File4―34 怪力強盗と血色の悪魔 〜調査報告書〜
〜レフト・ジョーカー〜
こうして、この事件は幕を閉じた。
久々にこの探偵事務所に帰ってきたって気がするぜ。時間にしては二日かそこらくらいの事なのにな。
……怪盗との戦いのはずが、何故かニュエルまで乱入してきて、最後にはでっかい巨人相手に敵味方関係なく協力する羽目になるとは……依頼を受けた時には思いもしなかった。
しかしまぁ、今回は振り返るべき事が多い。何から振り返ればいいのかわかりゃしない。
とりあえず……この事件の顛末から綴る事にする。
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この事件はそもそも『怪盗ダッシュが国宝を盗みに来るため、その国宝の警護』を依頼された事から始まったのだった。
だがしかし、事件が終わる頃――ライトが白い巨人を焼き尽くして倒した頃には、もう怪盗ダッシュもニュエルもウィンニュイもいなかった。
恐らく逃げたのだろう。白い巨人が倒された場合、次に標的になるのは自分達である、という事は奴らが一番よくわかってるはずだ。
鋼の炎杖は結果的には盗まれず、警護の依頼には成功した……と、言えるのだが……。
『おうおう兄ちゃん、なぁに辛気臭い顔してんねん!』
……何故か、鋼の炎杖は俺達の探偵事務所に居着いてしまった。どうしてこうなった?
鋼の炎杖はウザい親父みたいなノリで俺に擦り寄ってくる。
俺は鋼の炎杖をウザい、とライトにパスした。これでとりあえず安心か……に思えるが。
しかし、鋼の炎杖だけではない。今回の事件を終えて、この探偵事務所にはもう一人、メンバーが増えたのだ。
「あら、レフト。何してるの?」
……それは、リナリアだった。
リナリアはこの探偵事務所の上にある、おやっさん経営の喫茶店での住み込みバイト、という形で俺達の探偵事務所のメンバーになった。
俺はリナリアに『報告書書いてんだよ』と告げ、再びタイプライターの前に戻った。リナリアはイラとエルに呼ばれ、俺から離れていった。
とりあえず鋼の炎杖とかリナリアの事も後で振り返るので、今は話を先に進めよう。
結果的には怪盗ダッシュやニュエル達は逃亡してしまったが、鋼の炎杖は盗まれず。と、まぁまぁ良さげなエンディング……に見えるが。
今回の事件で王城はかなり深刻な被害を被った。
まぁ、俺達もニュエル達も怪盗ダッシュも白い巨人も、皆王城バッキバキに壊してたからなぁ……。事件が終わった後の国王様とセルベールの『これからどうすんのこれ……』って絶望に満ちた顔は多分一生忘れる事は無いだろう。しばらく我が国の財政は王城の修繕の為に火の車になりそうだ。
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さて、次にリナリアと鋼の炎杖についてだ。
俺達とリナリアとは、この事件が終わった後はまたいつも通りの日常に別れるはずだったのだが……何故かアフロディーテ様のご命令により、強制的に我が探偵事務所(厳密にはおやっさんの喫茶店)に住み込みで働く事になったのだ。王妃様であり元天人族でもあるアフロディーテ様からの直々の命令なので、誰も逆らえない。そんな誰も逆らえない事になった結果、リナリアの住み込みバイトの件については思った以上にスムーズに事が進んだ。
なんで……? とは思うが、まぁアフロディーテ様の事だし単なる気まぐれって事も有り得る。
とは言えども、ただの喫茶店に王女がバイトしてるというのは問題がある。そのため、リナリアにはマジックアイテムである『ジミーペンダント』を付けさせている。
このペンダントをつけている者は、自分の正体を知らない者に対しては正体をボカす事が出来るのだ。
例えば、俺達はもうリナリアを王女だとわかっている、ここで王女がバイトをしているのを知っているためにペンダントの効果は受けない。しかし、それをわかっていない、知らない者がリナリアを見ると『あっ……誰かに似てんなこの可愛い新人……どっかで見た事あんだよな〜……』くらいの認識で落ち着くらしい。
要するに結構高性能な隠れ蓑だ。
後、タレイアさんはリナリアの住み込みバイトの件によって、正式にリナリア専属の執事を辞める事になった。これからは王城全体の執事の教授など、様々な任務に就くことになるようだ。
タレイアさんがその事を聞いた時の涙には、色々なものが混ざっているように見えた。長い間の思い出とか辛さとか、色々なもの。
だがしかし、リナリアはこうして引きこもりから抜け出した訳だが……それでも、まだ家族達との隔たりは、少しだけあるようだ。
いや、厳密には国王様とセルベールとの隔たりだ。実母のアフロディーテ様と、リナリアの実妹であるアリア様との仲は良好なようだ。
……アリア様の事、完全に忘れてたな。そもそもの今回の事件の依頼人なのに。だが、アリア様の方も俺達の事をすっかり忘れていたので、特に問題はなかった。
話を戻そう。リナリアは、特にセルベールとの隔たりが大きいようだ。聞く所によると、リナリアは高スペックな実弟に対してコンプレックスなどのやりにくさを抱いているらしく、セルベールも実姉に長い間話さなかった結果の拗れが生じているらしい。
まぁしかし、俺は信じている。この姉弟の絆は本物の家族の、美しく尊いものだと。……暇な時に、仲介でもしてやれたらな、と思った。二人とも俺の大事な友達なんだし。
さて、鋼の炎杖に関してだが……コイツに関しては何でここにいるんだろう。俺もよくわかってない。第一王女が住み込みバイト、という前代未聞のどさくさに紛れて、ちゃっかりコイツもこの事務所に着いてきてたのだ。
聞いてみるか。横に本人……本杖? がいるんだし。
「なぁ、鋼の炎杖」
『なんや、兄ちゃん』
「何でお前ここにいんの?」
『え、何かあかんの?』
「いや……あかんくないけど。一応お前、国宝な訳じゃん。その辺大丈夫なのか」
『いやだってな、兄ちゃん。国宝って言ってもな、ずーっと薄暗い宝物庫の中に仕舞い込まれるだけなんやで? 寂しくてしゃーないわ……もうアソコには戻りたくない。だからこっそり兄ちゃんに着いてきたんや。国宝とかそんなん知らんわ、ワイはワイの好きに生きるで』
「……そっか。お前も案外、考えてんだな」
俺は少しだけこの杖の境遇に同情した。
長い間、暗い宝物庫に仕舞い込まれる気分なんてわからないが……それはとても辛くて寂しいものなんだろう。
……あれ? 結局、国宝がここにあるのは大丈夫なのか?
まぁ大丈夫か。何とかなんだろ。
俺はライトと話す鋼の炎杖を見てそう思った。
後日、セルベールが切羽詰まったような声で我が探偵事務所に電話をかけてきた。
内容は予想通り鋼の炎杖についての事だったが……鋼の炎杖本杖が『もう二度と城には帰らん!』と受話器を引ったくって、セルベールを怒鳴りつけて電話を切ってしまった。
そこから先の事はよくわからないが、多分何事もないという事は、セルベールが上手いこと裏で動いてくれているのだろう。
俺は我が友に感謝した。
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次に憲兵隊の事についてだ。
憲兵隊に生じた被害は、怪盗ダッシュによるものは死者はゼロだが負傷者がかなり多い。奴自身が自称していた不殺主義というのは、どうやら本当だったようだ。
それとは対照的に、ニュエル達によるものは、死者が数十人、負傷者も一〇人程。こういう風にまとめると、ニュエルはやはり殺人鬼なのだという事を再認識させられる。……今回は、俺は奴に甘さを見せた。それはやはり、こういう現実から目を逸らしていたから……なのかもしれない。
俺はその事を酷く反省したのだった。
後、憲兵長についてだ。
俺とライトは昨夜、怪盗ダッシュとニュエルが来襲すると言うのに、憲兵長は憲兵の配置を影で薄くしていたという事実を突き止めた。
証拠は『憲兵の中でも腕の立つ実力者が警備の特に必要な場所に配置されていない』という状況証拠しかないが……それでも、やはり憲兵長は何かしら裏があると思う。
一応その事はバーンに伝えてはみたが、『そんな事よりもよ。お前、この白い巨人との戦いで劣化版にしか出来ねー事を見せてやるって俺に意気込んだろーが。でも実際に白い巨人との戦いで活躍したのはライトだ。お前のあの言葉は結局何だったんだよ』と、話を逸らされただけだった。……正直、そこを突かれると弱い。その場のノリで言ってみただけだったから、特に何も考えてなかった……とは言えないしなぁ。いつか絶対見返す。俺はそう誓った。
だが、俺の言いたかった事はバーンもとっくに見抜いていたようで、奴は『まぁ、気ぃつけるよ』と笑っていた。
バーンは認めたくはないがかなり強いし、これでとりあえずは問題ないだろう……多分。
要約すると、憲兵隊は結構大きな被害を受けた。憲兵長は黒い部分が透けて見えるが、バーンの野郎が気を張ってくれているので何とかなりそうだ……という事。
それでは憲兵隊についてはここで締め、次の話題を纏めよう。
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次に白い巨人について纏める。
バーンの話によると、あの白い巨人は昨夜、王城に侵入してきたジョケル……なんちゃら博士が生み出したものらしい。
何だっけな……『完全生命体細胞』だっけ? なんかそれが暴走した結果があの白い巨人……らしい。
正直理系方面に関しては全く詳しくないため、本当に薄くにしか纏められない。
今度暇ができたら、詳しく調べてみようか。
何となくそんなことを思った。
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さて、次はライトの変化についてだ。
ライトの髪と目は、今は元の緑色に戻っている。機能も、元の扇風機に戻っていた。
どうやらライトの機能は任意で変えられるようで、風を操る扇風機の時は髪と目が緑色に。新しく増えた火を操る焜炉の時は髪と目が赤色になるようだ。
しかし……機能が二つ、か。ライトを診てくれたウェアチェル先生が言ってた、ライトは他の機人族とは違うって事と絶対関係あるよな……。
でも、今の所は特にデメリットはない。むしろ逆に、夏場は扇風機、冬場はストーブとして役に立ってくれそうである。
そんな事をライトに言ったら『キミは自分の相棒を電化製品とでも思っているのかい?』とガチギレされた。そんなに怒らなくても……ってくらい怒られて、実は今の俺はめっちゃ凹んでいる。
だが確かに、機人族は自分のアイデンティティに敏感だし……俺の発言が無責任だった事も自覚してる。だから俺が悪い……のはわかってるけど。でもあんなに怒るかよ。
もしかしたら、ライトが一番自分の変化を不安に思っているのかもしれない。よく考えてみれば当然だ。あの時はライト自身、自分の変化を『ただのイメチェンだ』と言っていたが……やはりアレは、普段の俺がするような強がりとか虚勢とか、そんなんだったのだ。
……って事をライトに言ったら『キミと一緒にしないでくれ』と否定された。そんなに否定しなくても……ってくらい否定されて、実は今の俺はめっちゃ凹んでいる。さっきも見たなこの流れ。
まぁとりあえず、ライトの変化については、皆で様子見ながらいつも通りに過ごそう、という結論に納まった。
ライト自身も、自分が特別扱いされるよりはそっちの方がありがたいだろう。
俺は鋼の炎杖と話すライトを見ながら、そう思った。
『しっかし兄さん、あの炎凄かったなー!』
「キミの炎もね。僕の炎だけではあの巨人は燃やしきれなかった」
『やー、ワイら案外気が合うかもなぁ。相棒として、どうや?』
む、今の発言は少しいただけない。
「おい鋼の炎杖。言っとくけど、ライトの相棒は俺だからな?」
『えー。でも兄ちゃん、子供みたいやん。兄さんには兄ちゃんみたいな子供よりワイみたいな男前の方が合うと思うで』
「誰がガキだこの杖っころ!?」
俺は鋼の炎杖と取っ組み合いを始めた。
傍目から見たら俺は完全に杖と一人遊びをするヤバい奴だが、今はそんな世間体よりも男としてのプライドを優先する。
「この杖野郎ッ!」
『なんやガキンチョー!』
この醜い取っ組み合いは、騒ぎを聞き付けたエルがそれを止めに来るまで続いたのだった。
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そう言えばこの事件の最中、おやっさんはどこにいたんだろうか。
気がつけば消えていて、気がつけばいたのだが。
聞いてみても『お前は気にするな』の一点張りである。
あの時も、突然戻ってきたかと思えばライトの事を聞いてきたり……おやっさん、何か隠してるよなぁ。
俺はコーヒー豆を挽くおやっさんを見ながらそう思った。
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纏めると、まず、俺達の探偵事務所に新しいメンバーが二人……一人と一本が増えた。リナリアと鋼の炎杖だ。
後、ニュエル達や怪盗ダッシュは逃亡……また相見える事になるかもしれない。
更に、ジョケルなんちゃら博士や憲兵長など、後暗い所はバーンに任せた。
そして、しばらくの間ウィンダリア王国の財政はヤバいかもしれない……。国王様やセルベールの腕の見せどころだ。
よし、こんなもんか。
俺はタイプライターから紙を取り外し、今回書いた紙の束を棚にしまったのだった。
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【小話】〜イラ&映瑠&リナリア〜
「おーいリナリアちゃん、こっち来てお話でもしよーよ」
「あっ、わかったわ映瑠。今行く」
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「いやー、しかしビックリだよ。まさか王女のリナリアちゃんがうちで働くなんてね」
「本当ですよ……ビックリどころじゃないです」
「リナリアちゃんはそれで良かったの?」
「うん。別に苦じゃないし、これからが楽しみよ」
「ほっほーう。ところでリナリアちゃん。私と同じで住み込みだけど、部屋がないから私と相部屋じゃん? それでも良かった?」
「別に問題ないわ」
「よかった。嫌がられたら私泣く所だったよ」
「よかったわね、無駄な涙流さずに済んで。感謝しなさい?」
「はーい、感謝いたしまーす!」
「仲良いですね二人共……」
「イラちゃんもリナリアちゃんと仲良くなれるよ絶対」
「いやでも……王女様ですし……私なんか恐れ多いっていうか」
「……そうよね。私は王女だものね」
「あーほらリナリアちゃん落ち込んじゃったよ!? ほら、仲良くしなさいイラちゃん!」
「あーわかりました仲良くしますから泣かないでください! リナリアさん、これからよろしくお願いします!」
「……あ、うん。よろしく……イラ」
「よし仲良くなったね二人共! それじゃ店主さんにケーキでもたかりに行こーぜぃ!」
「いやそれは流石におこがましくないです?」
「私もそう思うわ……」
「いいから二人共、行くよ!?」
「わっ、引っ張らないでください!」
「わかったわよ、行くわよ!」
「やー、これから楽しくなりそうだね! ワクワクしてきたよ!」




