第03話:急募! 僕を追放してくれる仲間
異世界に転生した僕は『ざまぁ展開』を目指すことにした――ところまでは良かったのだが。肝心の仲間を見つけることの難易度の高さに打ちひしがれていた。
一口に追放モノといっても色々パターンがある。
僕はどんなパターンでもウェルカムだ。理不尽に追放してもらえさえすれば『ざまぁ展開』に持って行くことができるからね。
どの追放モノにも共通しているのは、いけ好かないイケメンとそのイケメンに恋するクソビッチが主人公を追放しているというところだろう。つまり、僕は美女を連れたイケメンを探して、仲間にしてもらう必要があるのだ。
いったんは無能な僕を受け容れてくれて、後に無能はいらないと追放してくれるイケメンと美女の仲間。どこにいるの、そんな都合の良い仲間?
追放されるためには、無能じゃないといけないけど、仲間にしてもらうためには有能じゃないといけない。どうすればいいの、この矛盾?
僕は運動が得意じゃない。そして、もちろん戦闘なんてしたことがない。つまり、基本的にはポンコツだ。
スキル【殲滅】を使えば、ゴブリンの群れ程度なら余裕でミンチに出来た。だが、追放してもらうためにはスキルを隠さないとダメ。条件が厳しすぎる。
「………………これやっぱり無理かな?」
僕なら、絶対僕を仲間にしようとは思わない。だって役に立たないことが目に見えているんだもの。
でも、諦めたくない。せっかく異世界に来たのだ。やりたいことに挑戦しなければ。僕は『ざまぁ展開』がやりたいのだ。
僕みたいに暗くてひ弱な人間は、大きな目標を掲げておかないとダメなんだ。そうじゃないと、きっと路地裏とかでひっそりと死んでしまう。がんばれ、僕。
ただ、『ざまぁ展開』の実現が難しそう問題は、目下最大の問題ではない。
最大の問題は――
「この森、広すぎ…………」
さっきから色々考えたり、決意表明をしたりして、心細さを誤魔化しながら、必死に森を抜け出そうとしていた。なのに、ずっと森にいる。ここ本当にどこ?
なぜかは分からないけど、どんどん『ざまぁ展開』をやりたい欲が高まっていく。きっと不安とストレスは関係ない…………とは言い切れなくなってきた。
※※※※※
「やっと、着いた…………」
森を彷徨うこと(体感)数時間、僕はどうにか街にたどり着くことに成功した。今、何時なのかは全く分からないが、日が暮れる前に森を抜けられて本当に良かった。
森で偶然冒険者と出会えば仲間にしてもらえるのでは? という淡い期待があったのだが。現実は甘くなかった。冒険者どころか山賊にすら出会わなかった。
バノイアデ。
それが、僕がやっとの思いで、たどり着いた街の名前らしい。
この世界における規模感が分からないけど、割と大きな街だと思う。街全体を囲む壁があったし、少なくとも村って感じではない。
街に入る際に、通行料的なものを取られなかったのが救いだ。仲間もいないけど、僕にはお金もないのだ。
ちなみに、言葉は普通に通じた。ご都合主義万歳だ。これで、言葉が通じなかったら『ざまぁ展開』とか言ってる場合じゃなかった。
これでようやく、最大の問題だった『森で迷子』は解決した。異世界に来て一番最初に達成感を感じる出来事が『迷子からの卒業』というのが、非常に僕らしくて泣けてくる。
できれば、迷子卒業のお祝いでもしたいところだが、そんなことをやっている余裕もお金もない。この大きな街でどうやって仲間を見つけるか、について考えねば。
「…………もう誰でもいいから仲間にして欲しいなぁ」
スキル【殲滅】なければ、僕は本当に無能だし。どうにか仲間にしてもらえさえすれば、追放は余裕だと思うんだよね。ただ、ある程度はパーティに貢献していないと、追い出されて当然の奴になってしまう。それでは意味がない。僕がやりたいのは『ざまぁ展開』であって、逆恨みではないのだ。
とりあえず、難しいことを抜きにして仲間を探そう。もう『ざまぁ展開』とか抜きにしても一人は寂しい。
※※※※※
寂しくて死んでしまいそうだった僕は、とりあえず人通りの多そうな通りに来ていた。本当は冒険者ギルド的なところに行きたかったのだが、道が分からない。…………僕、街でも迷子じゃん。
仲間を見つけるにも色々パターンがある。こうゆう人の多い場所でうろちょろしていれば、何かしら都合の良い出会いがあるかもしれない。
「お花、買ってくれませんか?」
そう、こんな風に。
僕に声をかけてくれたのは可愛らしい幼女だった。声をかけてくれたっていうか、セールスに引っかかっただけだけど。幼女に優しくすることで、幼女の知り合いの冒険者なんかと繋がる可能性は十分にある。
だが。
「ごめんね」
僕、お金ないんだ。なんならお嬢ちゃんより貧乏だよ、僕。優しさを発揮にするためにはお金か力が必要なのだ。どっちも持っていない僕には無理だ。僕は、文句なしの一文無しで、ポンコツなのだ。
幼女の買って? という目線攻撃からどうにか逃れ、次に目についたのは奴隷を扱うお店。
訳アリ奴隷を安く買って仲間にする。とても望ましい展開ではあるが、奴隷に裏切られて復讐するのは僕が思い描く『ざまぁ展開』ではない。
僕が見ていることに気付いたのか、いかにも悪徳ですって感じのおじちゃんから声をかけられた。
「おい、そこのあんちゃん、奴隷に興味あるのかい?」
興味はある。だが、お金がない。まぁ、お金があったとしても、僕には見る目がないからだめだ。この世界、スキル【鑑定】はあるのかな?
そそくさと奴隷店から離れたところで、また声をかけられた。
「お花、いりませんか?」
また、可愛らしい幼女。さっきとは別の子だ。
てか、これ3回目なんだけど。街に入った直後にも可愛い女の子から花を勧められたし。
僕、お金ないんだって。僕ってそんな花が欲しそうな顔しているのかな? 違うね、僕が押しに弱そうな顔なんだね。ただ、一日に3回も幼女に狙われるとは。僕どれだけチョロそうに見えるんだろう。
まぁ、実際、今も買ってあげたいと思ってるし。お金あったら、たぶん買ってるいいカモなんだけど。幼女の見る目があるのかもしれない。
度重なる幼女からの攻撃で気付かされたけど、もしかしてお金ないと仲間に出会えない? もしかしなくても『ざまぁ展開』を目指すとか関係なく、僕を仲間にしてくれる人なんていない?
※※※※※
一抹の不安を感じながら、僕を追放してくれそうな仲間を探し回った結果。というよりも、ただ街をうろうろした結果。冒険者ギルドを見つけることは出来なかったが、僕は一人の青年と仲良くなることに成功していた。
仲良くなった経緯は単純明快。彼の方から気さくに声をかけてくれたのだ。食パン咥えた女子高生と四つ角でばったりパターンだ。
「おい、あんちゃん。どこに目ぇつけてんだ。あ゛あん⁉」
こんな感じで、初対面とは思えないぐらいフランクだった。
どう考えても、そっちからぶつかってきただろ、僕が悪いわけないじゃないか! と言いたいところだが、僕らは仲良しなのでぐっと我慢した。
「無視してんじゃねぇぞ、こら。ちょっとこっちこいや」
そう言われ、肩を掴まれながら、暗くて細くてザ・治安が悪そうな路地に一緒に入ってきたのだ。きっと二人きりでお話したかったのだろう。見た目はハゲゴリラだが、彼はきっとシャイなのだ。
「おい、聞いてんのか⁉ ××××××。××××××!」
その後も、なんか色々言っていたが、よく分からなかった。早く仲良くなりたいからって勢い良く喋りすぎなんじゃない?
「………………」
………………そろそろ認めよう。
彼とは仲良しなんかではなく、ただ一方的に因縁をつけれれて路地裏に引き込まれただけだという現実を。
なんで僕がこんな目に合わなくちゃならないんだ。せっかく異世界転生をしたというのに、今のところ迷子になって、ヤバい輩に絡まれただけだ。良いことがなさすぎる。
もうこのハゲゴリラ相手なら何をしても良い気がしてきた。路地裏で人目はないし、これは正当防衛だ。
覚悟しろよ。僕は、スキル【殲滅】を使えるんだ。キレたいじめられっ子の怖さを見せてやる。
「おい、なんだその目は?」
スキル【殲滅】の使い方は、とっても簡単。スキル【殲滅】、起動。と言うだけだ。そうするとあら不思議、ゴブリンの群れ程度ならあっという間にミンチに変えてくれるのだ。
若干投げやり気味に、スキル【殲滅】を起動してしまうとしたとき――
「ちょっと、あたしの連れに何の用よ!」
――後ろから気の強そうな声が響いた。
割り込んできたのは、藍色の髪を腰のあたりまで伸ばした可愛らしい美少女だった。当然だが、僕には連れはいない。つまり、この子は僕を助けてくれたということになる。
どうやら絡まれているところを美少女に救われるパターンだったようだ。一番情けない気もするが、僕にはお似合いかもしれない。