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File4―26 怪力強盗と血色の悪魔 〜ニュエルの焦り〜

評価や感想、ブックマークなどよろしくお願いします!

 〜ニュエル・ボルゴス〜


「死ねよ死ねよ死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 俺は叫びながら何度も血のナイフで探偵に襲いかかった。

 探偵は身を捻ったりして俺の猛襲を何度も避けるが、先程俺が突き刺した左足が痛むのか、動きが鈍い。事実、左足を刺されてからの探偵には何度もナイフで薄く傷を与えることが出来ていた。


「今日こそお前をぶっ殺す!」


 俺は笑った。

 ようやくだ。ようやく、殺せる。

 初めて会ってから、ずっとずっとムカついてた。殺したかった。だから殺そうとした。

 ……最初の一戦は、負けた。その敗北は俺の殺意を余計に増長、肥大、成長させた。

 そして昨日。勝てると思った。殺せると思った。探偵のその命は、俺の目の前まで……手の届く所まで、来ていた。殺せると、思ったのに……探偵は自分自身を銃で撃ち抜き、見事に俺の魔の手から逃げやがった。この後のフラストレーションの発散に、何人か憲兵を殺したが、決して満足はできなかった。

 そしてさっき。……負けた。もう、俺の殺意は破裂しかけの風船のように膨れ上がっていて、どうしようもできなかった。ウィンニュイのおかげでその殺意は多少は治まったが、それでももう、長くはもたない。


「もう……今殺るしかねぇんだよ!」


 既に笑みは消えていた。

 あるのはただ一つ……焦燥。


「頼むから殺させろ! 殺させろ! 殺させろぉぉぉぉぉぉ!」


 今を逃せば、もう無理だ。

 俺は多分、ニュエル・ボルゴスを保てない。

 身を焼き尽くすような殺意に発狂して狂乱してそして……何物でもない、ただの獣に成り下がる。

 それは……嫌だ!


「あああああああああああああああ!」


 ナイフを再び振りかざす。

 そのナイフの先端は、探偵の手の甲を傷つけ、探偵の握っていた小袋をどこかへすっ飛ばした。

 今の小袋は探偵の俺対策の切り札『親愛なる吸血鬼へ(ガーリックウィズラヴ)』。吸血族の血操を解除する効果のあるニンニクだ。

 だが今、その切り札は俺が排除した。残るは探偵……お前だけだ!


「俺に殺されて死にやがれェェェェェェェ!」


 振りかざしたナイフは、探偵の胸に、心臓に吸い込まれていく。

 やがて、ナイフの先端は探偵の肉に突き刺さ――った。


「!?」


 そう、探偵の肉体にナイフはキッチリと刺さった。ただし、刺さったのは胸じゃない……左足だ。


「……もう、刺されてんだから……二度や三度、大して変わんねーだろ」


 ……探偵、コイツ!

 ()()()()()()()()()()()()()

 一度刺されて使い物にならなくなった左足を再び振り上げて、己の肉体を守る肉壁にした!

 懇親の力を込めて振り上げられたのであろう左足は、ナイフが突き刺さったまま、力が抜けたようにぶらりと揺れ……それと同時に、探偵自身もバランスを崩してその場に倒れた。


「……痛ってぇ」


 探偵は上半身だけ起こし、俺を睨みつけてきた。

 俺はその目線に……込められた敵意に、一瞬だけ恐れおののき、怯むのを自覚した。


「ニュエル。俺は絶対に、お前に殺されない。殺させない」


「……なんでだよ。どうしてそこまですんだよ」


「俺はまだ生きてたいんだよ。それに、決めてるんだ。世界一の探偵になるって……だから。その夢の足がかりとして、指名手配犯のお前を捕まえる!」


「お前を、今ここで殺す……だから、素直に殺されろ」


「俺が素直じゃないってことくらいわかんだろ……似た者同士なんだから」


「……もう、お前への殺意が、溢れて、溢れて止まらない。だから……今ここでお前を殺さなきゃ、俺は俺でなくなる!」


 俺がそう言うと、探偵は震える足で、ゆっくりと立ち上がった。


「……来いよ、ニュエル」


「……行くぞ、探偵」


 俺は再び駆け出した。



 ****



 〜レフト・ジョーカー〜


 ニュエルのナイフが目前にまで迫る。俺はそれを背から倒れるようにしてかわした。

 しかし、ニュエルはそのまま俺の腹の上に馬乗りになってきた。

 唸り声と共にナイフが俺の頭へと振り下ろされる。だか、俺はその振り下ろした腕をすんでのところで掴み取った。


「ぐぬぬぬっ……」

「ぁぁぁぁっ……」


 俺とニュエルの単純な力比べが始まった。

 俺が負ければ、ナイフが俺の頭に突き刺さって死ぬ。俺が勝てば、ニュエルとの勝負はまた振り出しに戻る。分が悪いな。


「っ!」


 俺は右足を振り上げて膝をニュエルの背中にお見舞いする。

 そうしたら奴の体勢が前のめりに崩れたので、その隙をついて拮抗していたナイフを俺の頬ギリギリの地点の床に突き刺した。これでナイフは使えなくなったので、遠慮なく俺に馬乗りする奴の顔面を殴りつけ、俺の上から退いてもらった。

 痛む左足を引きずりながら、俺はよろよろと立ち上がる。

 ……このままじゃ、ジリ貧だな。

 俺がそう歯噛みした、その時だった。


「探偵さんっ!」


 その声と共に俺に何かが投げられた。

 それは……マギカデリンジャー。イラとエルに、回収を頼んだ俺の切り札の一つ。

 俺は声のした方向を向かずに、声で答えた。


「上出来だよ、見習い助手さん」


 くぅ〜っ……仲間を信頼して振り向かない俺、かっくいい――


「って、ぎゃあああああ探偵さんっ、左足物凄い血ですよ!?」

「うわっホントだグロい! レフトくん大丈夫なの!?」


 ………………。


「だーっ、お前らな! 俺が今全力でカッコつけてんのに水差すようなマネすんじゃねーよ!」


「だって! そんな血が出て、痛くないんですか!?」


「痛ぇよ! 痛いに決まってんだろ刺されてんだから!」


「刺されたんですか!? じゃあ余計に心配ですって! 化膿する前に消毒とかしなきゃ!」

「そうだよレフトくん! ほら、こっちに足見せて!」


「……」


 俺は髪をぐしゃぐしゃと掻き乱しながら、月明かりに照らされるイラ達の方を向く。

 ……そこには。全身ボロボロで、傷だらけになりながらも、俺のためにこのマギカデリンジャーを取ってきてくれた、優秀な優秀な助手達の姿があった。

 なんでそんな傷だらけなのかはわからない。……まぁニュエルがいるってことはウィンニュイもいるんだろうし、つまりはそういう事なんだろう。

 俺はそんな二人の姿に、つい頬を緩ませた。


「ありがとな」


 ついうっかり、ポロリと零れ出た言葉。少しだけ恥ずかしかったが、俺はそれを訂正しようとはしなかった。

 ゆっくりとニュエルに向き直り、マギカデリンジャーを構える。左足の痛みを隠すために、全力でカッコつけながら。


「……探偵さんが、素直にお礼言いましたよ」

「明日は雨かな……洗濯物は部屋干しだね」


 ……だから、カッコつけてんだから余計な事言うなよ!?

 せっかく素直になっても、コレなんだよ畜生!



 ****



 俺とニュエルの一対一の攻防は、一瞬の気の緩みすら許さない苛烈なものだった。……苛烈なもの、()()()()()()()

 ニュエルは血操により様々な武器を操る。

 対して俺はマギカデリンジャーを一丁のみ。

 だが、ニュエルは何故だかすごく焦っているようで……正直、動きにいつものキレはない。捌くのは簡単だった。


「死ねっ!」


 ニュエルは俺にナイフを振り上げた。

 しかし、俺はニュエルのナイフを狙ってデリンジャーから銃弾を放つ。

 結果、ニュエルの手から血のナイフは弾き飛ばされ、奴の得物はなくなった。

 このまま、新しく血操で武器を作られる前に、キメる――!

 俺はニュエルの腹に銃口を押し付け、銃弾を四発、連射した。


「グアアッ!?」


 エネルギー弾がニュエルの腹に至近距離で直撃し、爆ぜる。

 ニュエルは大きく後ろによろめき、膝を着いた。


「げほッ……ガァッ……グッ、この野郎……!」


 ニュエルの眼光が俺を突き刺す。

 しかし俺はその威圧感に真っ向からぶつかった。

 俺はそのままニュエルを睨み返す。


「なぁ、お前さ……何焦ってんだよ?」


 しかしニュエルはその問いには答えず……再び血のナイフを振るうのだった。



 ****



 〜リナリア・ウィンダリア〜


 私は枕を抱きながら、ぽつりと呟いた。


「……レフト、大丈夫かしら」


 タレイアはそんな私を見てニコリと笑う。


「大丈夫だと思いますよ。あの探偵なら」


「そう? ……でも」


「そんなに心配なら、私が探してみましょうか?」


 タレイアはため息一つ、そう言って呆れたように笑う。

 正直その態度はイラッとしたが、その提案は願ったり叶ったりなのも事実。

 私はタレイアを睨みつけながらお願いをした。


「……お願いできる?」


「……ええ。お任せを」


 私の睨みが効いたのか、タレイアはビクッと後退りしながらひきつった笑いを浮かべる。

 ったく、どっちが上かわきまえなさいよね。

 私はタレイアの背中を押し、外に突き飛ばした。


「じゃ、お願いね。タレイア」


「は、はい……」


 おずおずと私の前から立ち去るタレイア。

 だが私はふと気になる事があって、彼の背中を呼び止めた。


「……ねぇ、タレイア」


「何でしょう?」


 タレイアは私の方を振り返った。

 私は不思議そうに首を傾げるタレイアに、念の為に釘を刺す。


「言っとくけど、私は別にレフトの事好きでもなんでもないからね?」


「は? あ、はぁ……そうですね? 知ってますけど……?」


「ならいいのよ、なら――」


 私は行ってよし、とタレイアに手を振ろうとした、その時。

 タレイアがニコッと笑いながらとんでもない事を口にした。


「あ、でも探偵殿が心配で私を遣わすなんて、まるで純愛みたい――」


「んッなわきゃないでしょうがあああああああああ!?」


「ひいいっすみませんでした!?」


 純愛みたい!? 私が、レフトに、純愛!?

 私はタレイアを睨みつけて、枕を投げて怒鳴りつけた。


「違うから! レフトを探すんじゃなくて、えっと、そう! 戦いの音がやかましいから、見に行ってきて何とかしてきなさい!」


「え、じゃあ探偵殿は?」


「探偵殿は別にいいから! このやかましさを何とかしなさいそれが私の命令! レフトに純愛なんかないからね!?」


「は、はぁ。了承しました……」


「……で、でも、その、余裕あったら……レフト、探しても、いいんだけど」


「どっちなんですかお嬢様……探偵殿を探せばいいのか探さなくていいのか」


「あーもういいから行きなさいよこのバカ!」


 私は扉をバタンと大きく音を立てて閉めた。

 ……レフト、大丈夫かしら。

 私はやりきれない気持ちを抱えながら、ベッドにダイブして、その気持ちを払うかのように足をバタバタとさせるのだった……。



 ****



【キャラクター設定】〜タレイア〜


 ・身長……一八〇センチ


 ・体重……六〇キロ


 ・種族……美神アフロディーテの使い


 ・年齢……アフロディーテと同じ


 ・職業……アフロディーテの使い→リナリアの執事


 ・誕生日……アフロディーテと同じ


 ・能力……花を操る事が出来る。その他にも自らの体を花びらの塊に変えたりと、結構やりたい放題できる。


 ・趣味……日本によく似た国『日影国ヒカゲノクニ』の事を調べること。日本かぶれならぬ日影国かぶれ。


 ・悩み……リナリアのわがままに振り回されること


 ・最近よく口にすること……(リナリアがいない時に昔の写真を見て)『昔は可愛かったのに……』

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