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File4―28 怪力強盗と血色の悪魔 〜見えない壁に友の手を〜

評価や感想、ブックマークなどよろしくお願いします!

 〜ウィンダリア王城 大広間〜


 ライトは、目前の怪盗ダッシュを睨みつけていた。

 しかし、その姿はボロボロだ。所々肌が裂けており、導線などが小さくはみ出ているのが確認出来る。そこからは血の代わりと言わんばかりにバチバチと火花が散っていた。


「……全く。この依頼が解決したら、メンテしなきゃな」


 ライトは小さく舌打ちした。

 この戦いはライトにとって不利なものだ。だから、怪盗ダッシュが常に有利な一方的ワンサイドゲーム……()()()()()()()()()


「……がっ」


 ライトの前に立つ怪盗ダッシュも、ライト程ではないが、全身に傷を負い、たまに足元がおぼつかなくなっていた。

 ダッシュは笑いながら口元の血を拭い取り、言った。


「……中々やるじゃねぇかよ、ヒョロガキ」


「……キミこそ」


 ライトは唇の端を吊り上げた。

 ライトの風を操る機能ファンクションは、ダッシュに対しては不利な能力だった。

 しかし、ライトは何度も機転や奇策を思索し実行……何とかダメージを幾度か与えることに成功していた。

 ――しかし。


(……まずいな。これ以上のダメージは、僕の体がもたない)


 ライトは火花が弾ける己の体を見下げて舌打ちをした。

 このまま戦いが続けば、ライトはボディを動かす事ができなくなる可能性がある。

 ライトは数秒、自分がこの体で耐えられるダメージがどれくらいかを計算しようとして――やめた。


(……コンディションなんて気にしてたら、怪盗ダッシュには絶対に勝てない)

(この身を全て削ってでも……倒す)

(……どうせ、今頃キミも逆転し始めてるんだろ? レフト)


 ライトは先程悲鳴を上げていた自分の相棒を思った。

 それは心配ではない。むしろその逆、信頼の気持ち。

 そして、レフトが逆転し始めているのは事実であった。その事実をライトは、耳で拾えるレフト達の戦闘の音だけで察知した。


(……そろそろ僕も、何とかしなきゃ)


 渾身の一撃を放つ。それが、己の唯一の勝てる道。

 ライトはダイヤルを回し、目盛りを『必殺サイクロン』に合わせた。


(必殺サイクロンに必要なチャージ時間……稼いでみせる!)


 瞳に闘志を燃やし、意気込むライト。

 そんなライトを見据え、ダッシュもまた笑った。

 そして、彼はある提案を申し出た。


「ヒョロガキ。お前の全力と俺の全力……どっちが強いか、興味ねぇか?」


「……つまり?」


「単純だよ。お前のその大技サイクロン、エネルギーをチャージするための時間がいるんだろ? その時間、待っててやる」


 そんなダッシュの突拍子もない提案に、ライトは目を細め、目力を普段よりも強めた。


「……情けでもかけたつもりかい」


 ライトは始め、この提案を『自分への侮辱』だと受け取った……しかし。すぐに、それは違う、と気づいた。

 単純に……怪盗ダッシュは、力比べがしたいだけ。

 ライトはそう判断した。


「力比べ、と言ったところか」


「ああ。俺もお前がエネルギー溜めてる間に力を溜める。俺のかならころす“必殺”の技も、ぶっぱなすには時間がかかる」


「……そして、お互いが力を溜め終えたら、せーので力を発動する」


「正解。わかりやすいルールだろ?」


「……僕がそのルールを守る理由がないね。エネルギーを溜め終えたら即刻撃ち放ってもいいんだ」


「いーや、守るさ。お前なら絶対」


「わかったような口を」


「わかるさ。お前みたいな坊ちゃんタイプは、ちゃんと取り決めを守る」


 ……事実だった。

 だからライトは、その言葉に対して無言で答えた。それが、何よりの答えだった。


「………………フッ!」


 ダッシュも力を溜め始めた。筋肉が隆起し、温度の上がっていくそれからは湯気がもうもうと立ち始める。

 一触即発の雰囲気の中、二人は静かに己の牙を研ぐ。

 時は厳かに重たく流れていった。



 ****



 〜ウィンニュイ・ヴェーラ〜


 今から一〇分前。私の前に、執事が現れた。

 まぁ、その執事と名乗った男は到底ただの執事とは思えない程の力を感じさせ……っていうかアレ、完全に種族の垣根越えてるでしょう。

 多分アレは【天人族】【神子族】に仕える『神の使い』と言う奴だろう。一般的種族とは明らかに強さの格が違う。

 ……けど。


「だからなんだと言うのです?」


 私は詠唱と共に魔法陣を展開した。

 あの執事と一般的種族とは確かに格差がある。だが、生憎私は……ハイエルフ。【森人族】に生まれながら、その他種族を圧倒するアドバンテージがある。……決して、ハイエルフである事は幸運とは言えないが。

 私は詠唱を終えた。後はそのまま、引き絞るだけ。


「――【山姥は小僧を探す(オーガサーチャー)】」


 これは、探知魔法。探し者を見つけるための魔法。

 ……ああ、いましたね。そこは……第一王女の部屋ですか。どうやら二人は既に目覚めているようだ。あの執事モドキが何かしたんでしょうか。


「……影、展開」


 私は影の中に溶け込んだ。

 さぁ、イラ達を迎えに行こう。あの子達は私の……私、の……?

 ……なんなんでしょう?



 ****



 〜リナリア・ウィンダリア〜


 突然だった。

 ベッドの影から、女の手が生えてきた。

 それだけじゃない。手の次は腕、肩、頭、体……どんどんと生えてくる。

 やがて全身が露わになった時、私はタレイアが拾ってきた彼女達の事を思い出し、二人の方を向いた。


「……ウィンニュイ、さん……!」


「もう来ちゃったんだね……!」


 戦慄する二人。

 なるほど、どうやらこの女が彼女達の敵らしい。

 私はタレイアに命令を下した。


「タレイア。何とかしなさい」


「御意」


 生えてきたウィンニュイ……だったっけ、舌を噛みそうな名前。まぁいい、ウィンニュイに向かってタレイアが蹴りを放つ。

 その隙に……!


「二人共、逃げるわよ!」


 私は二人をベッドの上から突き飛ばした。

 二人は私の命令通りに転がり落ちるように……ていうか、転がり落ちながら私の部屋の扉を壊すように開けた。

 タレイアが時間を稼ぐうちに、私も……そう思った。

 ……でも。


「……ぁ」


 開け放たれた扉の前で、立ち止まってしまう。

 もう、扉はないのに……そこに見えない壁があるかのように、私は前に足を踏み出すことができなかった。

 ずっと、引きこもってきたこの部屋から……出て行くのが、怖かった。

 動悸が早まる。鼓動が一つ打たれる度に胸が痛む。

 背後の戦闘音に、目の前の見えない壁に、今まで引きこもってきた時間に……私は、押し潰されそうになった。


(早く、早く、早く行かなきゃ……!)


 焦る程に足がすくんだ。震えが止まらない。怖い、怖い、怖い。

 私は、涙で滲む視界に――


「何やってるんですか、リナリアさん!」

「早く逃げなきゃ、置いてくよ!?」


 ――その時だった。

 突然だった。私の両手を、二つの手が取り、無理やり私を部屋の外に引きずり出した。


(……!)


 私は目を強くつむった。

 目の前の見えない壁に、体を打ち付けられそうになったから…………だけど。


(……あ)


 そんなもの、どこにもなかった。

 強くつむった目を、ゆっくりと開く。

 そこには……私には眩しく見える、二人の少女がいた。


「大丈夫ですか!?」

「どっか痛むの!? 大丈夫!?」


 ……ああ、そうか。壁なんてなかった。勝手に私が作ってた……思い込んでただけ。

 私は後ろを振り向いた。タレイアが……戦いながらも、私に優しく微笑んでくれた。

 ……そっか。私は……長い間閉じこもってきた、この部屋から……出たんだ。

 私は部屋の外に踏み出した足を見て、笑った。

 そして、二人の方を向いて、そのままの笑顔で、二人の手を握ったまま駆け出した。


「早く行きましょ」


「えっ、ちょっと!?」


「大丈夫なんですか!?」


「……うん。もう、大丈夫」


 私は、もう大丈夫。

 二人の手を引きながら、走りながら、私は久々に外を見た。

 二人の方を振り返って言った。


「城の中、案内してあげるわ。着いてきなさい」


 こんなにも晴れやかな気分はいつぶりだろう?

 私の心は、軽やかに高鳴っていた……。



 ****



「……ぜぇ、ぜぇ」


「……大丈夫ですか、リナリアさん」


「そう言えば引きこもりって話だったっけ……そりゃ体力無いよね」


「……うっさい」


 開始数十メートルで体力の限界を迎えた私は、今やよろよろと手を引かれる側に回っていた。

 こんなにも引きこもり期間で体力が落ちてるなんて……。それに、胸が揺れて痛いわ重いわ……。


「……ちょっと休まない?」


「「まだ走って一〇分も経ってませんけど!?」」


 二人の声がハモった。

 うん、まぁ同感。私も半分冗談で言ったしね。……半分は本気だけど。

 私が少し息を整えるために立ち止まった瞬間だった。


「グゥゥゥッ!」


 呻き声を上げながら、タレイアがこちらに吹っ飛んできた。突然の事に、私以外の二人はびっくりして固まってしまう。

 ……吹っ飛ばしたのは、他でもない、あの女だろう。私の人生で出会った人の中でも、タレイアってかなり強い方だったと思うんだけど……。


「……お嬢様。まだこんな所にいたのですか」


「え、ええ。数分ぶりね」


「早く逃げてくれませんか? それともまさか、もう既に限界とか――」


「口を慎みなさい無礼者! 今からギア上げようと思ってたのよ!」


 私のいつも通りの強がりに、タレイアはよろりと立ち上がりながら答えた。


「……ええ。本当に、お願いしますよ」


 タレイアの睨みつける方向には……あの女が。ウィンニュイが、いた。

 タレイアは唾棄するようにウィンニュイに言葉を投げかける。


「……貴様も女なら、少しはたしなみというものを学んだらどうだ?」


 少しだけ苦しそうな声音。

 ウィンニュイはそれを聞いて、笑っていた。


「あら、ちゃんと嗜んでます。イラ達には決して本気を出さず……あなたのような相手には、本気の本気で相手をしています」


「ふん。“化け物女”が」


「“人”ですらないあなたがそれを言いますか」


「言い直す。“化け物”」


 タレイアはそう言うと、ウィンニュイに手の平を向けた。

 その手の平には魔法陣が展開されており、タレイアはその魔法陣をぶん殴った。


「『満開殴華螺旋刃まんかいおうからせんじん』!」


 魔法陣から、螺旋状に渦巻く桜吹雪がほとばしる。

 その桜吹雪は、一枚一枚が鋭そうな刃になっていて……。


「って、眺めてる場合じゃないわ。逃げなきゃ」


 私は再び走り出した。

 ……けど、多分このままじゃタレイアは……負ける。タレイアよりも強い人なんて、全く知らなかった……けど。


「……ねぇ、二人共」


 私は、気がつくと二人の手を握る力を強めていた。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()……だったのかもしれない。


「ちょっとだけ、頼まれてくれる?」


 そう言うと私は左に曲がった。

 最後に二人に、こうつけ加えて。


「言っとくけど、拒否権はないから」


 何か二人がうるさい気がするが、もう頭の中には入ってこない……れない。

 背が小さい方が、私に何かを聞いてきた。


「何、何を頼むんですか!?」


「私についてきて」


「どこに向かってるんですか!?」


「『鋼の炎杖』の在処よ」


「えっ、ええ!?」


「お父様の事だから……どうせあそこ」


 私は知っている。お父様が隠し場所にしようとしてる所なんて、全てお見通しだ。

 特に、そういう大事なものを隠そうとする時は……天文台の隠し屋根裏。


「……待っててね、タレイア」


 私が鋼の炎杖を取りに行こうとしている理由……それは。その宝なら、タレイアの助けになれるのでは……そう、考えたから。

 私は、走るペースを少しだけ上げた。



 ****



 〜バーン・アイシクル〜


 俺はゆっくりと瓦礫の中から体を起こした。

 パラパラと俺の体の上から、瓦礫が零れ落ちた。


「いってぇ……」


 あの完全生命体の細胞が暴走したとかなんとかで生まれた白い巨人と交戦して、まぁまぁな時間が経った。

 戦局は……わかんねぇ。結構さっきからダメージを与えてはいるが、生憎奴はのっぺらぼうだし、動きも全く変化がない。攻撃が効いてんのか効いてないのか、それすらもわからなかった。

 あの野郎……しばらくは全く動かないと思って一方的に攻撃し続けてたら、急に反撃してきやがった。

 ちなみに俺が瓦礫に埋もれていた理由は全く簡単だ。白い巨人に殴り飛ばされ、城壁に衝突しただけ。その際に城壁の一部が崩れてしまい、俺を埋めた。ただそれだけだ。


「ふぅ……」


 俺はうちわを扇ぎながら、呼吸を整える。

 周りを見渡すと、他の隊員が見えた。俺よりもボロボロだった。

 だが、闘志は全く衰えていない。なら、いい。


「隊長〜、大丈夫ですか!?」


 衛生兵のフララが、森人族特有の長く尖った耳と、何食ったらそんなにデカくなんだよと言いたくなる乳を揺らしながらこちらに走り寄ってきた。


「回復魔法かけますか?」


「いや、いいや。あの辺で()()()()()ジャッカーにでもかけてやれ」


「え? ジャッカー先輩……ジャッカー先輩!? 何ですかそれ、大丈夫ですかぁ!?」


 フララが素っ頓狂な声を出す。

 当たり前だ、何故ならジャッカーは地面に頭から突き刺さっていたのだから。ギャグ漫画か。

 俺はジャッカーに駆け寄っていくフララの背中を見て、ため息一つ、再び白い巨人と交戦を始めた。


「足元には気をつけろ」


 俺はそう白い巨人に言いながら、奴の右足首に蹴りを入れた。

 バランスを崩した巨人は、ゆっくりと前に倒れていき――


「って、バーン先輩!? このままじゃこのでっかいの、お城の方に倒れちゃうでありますよ!?」


「……あ」


 ――そんなリューの言葉に、一瞬だけうちわを扇ぐ手が止まる。一瞬なので『激闘心火ヒートアンドビート』は発動しなかったが、そんなこと今はどうでもいい。

 スローモーションでゆっくりと王城へ倒れていく白い巨人――俺がこの事件に片がついた時の、倒壊した王城についての言い訳を考え始めた、その時。


「気をつけろ!」


 ……という怒鳴り声と共に、白い巨人が、倒れていた方向とは逆側につんのめった。その結果王城には特に被害はなく……良かった。


「バーン! 気を抜くな!」


 そう、怒鳴り声の主――アステロルが、王城の屋根の上から俺を叱咤する。

 恐らくだが、アステロルが屋根によじ登りあの白い巨人を逆側に殴り飛ばしてくれたんだろう。アステロルはバーン隊で一番力がある。力が取り柄である地人族のガリウスが飲み会の度に『なんで俺より力あるんスかぁ……獣人族の癖に!』とボヤくのはもはや恒例だ。

 しかし助かった。下手すりゃ明日から借金生活を送る所だった。

 俺は安心し、ため息を吐いた。


「ナイス。昇給してやろーか」


「いらん! 気を抜くなと言っとるんだ!」


 アステロルは再び俺を怒鳴りつけると、白い巨人へと飛びかかった。

 だが――アステロルの拳は空振りに終わった。何故なら、アステロルよりも先に、白い巨人を殴り飛ばした奴がいたからだ。

 白い巨人を電光石火とも言える速度で攻撃した本人は、鼻息荒く叫び散らした。


「テッメェ……よくも俺を地面に刺してくれたな! 大恥かいたじゃねーかこの真っ白野郎ッ!」


 バチバチと静電気を弾かせながら、ジャッカーが白い巨人に当たり散らす。

 恐らくジャッカーに回復魔法をかけてやったんだろう、フララは今、何故かチアガール衣装に着替えて(多分早着替えの魔法とかでも使ったんだろう)ポンポン振って応援していた。

 そんな彼女を、キャシィは横目で『乳エルフ、お前本ッ当にあざといな』と冷たい目線を浴びせていた。


「――恐れおののけ物の怪共よ】――【振り下ろされし天罰ジャッジメント・パニック】」


 ジャッカーの頭上に、アウラの雷魔法が落とされた。しかし。電気人間であるジャッカーにとって、落雷はむしろエネルギーに変わる。ジャッカーの周りで弾ける電気の火花の勢いが増した。


「うおおおおおおおおおおるるるああああああああああ!」


 凄く頭の悪そうな雄叫びを上げながら、ジャッカーは白い巨人の顔面に拳を叩き込んだ。まるでクッションのように拳がめり込む白い巨人。少しシュールな絵だ。そのままジャッカーが放電すると、白い巨人は初めて体を痙攣させるなどの反応を見せた。


「……電気、効くのかな?」


 ミューが二丁の拳銃を回しながら、小さく首を傾げた。

 そんなミューの背中をガリウスが叩く。


「おっ、やる気ッスねミューくん! 電気効くみたいだし、電撃弾に変えてみたらどうッスか?」


「……そうだね、ガリウス」


 ミューは表情の乏しい顔で弾を入れ替えようとした――しかし。気がつけば俺はそれを手で制していた。


「……隊、長?」


 ミューが俺を訝しむような目で見上げてくる。

 俺にもよくわからない。ただ……このままじゃ、不味い。そんな気がした。


「ジャッカー! 退避だ、戻ってこい!」


 俺は未だに放電を続けているジャッカーに叫んだ。

 しかし、獰猛な笑みを浮かべるジャッカーには聞こえていなかった。

 やがて――その時は来た。


『ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 突然のことだった。白い巨人の口がガパッと開かれ、泣き叫ぶような慟哭を上げたのは。


「……今まで無反応ノーリアクションだったのに、どうして」


 ラヴィーが自身の変身した魚の尾を振りながら、怪訝そうに顔をしかめた。……同感だ。

 しかし、巨人の変化はそれだけに留まらなかった。バチッ、バチッ……と、白い巨人の周りを火花が弾けている。

 未だに白い巨人と相対しているジャッカーが、目を見開いた。


「まさか、この野郎ォッ」


 それと同時に巨人の太い腕の薙ぎ払いがジャッカーを大きく吹き飛ばした。


「おい電気バカ、大丈夫か!?」


「僕も、ついてく」


 バーン隊の中でも特に小柄なキャシィとミューのコンビが、ジャッカーの安否を確認しに行った。

 だが俺は、そんな事よりも――いやもちろん団員の怪我を“そんな事”で片付けていいはずはないが――あの白い巨人の変化の方が、ヤバいと感じた。

 未だにあの巨人の周りをバチバチと弾ける火花。ああ、まるでこれは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「なるほどなぁ」


 俺は舌打ちした。

 これはあくまで憶測。しかし、多分正解だろう。

 確かあの巨人は、キャシィ曰く“完全生命体の細胞が暴走したもの”……らしい。そして、俺も昔、完全生命体についての論文を読んだ記憶が朧気にだが、ある。

 その記憶と、今現在の状況を繋げば……答えはほぼ一つだろう。

 俺はその予測を全団員に大声で伝えた。


「全員、攻撃やめろ! 多分このデカブツは――()()()()()()()()()()()()()()()!」


 こう考えれば、まぁ納得行くだろう。“ジャッカーの放電”という刺激を受けた巨人が、ジャッカーのような放電能力を得ているように。

 この細胞かいぶつは、受けた攻撃を学習し、自分のものにすることが出来る。

 後、さっきリキラが眼鏡を光らせて言っていた――『何らかの刺激トリガーによって元の姿に戻る……いや、違うか。その刺激を元に、新しく姿を構築していると言えばいいのか』――という言葉もヒントになった。恐らくリキラもこの完全生命体についての論文を読んだ事があるんだろう。


「……ったく、あのペテン師科学者が」


 俺はそう毒づいた。

 こんな細胞、戦争に生物兵器として用いれば、最高のポテンシャルを発揮するだろう。銃弾を受ければ銃弾を撃つ生物に、森人族の魔法を使われてもそれを学習、こちらの力にできる。

 この細胞の製作者『ジョケル・ルイシュミット』の論文には、少なくともこんな軍事利用ができそうな使用方法については、全く書かれていなかった。少なくとも、こんな兵器のような使い方ができると書かれていれば、あの論文の評価もガラリと変わったに違いない。

 そして……こんな細胞の発明者が、軍事利用の可能性に気づかないはずがない。

 つまり――


「あのジジイ……隠してやがったな」


 何のつもりかは知らないが。

 それと同時に、気づいた。


 ――『あの野郎……しばらくは全く動かないと思って一方的に攻撃し続けてたら、急に反撃してきやがった』――


 そりゃそうだ。外部から刺激を全く受けていない、まっさらな状態なら……あの白い巨人も微動だにしなかっただろう。

 つまりこれは……知らなかったとはいえ、俺達バーン隊のミス。

 その事はもう、隊員全員も気づき始めているようだった。


『――ウオオオオオオオオオオオオオオ!』


 雄叫びと同時に、電撃が雨のように発生し、俺達を襲った。……ジャッカーの放電能力だ。


「お前ら……何とかするぞ」


 俺は全隊員にそう告げ、再び白い巨人に突っ込んだ。

 ……全くのノープランだが。



 ****



【小話】〜イラ&映瑠&リナリア〜


「……ちょっと、いいかしら?」


「何? 言っとくけど、休憩とかはしてる場合じゃないよ!」


「そんなこと分かってるわよ! ……そうじゃなくて、えっと……あなた達の名前、教えて欲しい」


「……あ、なるほどね。私は『園寺映瑠ソノデラエイル』!」


「あっ、えっと、私は『イラ・ペルト』です!」


「私は名前が下だよ、映瑠が名前だからね!」


「わかったわ、……映瑠に、イラ。……その、私の、事も……別に呼び捨てで、いいわ」


「じゃあリナリアちゃんで、どう?」


「好きに呼びなさい」


「わっ、私は……リナリア……さん、で」


「……好きに呼びなさい」


「イラちゃん、リナリアちゃんあからさまにしょげちゃったよ」


「だって! 王女様を呼び捨てとかちゃん付けとか、無理です!」


「そうよね私は王女様……無能で引きこもりの……」


「うわー結構こじらせてるやつだこれー」


「ていうか、あのですねっ、リナリアさん! 私は別に、他の人にもさん付けですからね!? エルさんだってさん付けです!」


「あ、そうなの?」


「はいそうですリナリアさん! 私は誰にでもさん付けですから!」


「……でも、ライトくんにはくん付けなんだね?」


「うっ、それは……ライトくんが、さん付けは嫌だって」


「ついでに言うと、レフトくんも何故か探偵さん呼びだよね? 昨夜結局聞きそびれたよ」


「あ……だからそれは……えっと」


「……イラ。嘘は、良くない、ゲホッゲホッ! ……わ。本当の、事……、話すまで、逃がさないから……」


「っていうかリナリアさん大丈夫ですか!? めっちゃ息切れ凄いんですけど!」


「……ちょっと休憩しない?」


「「してる場合じゃないんだよ(です)!」」

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