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第09話:追放への歩み~コガネとお風呂屋~

「風呂だ! 風呂に行くぞ!」


 朝っぱらから、コガネが元気よく宣言した。昨日のセーラといい、朝から元気すぎる。


 コガネは基本的に朝が弱いが、定期的に早起きをする。それは今日みたいに風呂に行く日だ。


 コガネは風呂が大好きだ。

 別にきれい好きとかではないのに、風呂にはやたら行きたがる。旅の途中で野宿をするたびに「風呂がない。風呂に入りたい」と嘆くのが習慣になっていた。


 コガネは、あっつい湯につかるのが大好きなのだ。だが、この世界で毎日風呂屋に行けるほど、僕らの財布は潤ってない。きっとサネヤとかいう穀潰しがパーティにいるからだ。


 コガネは放っておくと街にいる間は毎日風呂に行きたがるので、この半年の間にルールが作られた。

 同じ街にいる間に、風呂屋に行くのは最大5回。僕らは、同じ街に1週間から2週間程度滞在することが多いので、わりと贅沢をしている方だ。


 このルールを決めてから、コガネは街につくと時間をかけて風呂屋のリサーチに出かけるようになった。街にある風呂屋をめぐり、値段、大きさ、評判など事細かに調べてくる。


 少ない回数をいかに有効利用するか考えているのだ。そして、コガネが厳選した風呂屋にパーティ全員で行くのが『青嵐』の数少ない掟になっていた。ずいぶんと緩い掟だ。


 イガチレスに到着してから、すでに5日。ずいぶんと入念なリサーチをしたようだ。


「今回はわりと時間かかったわね」


「たしかに。そんなにお風呂屋さんあったの?」


 セーラとヒスイも風呂屋はもちろん嫌いじゃないので、コガネが決めるのを待ちわびていたようだ。


「ああ。大きな街だけあって、充実してたんだ。良い風呂屋が多くて、一軒一軒じっくり見過ぎちまった」


 昨日、僕がセーラと買い物してる間にも、街を走り回っていたらしい。自分の好きなことにかける情熱がすごい。


「そのおかげでリサーチはばっちりだ。楽しみにしててくれ」


「あんたが選ぶところ、たいてい熱すぎるのよね」


 セーラは文句を言いつつも毎回ちゃんと湯船につかっているらしい。しかも、結構楽しんでいるらしい。前にヒスイが言っていた。


 その時にヒスイは「セーラはもっと素直になればいいのに。色んな意味で。ねぇ、サネくんもそう思わない?」とも言っていた。セーラってかなり素直に文句言ってる気がするのは僕だけ?


「今回は、熱いやつと普通のやつが分かれてるところだから大丈夫だ!」


 コガネの熱弁を受けて、パーティみんなでお風呂屋に出発した。






 ※※※※※






 コガネが選んだお風呂屋は街の中心にあった。確実にセーラ一人だと帰れない位置だ。まぁ、セーラは街のどこにあっても一人だと帰れないけど。


 セーラとヒスイと別れ、コガネと男湯に向かう。


 コガネは、剣士だ。つまり、体が引き締まっている。ただの荷物持ち、それもスキル頼みの荷物運びしかしてない僕とは大違いだ。


 当然だが、戦闘力も僕とは比べ物にならない。剣一本で敵の大群に突っ込んでいき、余裕で切り倒していく。セーラと同じで、コガネも自分の剣の腕は半人前だと言っている。2人が半人前なら、僕は虫けらになってしまう。


 戦闘時の僕の役割は、スキル【索敵】による指示と生まれ持った弱さを活かした囮だ。つまり、基本こそこそしながら、逃げ回るだけ。…………役立たずの極みだ。


「サネ、早く行くぞ! 待ちきれん」


「ごめん。けど、急がなくても逃げないよ」


 焦るコガネをなだめつつ、ささっと服を脱ぎ中に入る。内装は普通に日本にあるようなお風呂屋だ。違うのは、お湯の供給に魔石を使っているところだろう。


 この魔石の質やサイズによって、お湯質に大きな違いが生まれる……らしい。正直、僕にはあまり違いは分からない。まぁ、コガネのおすすめしか入ってないから、質の悪い魔石を使っているお風呂屋に入ったことないけど。


「ほら見ろ、サネ! あの魔石、最高だろ?」


「うん、まぁ、そうかな?」


「そうなんだよ! サネも、もう少ししたら分かるようになるはずだ」


 ……分かるようになる気が全くしないのは僕だけ?

 

 その後も、コガネによる魔石の解説を聞くともなしに聞きながら体を洗う。一応、お風呂屋に来るたびに、魔石はじっくり観察しているのだが、【鑑定】系のスキルが取れる様子はない。


 やはり僕には見る目がないという事だろう。


「あ゛ぁー気持ちいなぁー」


「だねぇー」


 たしかに、すごく気持ちい。ちゃんとしたお風呂に入るのはかなり久しぶりだし。


 その後、コガネとのんびり話をしながら湯船につかっていた。話すたびに、僕のメンタルが削られていったのは、いつものことだ。コガネもセーラも自信家なので、2人と話していると僕の弱さが実感できてしまうのだ。


 まぁ、『ざまぁ展開』を目指す身としては、肩身の狭さを感じていることは成功と言えるだろう。


 仲間とコミュニケーションをとる時間は大切だ。僕の無能さを知らしめるという意味で。だから、本当はもっと話を続けたい。だが、熱い。熱すぎる。こっちは熱くない方だと言っていたが、僕には十分熱い。


「……ごめん。のぼせそうだから、先に出てるね」


「早いな。俺はまだしばらく入ってるから、先に帰っててくれ」


 一緒に来るまでは良いんだけど、僕だけが先に帰る。僕はいつでも貧弱なので、いつものことだ。


「分かった。コガネものぼせないようにね」


 まぁ、コガネには余計な心配だけど。僕とは体の強さが違うのだ。自分の貧弱さにがっかりしながら、そそくさとお風呂を後にした。短い時間だけど、満足できたし。






 ※※※※※






「おっそい。待ったわ」


 更衣室を出ると、セーラから文句が飛んできた。


「ごめん」


 何で怒られたかよく分からないけど、反射で謝るのはもう癖だ。


「……てか、僕を待ってたの? ヒスイじゃなくて?」


「ヒスイはまだ入るって言うから、先に出たのよ。それで、ヒスイに一人で帰ったらダメって言われたから、あんたを待ってたの!」


 流石ヒスイ。セーラへの指示が的確だ。


「じゃあ、先に帰ろうか」


 ヒスイとコガネは放っておいても一人で宿屋に帰ってこれるし。


「その前に、飲み物買いたいの」


 お風呂の後に何か飲むのは、異世界でも同じらしい。ちなみに、お金を払うのは僕だ。別にたかられているわけではなく、基本的にパーティのお金は僕が管理しているのだ。管理しているというより、スキル【収納】に放り込んでいるだけだけど。


 僕を追放する時に持ち逃げしたらどうするつもりなのだろうか? ………………逃げ切る前に余裕で捕まりそうだな。


 その後、飲み物を買って機嫌の良くなったセーラを連れて宿屋に帰った。


 コガネが厳選しただけあって、お風呂に入っただけでかなりリフレッシュできた。平和な一日だったけど、今日も着実に追放へ歩みを進めたと言えるだろう。

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