File4―17 怪力強盗と血色の悪魔 〜このままじゃ終われない〜
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〜二ュエル・ボルゴス〜
探偵が俺との殺し合いから逃げやがった後。
俺は殺意を持て余し、辺りに当たり散らしていた。
血のナイフで高そうなソファやら壁紙やらカーペットやらを切り裂き、ゴミクズにする。羽毛や綿がまるで血肉のように散らばり、少しだけ殺意は晴れた。本当に少しだけ。
そんな時だった。
『動くな、二ュエル・ボルゴス!』
二〇人くらいの憲兵共の声が響いた。
俺は、愉悦に唇を歪めた。
――そうだ。コイツらで持て余した殺意を発散しよう。
そう決めてからは早かった。
憲兵達は手練も多かったが、それでもあの探偵程ではなかった。
そこそこ深い傷を負いながらも、それでも皆殺しに成功した。
「……はぁ。もう終わりかぁ」
何となく積み上げた死体の山を、ズタズタにしたソファに腰掛けて眺めながらふと思った。
――あの探偵は一般人にしてはやたらに強い。少なくとも、今俺が相手した憲兵共の誰よりも強かった。動きの節々に、誰かに教わった跡が見える事から、恐らく誰かしらバックに強者がいやがるんだろう。探偵はソイツを師として、憲兵にも負けないレベルの戦闘技術を得た。
「……ああ。やっぱ、こんな雑魚共じゃダメだな。アイツを、殺さなきゃ……俺の殺意は満たされねぇ」
そう呟くと、死体の山の影がゴポゴポと泡立った。
だが、俺は驚かない。
「そっちは終わったのか、ウィンニュイ」
俺の問いに、影から現れた女――ウィンニュイは、美しく可憐に微笑みながら答えた。
「いえ。めんどくさくなったので鬼人形に任せてきちゃいました」
「……あっそ」
舌を出して悪戯っぽく笑うウィンニュイから目を背けながら俺はそう返す。
ウィンニュイのこんな表情、かなりのレアだ。
……本当、可愛いっつーか、何つーか……。
「……二ュエルは、派手にやりましたね」
ウィンニュイは死体の山を見て、呆れるように肩をすくめた。
俺は何となく居心地の悪さを感じ、ソファの背もたれに乱暴に体重を預ける。
「うっせーな。探偵に逃げられちまったんで、その憂さ晴らしだよ」
「あれ。負けたんじゃないんですね」
「二度も負けてたまるか」
「ふふ、結構負けそうですけど」
「ああ!?」
「二ュエルの『大物ぶった小物』オーラは自然と私に『負けそう』という印象を与えてしまうのです。おいたわしや……」
「大物ぶってねーし小物でもねーし負けそうじゃねーし与えてねーしおいたわしくねーし! もういい、寝る! 一回帰るぞウィンニュイ!」
「はいはい。低血圧特有の寝起きの悪さを軽減するために早寝は大事です」
「そんなんじゃねーよっ、いいから早く撤退準備!」
「はいはい」
ウィンニュイはそう言うとクスクス笑いながら魔法を詠唱し始めた。撤退用に死体の山の影をワープゲートにするのだ。
俺は詠唱を奏でるウィンニュイの横顔を見ながら……正確には、未だに首につけられた奴隷の証である首輪を眺めながら、思った。
……いつか、外してやれたら。
ぼーっとそう考えていたら、俺の視線に気づいたウィンニュイがこちらを向いた。
「二ュエル、どうしました? 詠唱、終わりましたけど」
「あ、ああ。今行く」
俺達は二人揃って、死体の山の影に飛び込んだ。
独特の浮遊感に包まれる。
これ、未だに慣れねぇなぁ……。そう思っていると、ウィンニュイが話しかけてきた。
「これからどうしますか、二ュエル? 探偵にはリベンジできたのでしょう?」
これから……これから、か。
そんなの当然決まってる。
「バカ言うなよ、ウィンニュイ」
俺は笑った。
そして、どこかで生き延びているであろうアイツを思い浮かべる。
「……アイツを殺すまでは、終われねぇ。もう一度行くぞ」
****
〜怪盗ダッシュ〜
「痛ぇ……激しい痛みが……“激痛”が俺を襲って来る……“襲来”している」
俺は首筋を抑えながら呻いた。
原因はただ一つ。ついさっき、『鋼の炎杖』というお宝を盗んでやろうと王城に突っ込んで行った際に、バーン・アイシクルという人間族の憲兵に蹴り飛ばされてしまい、それで痛めてしまったのだ。
「がー! クソ痛ぇ! あーあ、人間族なんかに負けちまうとはなぁ……」
俺は投げやり気味に大の字に寝転がった。
今俺がいるのはとある倉庫だ。どこかは知らねぇ。適当に逃げた先だからな。
暗闇の中、適当に手をまさぐると何かを掴んだ。鼻に近づけると、芳醇な香りがする。
「この匂い……リンゴか」
今更気づいたが、この倉庫内はフルーツの匂いで満たされている。どうやらフルーツの倉庫のようだ。
「うん、甘ぇ」
リンゴを齧りながら、俺は目をつむった。
さて、これからどうするか……。
「……決まってんだろ。リベンジだ」
この痛みが癒えたら……もう一度、『鋼の炎杖』を盗みに行こう。
やられたままでは終われない。
俺は残りのリンゴを芯ごと噛み砕いた。
「……アレを盗むまでは終われねぇ。それまでは何度だって挑み戦う……“挑戦”だ」
****
〜ライト・マーロウ〜
セルベールと話しているうちに、会話の内容は段々とさっきの騒動の事に変わって行った。……より具体的に言えば、僕が怪盗ダッシュに負けた事だ。
「……僕は、負けてしまったんだ。怪盗ダッシュに」
「だから、さっき怪盗ダッシュの事を話題に上げた時に態度が変わったんですね」
「ああ。正直、あそこまでの敗北は……屈辱は味わった事がない」
まるで、赤子の手でも捻るかのようにやられた。
いや、怪盗からすればそんなに楽勝ではなかったかもしれないが、少なくとも僕自身の手応えとしてはそんなもんだった。
「もし、また彼が現れたとして……僕は、勝てる自信が無いんだ」
いつしか僕は、セルベールに弱音を吐いていた。
それほどまでに弱っている……それほどまでに、あの一戦が僕に与えた衝撃は計り知れないものだった。
「やる気がない、と思われるのは心外だから言っておくが、身を焼き焦がすほど悔しいと思うし、闘志もあるんだ。ただただ、勝てるビジョンが浮かばない」
屈辱。悔しさ。羞恥。闘志。怒り。恐怖。不安。嫉妬。
その他様々な感情が胸の奥で渦を巻き、僕の心を焼いていた。
「こんな調子では……。レフトの相棒でいる資格もない、か」
最後に僕は、投げやりにぶん投げるように、自嘲気味にその言葉を吐き捨てた。
そして、僕はそのままセルベールを指さした。
「キミの方が、レフトの相棒に向いていたりしてね」
その時。
セルベールの両手が、僕の両頬をバシンと音を立てて挟み込んだ。
「……痛い」
「あっ、ごめんなさい」
「何がしたいんだいキミは」
僕はセルベールを睨みつける。
なお、今もまだセルベールの両手は僕の顔を挟み込んでいた。離して欲しい。
「……そんな事、言っちゃダメです」
セルベールは僕を睨み返してきた。
いや、睨む……というよりはむしろ、責める……否。戒めるような、そんな目だった。
「先程も言いましたが、僕には人の嘘を見抜く才能があります。それを応用すれば、人の感情の起伏くらいなら簡単に読み取れます」
目を伏せるセルベール。その目は少しだけ寂しそうなものだった。
「レフトさんを、僕のこの目で見てました。だから、あの人が一番安心、リラックスしてる時がいつかって事もわかります。……それは、ライトさん。貴方といる時なんですよ」
「……え?」
「貴方といる時のレフトさんの感情は、一番穏やかで居心地が良さそうに揺れていました」
セルベールは僕に笑いかけてきた。
「相棒である貴方を信頼しているからこそ、レフトさんは貴方といる時に安心できるんです。それは多分、貴方にしかできない事だと思います。ライトさん以上にレフトさんの相棒に向いている人なんていませんよ」
「……でも」
「でも、じゃありません。レフトさんが貴方を相棒だと思い、信頼しているのに……貴方自身が自分は相棒にふさわしくない、なんて思うのは、正直ただの傲慢でしょう」
最後の方のセルベールの語気は荒かった。怒っているのだろう。
でも……そうか。ようやくわかった。レフトは……僕の事を相棒だと思ってくれている。それだけでいい。相棒の資格、なんてものは相棒が決める事だ。僕が図々しく自分で勝手に決めてしまうものではない。
「……レフトが、僕の事を相棒だと思ってくれる限りは……僕は、必ず彼の隣にいよう」
例え、僕が僕の事を信じられなくなっても……レフトが僕の事を信じてくれているのなら。
僕の視界にかかっていたもやが、スッキリと晴れた。そんな気がした。
視界がクリアになったからだろうか。ふと、目の隅に湯気の立つコーヒーカップが留まった。
「……美味しいのかい、それ」
「え……コーヒーですか?」
「ああ。キミが入れたんだろう?」
「は……はい」
セルベールは不思議そうな顔をしていた。
まぁ無理もない。先程僕は、彼の勧めたコーヒーを冷たい態度で断ったのだから。
「……やっぱり、飲ませてくれたまえ。レフトが褒めてたそのコーヒーの味に興味が出た」
……若干のやりにくさを感じ、目を逸らしながら僕はセルベールにそう頼んだ。
セルベールは僕のその頼みを、快く笑顔で受けてくれた。
「はい!」
セルベールはコーヒーをカップに注いで僕に渡してくれた。
一口啜ると、普段飲んでいる(とは言っても普段は僕は飲まないが)コーヒーとは確かに別格だった。全てにおいてレベルが上の香気、味わい、深み、キレが僕の全身を駆け巡るかのようだ。
「……美味しい」
「良かったです、お口に合って」
「このコーヒーが口に合わない人などいないだろう」
「え、いや、そんなそんな」
わかりやすくセルベールは照れた。
……彼も褒められ慣れていると思っていたが、意外とそうでもないのだろうか。
僕は久しぶりのコーヒー……というより、飲食を楽しみながら決意した。
あのままじゃ、終わらない。もし次があったら……その時に、必ずあの怪盗を捕まえる。
僕はぐいっとコーヒーを飲み干した。
****
〜レフト・ジョーカー〜
現在時刻……わかんねぇ。
現在場所……リナリア様――いや、彼女とは友達になったんだった。呼称も変えなければならないだろう。
という訳で、改めて現在場所……リナリアの部屋。
俺は辺りを見渡した。
「しっかし……このガレキ、どうします? あ、いや、どうする?」
俺はリナリアに聞いた。
元はと言えば今の状況は俺がリナリアの部屋の天井を崩落させたのが原因なのだ。もちろん、辺りには崩落した天井のガレキが散乱している。
「……まぁ、責任取って貰うしかないんじゃない?」
リナリアは俺を指さしながらそう言った。
責任……それはつまり。
「……弁償?」
やべぇな。王家の天井とかいくらすんだよ。俺が一生働き詰めでも返せないんじゃなかろうか……。
俺は自分の想像にゾッとして震えた。
「払えねぇと思うんだけど」
俺は率直に素直にリナリアにそう打ち明けた。
だが、リナリアは知ってると言わんばかりに悪戯っぽく笑った。
「それじゃあ、しょうがないわね。生まれてきた事を後悔するくらいの拷問が待っているわ……」
そう言うとリナリアは己の豊かな胸の前で十字を切り、手を合わせた。
いやいや、シャレにならん。
「……冗談だよな?」
「ナンマンダブ……」
「ちょっ、リナリア!?」
「アーメン……」
「リナリア様ァ!?」
「お焼香のマナーを勉強しなくちゃね……」
「ちょっ、待って、お願いします待ってリナリア王女様!?」
心底楽しそうに俺の冥福をお祈りし続けるリナリア。
本当にシャレになってねぇよ!?
……後、色々と冥福の祈り方が混ざっていた気がした。
「大丈夫。拷問ってのは、相手を生かし続けることに意義があるのよ。だから、死にはしないわ。安心しなさい」
「何そのポジディブシンキング!? 確かに死なねぇかもしんねぇけど死んだ方がマシな目に遭うじゃん! 後、死なねぇなら何でさっき俺の冥福祈ってたんだよ!」
「お黙り! 男がピーチクパーチクうるさいわよ!」
「男女関係なく拷問の間際にはイヤイヤ叫ぶに決まってんだろが!」
「探偵なんだからしっかりしなさい!」
「探偵はもっと関係ねぇだろ!? 職業だぞ!?」
ギャーギャーと俺達二人は言い争い……そして、段々堪え切れなくなり二人揃って噴き出した。
笑いながら思う。
今日、色々あったなぁ。第二王女が俺達に依頼しに来て、その日中に二ュエルや怪盗ダッシュと戦って、ライトの体に謎が隠されてることがわかって、更に第一王女と第一王子と友達になって……。
今日という日を俺は忘れることは無いだろう。
リナリアはうん……っ、と伸びをして俺に言った。
「ま、ガレキの事なら大丈夫よ。今は外に縛って放置してるけど、私の執事が片付けるわ」
「へー、そうなんだ……って、今なんつった?」
「ガレキの事なら大丈夫よって」
「その後だよ」
「ガレキなら私の執事が片付けるわよって」
「その前!」
「……ああ! そこか! 私の執事ね、タレイアって言うんだけど、今外に縛って放置してるのよ」
「何で!?」
「怪盗ダッシュが来るけど、うるさいの嫌いだからやかましくしないでさせないでって言ったのに、案の定やかましかったもの」
「うわーめっちゃかわいそー……」
「そこのベランダにいるから、覗いてきたら?」
リナリアはそう言って親指で自分の後ろの大きな窓を指さした。
俺はそろりそろりと窓に近づいていき、カーテンを上げて覗いてみると――
「ひえっ」
――縄で縛られ寝かされている燕尾服姿の男に睨みつけられた。
……少し違うか。睨みつけられていたのだ。さっきからずっと。
この男の人がリナリアの言う、タレイアという執事なのだろう。
視線と視線が絡み合う。俺は冷や汗を流さずにはいられない。
俺達は互いの視線を通じて意思疎通を行っていた。
(おい貴様。リナリアお嬢様とさっきから何を話している)
(いえ別に何も、他愛のない話を……)
(さっきどんがらがっしゃんと何かが崩落する音が聞こえたが、貴様が犯人か)
(……はははまさか)
(目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだな)
(すみませんでした……)
(私が縛られていて良かったな。もし私が自由の身であったなら、貴様を三回は蹴り殺していた)
(自分の幸運に感謝致します……)
……怖っ。この人怖っ。燕尾服で緊縛状態の癖に威圧感がすごい。視線だけで喉元をかっ切られそうな感じがする。
俺は視線に耐えられなくなり、静かにカーテンを閉めた。緊縛状態を解くと俺が蹴り殺されそうなので、今はとりあえず放っておこう……。
ごめんなさいタレイアさん。
「どうだった? 風邪引いてなかった?」
「元気だったよ……」
「そう。ならそのままでいいわね」
「うん、もうしばらくそのままで頼むわ」
解くと俺が蹴り殺されるから。
その言葉はそっと飲み込んだ。
俺はなんだかどっと疲れて、ため息をつく――その瞬間。前屈みになったのがマズかった。二ュエルに軽く抉られた胸の傷がズキリと痛んだ。
「いっでっ!?」
「な……何よどうしたの」
リナリアはビクリとして恐る恐る突如奇声を上げた俺に聞いてきた。
「いや……さっきの戦いで、怪我した所が痛んだ」
「大丈夫?」
リナリアは俺の胸の辺りを心配して覗き込んだ。
鬼畜サディストと聞いてたけど、優しい所あんじゃん……。
俺はリナリアへの認識を改めた。
「大丈夫大丈夫。これくらいありがちだって」
俺はニヒルに笑ってハードボイルドに手を振った。
傷を気にしない俺、カッコいい。
だが、それを聞いたリナリアの表情が――変わった。
「へぇ。なら……心配いらないのね」
先程までの心配そうな表情はどこへやら――今のリナリアは冷酷な笑みを浮かべていた。
リナリアは人差し指で俺の傷口の辺りを思いっきりつついてきた。
「えい」
「いっでぇ!?」
激痛。俺は胸を抑えて仰け反り呻いた。
仰け反りつつ垣間見たリナリアの表情は――とても楽しそうな。人を虐めて楽しむ、鬼畜のそれだった。
俺はリナリアへの認識を元に戻した。やっぱりコイツ鬼畜サディストだ。
「えいえい」
「ちょっ、やめろっ、怒るぞ!?」
「王女に怒るの? ……怒れるの?」
「テメェズルいぞ!? こんな時に王家の権力持ち出すなよ!」
「王女への侮辱罪。罰が必要よね」
「傷口つつくなっ、ホントマジでやめて!?」
「大丈夫大丈夫。これくらいありがちなんでしょ?」
「傷口つつかれるのはありがちじゃねぇよ!?」
「じゃあ慣れなさい。ていっ」
「ぐあああああああああっ!?」
リナリアの無茶振りと傷口への痛みに、俺の悲鳴がほとばしった。
痛い……痛いよおやっさん……。
俺はいつの間にかどこかへ消えていた師匠を思い、瞳の縁を濡らした。
「ちょっ……本当に止めろって!」
俺はリナリアの手首を掴んだ。
しかし、その時にバランスが崩れ、前に倒れ込んでしまった。
「……ぁ」
……結果、俺がリナリアを押し倒す形になってしまった。
俺の手はリナリアの手首をがっしりと掴んでおり、完全に彼女をその場に縫い付けていた。
二人の顔は至近距離に迫っており、お互いの頬がじわじわと紅潮していく。
「……ど、どきなさいよ」
「わ、悪ぃ」
咄嗟に手を離す。
そしてリナリアを解放し、俺はそのまま彼女から視線を外した。
「……すまんかった」
「別に気にしてないわよ。たかが押し倒されるくらいで……」
「その割にゃ顔赤くね」
「それはほら、えーっと……暑いのよ」
「……そうか、暑いのか」
「何よ」
「いや別に?」
「言っとくけど、貴方も顔赤いからね?」
「俺はほら、えーっと……暑いんだよ」
「……そうね、暑いわ」
気まずい空気が流れる。
……あー、暑い。天井めっちゃデカい穴空いてるけど、暑いわ。
俺は手で顔を扇いだ。
ふとリナリアを見ると、リナリアも同じように手をパタパタとさせていて……二人同時に、笑い合った。
「バッカみたい」
「お前もな」
笑い合いながら、ふと思った。
多分、また二ュエルはやって来る。俺がこの依頼を降りたら、奴は憂さ晴らしに城内の人達を殺し回るだろう。その中にはもちろん、セルベールも、リナリアだっている。
俺は夜空を見上げて呟いた。
「……このまま終わるわけねーよな。“次”は必ず来る。その時は絶対に……次は絶対に、負けない」
俺は固く誓ったのだった。
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【小話】〜その頃のイラと映瑠〜
「ごめんってイラちゃん! くすぐったの謝るから!」
「許しません! ふん、だ!」
「もうイラちゃんは怒っても可愛いな……じゃなくて、機嫌直してよ!」
「嫌です! あんな恥ずかしい目に合わせておいて、ごめんなさいで終わるわけないでしょ!?」
「そこをなんとか!」
「そこをなんとか!?」
「仲直りしよ〜よ〜。イ〜ラ〜ちゃ〜ん〜」
「し〜ま〜せ〜ん〜!」
「し〜よ〜!」
「い〜や〜で〜す〜!」
――以下、似たようなやり取りを続ける――




