曖昧な関係と安寧(2)
ゆっくり時間が過ぎる店舗に静かにかかる優しい音楽。
コーヒーの柔らかな香り。
私達はまた、奥の席に座った。
「リナさんは引っ越しするんですか?」
ユウくんは尋ねた。
「勤務先が決まるまでは今までのところかな?市内にも店舗があるから。最初はどこかの店舗に入るみたいだね。最終的な希望は商品開発だけど…。違うところにも店舗があるから、研修終わってからかな。」
と、コーヒーをひとくち飲んだ。
「そうなんですね。ヒナコさんは勤務先で決められたところに入るんですよね。」
ユウくんは私を見て穏やかに話を続けた。
「…少し淋しいです。2人を見てるの結構好きで。リナさんは、ヒナコさんや鈴木さんの前でよく笑ってますよね。」
少しだけユウくんは目を細めた。
「ちゃんと笑って見えてた?なら良かった。」
私はウンウンと言いながら、玉子サンドを頬張る。
彼は“今も笑ってますよ。”と言いながら、いつものように小さく手を合わせてサンドイッチを頬張る。
「それ、きちんとしてるよね。お母さんがちゃんと教えてくれてるんだね。本当にお母さん、ユウくんが大事なんだね。」
と私はいつも気になっている仕草を伝えた。
「どうだろう。僕がちゃんとしてないと母も僕も殴られていたから…。母は若くして僕を生んだんですよ。何にも知らなかったから父が基準だったし、逆らえなかったんだと思います。精神的にもかなり参って、病院に通院してました。それは今もです。母が僕を育てられない分、祖父や祖母が僕を育ててくれました。」
ゆっくり彼は話してくれた。
「母が壊れていくのを見て、本当に怖かった。」
消えそうな声でそう言って、うつ向いている。
「無理して喋らなくていいよ。」
私は苦しくなった。
「たまにしんどくなったら、連絡して。何にも出来ないかもしれないけど、私で良ければ。」
と、伝えた。
正直、彼と話すとえぐられるような気持ちになる。
イヤな記憶が反芻されて、強い嫌悪感から吐きそうになる。
それでも、私は彼を放っておけなかった。
私を見ているようで、辛くなる。
「また、会えますか?」
彼はまっすぐに私を見ている。
私は“もちろん“とその視線が強くてうつ向きながら頷いた。
私は彼を放っておけないと思っていても、支える覚悟は出来ない。
話を聞いても、それだけのこと。
私は彼を見ているとあの記憶が引き出され、溺れそうになる。
それでも放っておけなかった。
彼が抱えてきたものがわたしのものに見えた。
あの時私達は幼くて何も出来なかった。
黙って受け入れるしか出来なかったから。




