File4―27 怪力強盗と血色の悪魔 〜ガールズファイト〜
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〜イラ・ペルト〜
探偵さんに銃を投げた私は、背後を振り返る。
そこには、少し息が荒くなったウィンニュイさんの姿が。
「……ウィンニュイさん、体力案外ありませんよね?」
「ていうより、持久力がないっていうか」
「……そこの二人。やかましいですよ」
そこまで言うとウィンニュイさんは少し息を整えて、そして少し誇らしげに軽く胸を張って笑った。
「……ハンデですから」
「ハンデって言えばとりあえず威厳保てると思ってない?」
「そういう所探偵さんみたいです」
「一緒にしないでください!?」
顔を真っ赤にしながら怒るウィンニュイさん。
やたらと私の前には意地っ張りとか虚勢張りが多い気がする。
さて、私達二人がどうやって探偵さんの元に銃を届けられたのか。
話は単純だ。ただ単に、私達二人は逃げ回っただけ。ウィンニュイさんが放った魔法は全て守護獣ちゃん達が弾いてくれた。昨日あっさり撃ち落とされた事に対するリベンジや、さっき簡単にご主人様であるエルさんを攫われた不名誉を挽回できるように頑張ってくれていた。
それに、私の射撃もそこそこ役に立った。今は探偵さんに渡しちゃったので、ただのお荷物に逆戻りだけど。
ウィンニュイさんはパスパスと軽い魔法弾を撃ち続けながら、渋い顔をした。
「……はぁ。守護獣達が凄く鬱陶しい」
自分の魔法を、軽めとはいえ全て弾いてしまうエルさんの守護獣ちゃん達に、ウィンニュイさんは舌打ちを落とす。
「私の自慢の子ですので!」
そんなウィンニュイさんに、ふっふーん、と自慢気に胸を張るエルさん。
そんなエルさんを半眼で見つめながら、ウィンニュイさんはため息を吐いた。
「……そうですか。えっと……あなた、名前なんですっけ?」
「園寺映瑠だよ! 覚えて!」
「そうですか。それでは映瑠。――終わりにしましょう」
ウィンニュイさんはそう言うと、詠唱を始めた。
ゆっくりと、それでいて速やかに。
「【毒林檎に口付けを、聖女の館に一角獣を。棘のついた薔薇を鷲掴み、底無しの沼に足を踏み入れし愚か者よ――」
「っ、エルさん!」
「うん! 皆、止めて!」
守護獣ちゃん達が詠唱を続けるウィンニュイさんへと突撃する。
ウィンニュイさんは守護獣ちゃん達のその攻撃を……避けずに無抵抗で受けたのだった。
「溶岩を泳ぎ氷河を】――ッ、ぐあっ!?」
ビートルーブちゃんとスタグスちゃんの甲虫コンビの体当たりをまともに受けたウィンニュイさんは、呻きながら床を転がる。
しかし。一向に詠唱を止めようとはしなかった。
「……っ、【氷河を転がり砂漠に埋まる気狂いよ――」
エルさんはそんなウィンニュイさんを見て、やりにくそうに瞳を細めた。
「……なんで抵抗しないのっ」
「わかりません、わかりませんけど……! 防御を捨ててまでの切り札、って事じゃないんですか!?」
「じゃあ撃たれたらヤバいじゃん!」
「そうですよ! だから、止めないと……」
「……けど、多分あの人抵抗しないよ」
「……っ」
「無抵抗の人を攻撃するのは……できないよ」
私はウィンニュイさんを見つめた。
ウィンニュイさんは……笑っていた。薄く、それでも柔らかく。
「……多分、こうなる事もウィンニュイさんの作戦です」
私は彼女の笑みを見て確信した答えを提示した。
エルさんは合点したようで、突然唸りだした。
「私達が無抵抗の相手には攻撃できない優しい優しい性格だと見抜いて……って事? むむむ……卑怯だよ!」
「優しさに漬け込むなんて、ウィンニュイさんは非道です!」
私達のブーイングも無視して、ウィンニュイさんは詠唱を続ける。……その魔法の詠唱、長すぎません!? どんだけ特大なんですか殺す気満々じゃないですか!
「……エルさん、ここは心を鬼にして……」
「……そうだよね、迷ってたらこっちがやられちゃう。……皆、お願い!」
そして、一方的な、心苦しい痛めつけが始まった。
詠唱を止めようとはしないウィンニュイさんへ、ビートルーブちゃんの突進が、スタグスちゃんの突撃が、バッティーちゃんの超音波が、フロッガーちゃんの舌が、デンデンちゃんの殻が、スパイドちゃんの糸が、その肌を傷つけ、痛みを与える。
……私達は押し潰されそうなくらいな罪悪感を覚えた。
「せめて、早く気絶して!」
「ウィンニュイさん!」
しかし、それでもウィンニュイさんは詠唱を止めることなく――そして、完成させてしまった。
「――痛みを汝に返しましょう】――【復讐歌葬……四重奏】」
……復讐?
私がその言葉を脳内で咀嚼し、ようやく飲み込めたその瞬間――目の前が真っ白になった。
「「――ッ」」
そして、視界が元に戻った頃には、全身がズタボロになった私とエルさんの二人が残った。
何が起きたのか……私は唐突に全身を走る凶悪な痛みに声も出せないまま、どこか達観した感じで考えた。
まず、強烈な光が私達二人を飲み込んだ。そして、その光の中で、私達は一瞬のうちに苛烈な攻撃を受けた。ただ、それだけ。
私は隣のエルさんを見る。エルさんは耐え切れずにその場に倒れてしまった。それと同時に守護獣ちゃん達も力尽きたように霧散した。
「エ……ル……さん」
私も、同じように力が抜けてしまい倒れた。
ぼんやりした意識の中で、ウィンニュイさんの声が遠く聞こえてきた。
「今の魔法は、光を放出し、その中に飲み込んだ相手へと、詠唱中に私が受けたダメージを一から一〇倍にして与える魔法です。今のは四倍。あなた達の守護獣達が私を痛めつけてくれたおかげで、とてつもない威力に膨れ上がりましたね」
「……そん、な」
「私の作戦通り。あなた達は詠唱を続ける私に対し、罪悪感を抱きながらも攻撃を止めることはない……そう踏んだ私の頭脳を褒め称えてもいいですよ?」
「……さく、せん」
「ええ。罪悪感は己を無意識のうちに縛り付け、視界を狭めますから、突然の事には反応しにくくなりますし。全て私の手の平の上です」
……もう、言葉は出てこなかった。
私達の口からはただ、荒い吐息が吐き出されるだけ。
だけど、ウィンニュイさんはそんな私達二人に対して、未だに何かをしようとしていた。
「守護獣達がまた何かするといけませんし……拘束しておきましょう」
そう言うとウィンニュイさんはエルさんの足を雑に持ち上げ、私の方へ引きずった。
そして、抵抗する力も残っていない私とエルさんの体を向かい合わせるようにして、手に持った革製のベルトで縛り付けた。
「……これでよし」
ウィンニュイさんが私達を縛りつけた瞬間――電流が二人の体を迸った。
「「ッ、アアアアアアアアアアアアアアア!?」」
同時に私達二人は悲鳴を上げた。
全身を流れる電流が傷だらけの肉体を強制的に跳ねさせるが、そうはさせないと革のベルトがキツくキツく締め上げている。
私は余りの苦しさにエルさんの体に顔を埋めようとした。エルさんの体も、私と同じように傷だらけでビクビクと痙攣を起こしていた。
「常に電流を帯びている川で暮らす『電牛』の革に、『エレキスチル』で作った金具。その拘束具で拘束されたら最後、その拘束が外れるまで電流に悶え苦しむ事になります」
「うううううううっ!?」
「大丈夫、気絶したら外してあげます。殺す気は無いですから」
そう言って笑うウィンニュイさんに、エルさんが苦しみながらも返答した。
「どうして……こんなこと!」
「あなた達にちょっかいを出すのが楽しい……ただそれだけです。ニュエルにとってはあなた達の事はどうでもよいのでしょうけど……私にとっては、最高のおもちゃになるのです」
「私達は、おもちゃじゃない……!」
「少し表現を間違えました。愛玩動物ですね、どちらかと言えば」
「……ぐっ、あっ、くっ、あ……」
「耐えられないのであれば、思い切り叫べばいいでしょう。……すみません、やっぱり愛玩動物も、少し違います。……何なんでしょうね、私にとってのあなた達は」
「っ、ぐっ――」
「……大切?」
ウィンニュイさんのその言葉を最後に、エルさんは思い切り叫んだ。
その悲鳴は耳を塞ぎたくなるほどだったけど、塞ぐ手は縛られてるし、そもそも塞ぐ気力も残っていない。
私達の意識は、次第に削り取られていった――。
****
「そこまでだ」
……声が、聞こえた。男の人の声。まだ、聞いたことのない人。誰だろう……?
「……あなたは?」
「ただの執事ですよ」
「ただの執事、ねぇ……。あなた、嘘つきです」
「指名手配犯よりはマシでしょう」
その言葉と共に、私達二人を花の香りが包んだ。
私はすっと目を細めた……。
****
〜園寺映瑠〜
「……ん」
いい匂い。花かな。なんの花だろ?
私はぼんやりと目を開けた。
「……ここ、は?」
確か私とイラちゃんは……ウィンニュイさんの魔法でボロボロにされて……電気ビリビリ〜ってなって……?
「あら、目が覚めた?」
突然、知らない女の子の声がした。
私がその方向に目を向けると。
「大丈夫?」
……すごいおっぱいがいた。
あ、違う。おっぱいも凄いけど、それ以上に美人さんだ。目も綺麗な大きな目で、見た目も着ている服もなんか“お姫様”って感じ……。後、おっぱいもお姫様サイズだ。
「……誰?」
私は率直に聞いた。
そのおっぱい様は……違う違う。お姫様みたいな女の子は、髪を耳にかけながら答えてくれた。しかしダメだね、電流のせいか頭が上手く働かないや。
「私は……えっと、驚かないでよ?」
「……?」
「『リナリア・ウィンダリア』。……一応、あくまでも一応だけど……一応、この国の第一王女」
「……!?」
王女様! おっぱいさんが、王女様!?
なんか五七五の俳句長になったけど、そんな事はどうでもいい。
私は目を見開いた。
「……え、どうして目の前におっぱ……王女様が?」
「それは……ちょっと待ちなさい、あなた、今何と言い間違えた?」
胸を隠しながら、見下すような瞳でこちらを見つめてくる王女様。なんでだろう、こんな美人さんになら見下すような瞳もご褒美に思える。
……っていうか、リナリア……って名前、どっかで聞いたような。
「……まぁいいわ。あなた達がここにいる理由よね? ちなみにここは私の部屋。城内が騒がしかったから、タレイア……私の執事に様子を見させてたの。そしたら、あなた達がビリビリやられてたらしくて。酷いわね。まぁ、タレイアの力で、色々と手当てしたから大丈夫だと思うけど」
「なるほど……ありがとうございました」
「だって、タレイア。……それで、聞きたいんだけど、あなた達は何なの? 憲兵にしては華奢だし」
王女様は私と、隣で未だに寝ているイラちゃんに質問を振った。
……ごめんねイラちゃん、すっかり忘れてたや。
私はイラちゃんの髪を撫でながら答えた。
「えっと……私は、探偵の助手で」
「っ、えっ、た、たた、探偵?」
「え、あ、はい」
……何この反応。
急に王女様は目を見開いて、どぎまぎし始めた。
「えっと、なにか?」
「……いいえ、いいえ。別に? ……別に?」
……その時だった。私の記憶のピースが、ピタッ! とハマったのは。
「……あ! リナリアちゃ……様って、もしかして! レフトくんが友達になったぜーって言ってた、あの王女様!?」
「――ッ!」
その瞬間、王女様の顔は真っ赤になった。
……私、そんなに赤面するような事言ったかな……。
「……もしかして、違いました?」
「……別に、違ってない……違わない」
「なら、本当にレフトくんと友達なの!?」
「え、ええ……そう、だといいんだけど」
「……? 違うの? レフトくんが勝手に友達になったぜーって言ってるだけ?」
「えっ、違っ、そういう意味じゃなくて……えっと、その」
「……え、何その反応、わかんない」
「〜〜〜っ、タレイア! 代わりに説明しなさい!」
王女様はそう言うと後ろに立っていた執事服の人を呼んだ。
その執事さん……タレイアさんは、文句一つ言わずに王女様に従う。
「お嬢様は友達が今までいなかったので、人との付き合い……距離感がいまいちわからないのですよ」
「友達がいなかったくだりはいらないわよ、バカ!」
「そこ言わなきゃ説明が難し……ああはい私が悪かったですお嬢様」
顔を真っ赤にして怒る王女様に、タレイアさんも反論しようとしたけど……王女様が鞭を取り出した途端にペコペコと謝り始めた。何となく、この二人の力関係が垣間見える。タレイアさん大変そうだなぁ……。
私が何となくタレイアさんに同情していると、イラちゃんも目覚めた。その後のリアクションは違いはあれど、内容は私と同じだったので割愛。
「……なるほど。探偵さんが王女様と友達になったというのは本当だったんですね」
イラちゃんはふむふむと頷く。
そして、王女様の方を向いて疑問の目を向けた。
「……あの、リナリア様」
「何? ……後、様付けはあんまり好きじゃないの、出来れば控えてくれる?」
「えっと、それじゃあ……リナリアさん?」
「……まぁ、いいでしょう」
「リナリアさん……探偵さんとは、どのような出会いを?」
瞬間、また王女様……あ、様付け嫌いなんだっけ。じゃあ……リナリアちゃん、はまた顔を赤く染めた。
……よく顔が赤くなる人だなぁ。かわいい。
「……えっと、ね」
「……やっぱり探偵さん、何か失礼なことやらかしちゃったんですか」
「……失礼……まぁ、失礼なこと……かしらね」
「すみませんでした……代わってお詫びを」
「あ、いや、事故みたいな感じでもあったし、謝らなくてもいいのよ別に!」
「ちなみに、どのような粗相を……?」
イラちゃんがそう聞くと、リナリアちゃんはバッと自分の胸を覆い隠した。
……何この反応。私はふと思いついたそれを、リナリアちゃんに聞いてみた。
「……もしかして、ラッキースケベみたいな出会いだったり? ……なーんちゃって」
私は軽い冗談のつもりで言った……んだけど。
リナリアちゃんはプルプルと震えながら、赤くなった顔を両手で覆い隠した。
「……あれ、図星だったかな」
「もしこれが本当なら、探偵さんめちゃくちゃやらかしてるじゃないですか……」
顔が赤くなるリナリアちゃんとは対照的に、顔を青くするイラちゃん。私の顔色は……間をとって紫ってことで。……って、チアノーゼじゃないか。
そんな私達にタレイアさんが補足説明してくれた。
「……昨晩、突然この部屋の天井が崩壊しまして。崩壊した天井と共に、探偵殿が落ちてきて……見事にお嬢様の胸元に顔を」
「……あのおっぱいに」
「顔を……埋めたんですか」
私達二人はゴクリと唾を飲み込んだ。
正直、あのおっぱいは同性であってもこう、触ってみたくなるような、おっぱいという概念をそのまま固めたような魅力がある。
イラちゃんはと言うと、リナリアちゃんのおっぱいを見た後で自分の胸を見下ろし、そしてガックリと項垂れていた。……割とガチな凹み方じゃない?
「……イラちゃん、別に女はおっぱいで全部決まるわけじゃないよ」
「エルさん……私別に胸なんて気にしてねーですって」
「いや今のリアクション見せられてその言い分は通用しないよ……」
「……うううっ、うぅ」
ズルズルと凹んでいくイラちゃん。このまま萎んでくと最終的に潰れてしまうのでは?
私はイラちゃんを抱き抱え、必死で背筋をさすった。
「イラちゃん、気をしっかり……!」
「大丈夫です……将来的にビッグな女になりますよ私は……」
「……あの、さっきから私の胸の話で盛り上がらないでくれる? すごいその、恥ずかしい……」
リナリアちゃんも私達二人の方に近づいてきた。
そんな女子勢三人を見たタレイアさんが、一言呟きを落とした。
「……なんだこれ」
……ごもっともです。
結局私達はグダグダと話を続けてしまい、現在の状況が結構危機迫っているという事を思い出すのに五分ほど時間をかけてしまったのだった。
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【キャラクター設定】〜タレイアがイラ達を助ける時に使った能力〜
『射空華』……ウィンニュイへの威嚇射撃のために使用。
『華風散舞踊』……ウィンニュイと出会った際に二人を連れて撤退するために使用。花びらが竜巻のように辺りを包み込み、風のようにその場から消え失せるワープ能力。
『鳳仙扇羅楽』……二人を拘束していた革製ベルトの切断に使用。
『森鳥姫夢』……二人の回復に使用。花びらが散るフィールドを作り出し、そのフィールド内にいる全ての者を癒す。
『虎龍妖魔戮行脚蹴』……もしイラと映瑠がリナリアの身を脅かすようなことがあれば即座に使用できるよう、常に準備していた。回し蹴り。常人が受ければ死亡は必至。




