「…ユウくん、私は本当にずるいんだよ。それでもそばにいてくれる?」
彼の気持ちをわかっていて、寄りかかろうとしている。
「僕を頼ればいい。僕もずるいから。リナさんが今、突き放せないのをわかって聞いてるんだから。」
泣きそうな消え入りそうな顔をして、私を見つめている。
共依存なんだと思う。
お互いが不安定で欠けたパーツを埋めようとしている。




