憂鬱な逃避(4)
あれから実家に3日間ほど帰り、祖母の家に泊まった。
痩せて以前のように動くのがしんどそうだった。
それでも、私がいる間は本当によく笑ってたくさん話をしてくれた。
エイタは帰ってなかった。
「…エイタが死ねばいいのに。」
口にしてびっくりした。
私は本当にそれを願っているんだと思った。
実家から帰って、残りの夏休みはバイト三昧だった。
ヒナコやそして同じ大学に進学した一学年上の佐藤さんやバイト先の友人と時々、ご飯や遊びに行った。
佐藤さんは変わらず大学でも陸上をしているとの事だった。
ヒナコと同じく理学療法士を目指しているようだ。
変わらず人懐っこい真面目な感じはあるものの、少し大人になって頼もしく見えた。
そして、たまにカフェに友人と来てくれているようだった。
ヒナコがホールにいる時に気がつき、接客をしたのをきっかけによく話をするようになったとのこと。
そこから私も含めてたまに話すようになった。
「…佐藤さんの事、好きかもしれない。」
と、ヒナコが本当に可愛らしい顔でバイトの帰り道で私に伝えてくれた。
ここ最近、ヒナコは佐藤さんと朝少し走っていると言っていた。
何となくヒナコと佐藤さんが二人でいるときの空気が優しくて、以前とは違う感じがしていた。
美人でカッコいいヒナコが本当に可憐で可愛らしく思えた。
「ヒナコ、かわいい。」
私は彼女に精一杯のハグをした。
“リナのほうがかわいいから“とヒナコはふにゃふにゃに笑っている。
私の大事な人がずっと幸せでありますように…。
少し経って二人が私にちゃんと付き合うようになったと教えてくれた。
幸せな空間にいると嬉しいと思う反面、少しだけ胸が締め付けられた。
私は普通に人を好きになることはいつか出来るのだろうか?
それでもヒナコの幸せそうな顔を見ると嬉しいが上回った。
今は大好きな彼女の幸せを大切に祝おうと、
「おめでとう。良かったね。」
と、大きく笑った。
夏休みが終わる頃、その日はヒナコのシフトがお休みで1人で帰宅していた。
時々バイト帰りに寄るコンビニの前で鈴木さんに会った。
「今帰り?」
と、びっくりしたように彼は走って近寄った。
近寄りすぎたのか一歩下がってくれたのがわかった。
私は”はい”と短く答えたが、以前よりはこころを許していた。
「ヒナコちゃんは?ひとり?」
と、優しく笑いながら鈴木さんは言った。
「今日は1人ですよ。」
私が答える声に被せるように、
「得意になった?」
と彼がいつものように尋ねた。
いつもと違うのはヒナコがいないということだ。
「普通になりました。」
私は少しだけ困って、そう答えた。
「喜んで良いのかな…まぁ、苦手から普通になったから良しとしておこう。」
鈴木さんは少しだけ照れながら続けて、“僕は好きだけどね”と小さく呟いた。




