曖昧な関係と安寧(1)
私とヒナコは国試を無事に合格し、4月からは社会人になる。
ヒナコは佐藤さんが淋しがるなか、やはりこちらのリハビリ病院に就職することが決まった。
私は病院や介護施設ではなく、美容を取り扱っている企業に入社する。
きっかけはその企業の社員の方がバイト先のカフェにお客様で来てくださっていて、店舗のオープニングセレモニーでのケータリングの依頼があった。
そのケータリングの打ち合わせや準備を手伝ったのがきっかけで興味を持った。
「高梨さん、センス良いね。それにさすが管理栄養士目指してるだけあって、美容や健康から見てもステキ。何よりお客様が喜んでもらうために細かな配慮が出来るとか天才。」
私をびっくりするくらいベタ褒めしてくれたのが、担当の白井さんだった。
「就職まだ決まってないんなら、うちに来ない?」
と、かなり軽い感じで白井さんは言った。
「栄養士は白井さんのお勤め先で役にたちますか?イメージがなくて。」
私が言うと、
「かなり強みだよ。お肌をきれいにしたい人や痩せたい人、健康に気をつけている人に1人1人に合わせてアドバイスするためには、かなり努力が必要だよ。それにうちは商品開発もしているからね。そこも専門的な知識が大事になる。何より高梨さんはお客様に喜んでもらうための努力が出来るから、ぜひ、うちを検討してみて。」
白井さんはそう言って、企業案内を手渡した。
考えてない選択肢だったが、1人1人に向き合えて喜んで貰うのは楽しそうだなと思ったし、私が役にたつと言って貰えたことが嬉しかった。
アラタさんに報告したら、
「やりたいことを社会に出てやれるのはありがたいことだよ。リナが決めたことを応援する。」
と、楽しそうに言ってくれた。
バイト最終日。
ヒナコと一緒に最後の挨拶をして、帰ろうとしていた。
「リナさん、時間もらって良いですか?」
ユウくんに声をかけられた。
「明後日、引っ越しだから私は先に帰るね。ユウ、リナをちゃんと送ってね。また、店に寄るからそんときに。」
と、ヒナコはユウくんの背中を軽く1回叩き、私を託した。
「どこか寄る?」
と私が言うと小さく彼は頷いた。
アラタさんと3人で話して以来、ユウくんは少しだけ私に対して接し方が変わった。
柔らかくなった。
私も彼の淋しそうな顔の理由を知って、少し理解できた。
私も彼も理不尽に幼いときに傷つけられていて、未だに抱えていると感じた。
「あの喫茶店にいきませんか?」
ユウくんは優しく笑っていた。
あの日以来、数回ユウくんと話すときは喫茶店に行っていた。
最初に2人で来たときはユウくんが謝罪してくれ、それ以降は進路やバイトの事、ユウくんのお母さんや家族の事を話していた。
普段の明るい雰囲気ではない部分に触れた。




