bookend4 王女の恋愛相談
〜リナリア・ウィンダリア〜
戦慄。私の顔は恐らく真っ青になっている事だろう。
そしてそれは、レフトやイラ達も同じ。
ここにいる皆が、顔を青くしていた。
映瑠が冷や汗を流しながら私を手で制してきた。
「りっ、リナリアちゃん! 一旦、包丁から手を離そう!?」
……そう。ここで住み込みバイトを始めてから一週間が経つ今、私は料理の練習をしていた。包丁で野菜を切る際に誤って自分の手を切ってしまい……私はパニックになった。
そして錯乱。私は包丁を持ったまま暴れ回った。
手を血で汚しながら包丁を持って暴れ回る私の姿は、傍目から見たら完全に事件現場だ。
「落ち着けってリナリア!」
「そ、そーですよ落ち着いてください!?」
レフトとイラが椅子から転げ落ちながら私に制止の言葉を投げかける。
しかし私の耳には届かない。私は目を回して包丁をブンブンと振り回していた。
周りのお客さんも顔を真っ青にしてドン引きしていた。
そんな状況の中。
「ただいま〜」
「今帰った」
買い出しに出かけていたライトとスカル師匠(料理とか掃除とか色々教わるため、私はこう呼ぶことにした)が帰ってきた。
ライトは私を見るやいなや顔を引き攣らせた。
スカル師匠は私を見るやいなやため息を吐いた。
「はぁ……ったく」
そしてこの後、スカル師匠の尽力によって私の暴走は見事に止められた。
スカル師匠に感謝だ。
****
「ご、ごめんなさいスカル師匠……」
「別に気にすんなって。後、その呼び方はやめろ」
スカル師匠は私の包丁で切った手の怪我の手当をしながら、またため息を吐いた。
はぁ……私って、本当に何も出来ないのね。
私は流し台をぼんやりと見つめながらそう思った。自分で自分が嫌になる……。
そんな風に考えていたら、突然レフトが私の肩に手を置いて笑った。
「大丈夫だって。誰でも最初は失敗するって。スカル師匠も気にすんなって言ったんだし、そんな落ち込むなよ」
レフト……。
私は彼の言葉を心の中で反芻させた。それはとても心地よく、私の心内を響き渡っていた。
「おいレフト、お前はその呼び方すんな」
「あ、はいすんません……」
そんなスカル師匠とレフトの会話も耳に入らない。
私は先程まで彼の手が置かれていた肩をそっと触る。まだそこに彼の温もりが残っているような気がしたが、今指先に感じた温みは私自身の温もりかもしれない。
私は少しだけ肩を落とした。
そんな私の背中に、ちょんちょん、と触られる感覚が走った。
振り返るとそこには映瑠がいた。
「ねぇねぇリナリアちゃん、ちょっとこっち来て」
「え? え、まぁいいけど」
映瑠の後を付いていく。
そこは私と映瑠が共有で使っている部屋だった。通称女子部屋。元々はライトの部屋だったらしいけど、住人が増えたのでライトはレフトの部屋に移り、レフトの部屋を男子部屋、ライトの部屋を女子部屋としたらしい。
映瑠はベッドに座って、少しだけ頬を赤くして聞いてきた。
「もしかしてさ、リナリアちゃん……レフトくんの事、好きなの?」
「!?」
私は突然の映瑠の発言に目を見開き、後ろへよろめいてしまう。
え、え、えっと……どうしてバレてるの!?
映瑠はそんな私の様子を見て、やっぱり、と笑っていた。
「何となく、もしかして好きなんじゃないかな〜って思っただけだけど……当たっちゃった」
「な、なんでわかったのよ……」
「……何となくわかりやすいし、リナリアちゃん」
「……あう」
映瑠はケラケラと笑ってベッドから立ち上がった。
そして、私の背後に回って、そのまま私を抱きしめた。
その抱きしめた体勢のまま映瑠は私の肩に顎を置いて話を続けた。話すにつれて動く顎がくすぐったい……。
「応援するよ、私」
「……何を?」
「リナリアちゃんを」
「……何を応援するの」
「鈍いなぁ……。リナリアちゃん、レフトくんの事好きなんでしょ? その恋、応援してあげるって言ってんの」
私の頬に熱が集まっていく。
私は顔を伏せ、やっとの事で声を絞り出した。
「……余計なお世話よ」
「うん、知ってる。けど、余計でも、世話は焼かせてもらうよ。友達だもん」
くすくすと笑いながら映瑠はそう言った。
……友達。その響きは私の心をじんわりと溶かしていくような、そんな心地がした。
私はその心地良さに目をつむり、小さく笑った。
「映瑠」
私は彼女の名を呼び、手を差し出した。
「これからよろしく」
映瑠はにっこりと笑って私の手を握った。
「こちらこそ」
私の心には、これからが楽しみな、毎日が楽しみに思える……そんなワクワクが満ちていった。
次回、二人目の転生者が登場です。




