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File4―0 怪力強盗と血色の悪魔 〜突然の来訪者〜

さよなら平成!初めまして令和!

皆様今年もよろしくお願いします!

感想よろしくお願いします!

 〜イラ・ペルト〜


 ……空気が重い。

 喫茶店Wの地下にある探偵事務所は、ここしばらく、ずっとこんな感じだ。

 原因は当然……この前の、カリスさんとかの事だろう。

 探偵さんが塞ぎ込みながらも無理に笑っていて、そんな探偵さんを見てライトくんは何も出来ない自分を責める。店主さんも、ずっと喫茶店の方に従事している。何かに打ち込む事で、自分を奮い立たせているかのように。

 エルさんもこんな重い空気が続いているために元気がない。ずっと居心地が悪そうに両手につけたリストバンドをさすっていた。

 また、こんな時に限って全く依頼が来ないのも、恨めしい。

 せめて依頼が来れば、否応にもその依頼に集中して、この鬱屈な空気を掻き回す事が出来るのに。


「……はぁ」


 私はもう書類とかも纏め終え、やる事も無いので春休みの宿題をしていた。

 私は今、中学生であり肉屋の看板娘であり探偵さんの助手であるという、言うなれば三足のわらじを履いている状態だ。私は妖怪か。三本足で三足のわらじを履く自分を想像し、なんとなく突っ込んでしまう。

 まぁ、肉屋の方は私の家なので、パパやママに『やりたい事あるなら無理して手伝わなくてもいいからね』と言われている。だからそこまで負担はない。

 で、今は探偵助手の方も暇なので、こうして春休みの宿題をコツコツとやっているのだ。


「……ありゃ、これどうやるんでしたっけ」


 私は宿題の問題でつまずいてしまう。

 詰まったのは数学の応用問題。

 こんな空気の中、誰かに聞くのは正直キツい……。

 そう思っていたら、エルさんの方から近づいてきてくれた。


「イラちゃん、どこかわかんない所あるの? 異世界人の私じゃ役に立てないかもだけど、一応見せてみて?」


「えっ、あっ、はい。えっと、この問題で……」


「……空間図形の問題だね。これはほら、まずこの球の体積を求めて……」


 それからは早かった。

 エルさんは教えるのが上手で、あっという間にその問題を私は解き終えていた。


「わぁ……すごい、すごいです」


「良かった。私のいた世界と公式同じで安心したよ」


「エルさん頭いいんですねっ」


 空間図形は苦手だったのに、こんなにスラスラ解けるなんて……!

 私は感動していた。

 だけど、エルさんはどこか浮かない顔をしていた。


「あっはは、私はそんなに頭良くないよ」


「謙遜しないでくださいよ……。エルさんが謙遜しちゃうと、これが解けなかった私がめっちゃおバカみたいじゃないですか」


「えっ、いや、そんなつもりじゃなかったんだけど……ごめんね」


 ……おバカなのはそこそこ事実だったりするけど。

 とは言っても、普通にテスト平均点はありますからね! ギリ平均点なだけで!


「……でもね、イラちゃん。“勉強ができる”って事と“頭がいい”って事は別物だと思うの。勉強は、やる気を持って、時間をかけて取り組めば誰でも出来るよ。頭がいい人は……私達が一時間かけて覚える事を三〇分とかで覚えちゃうような人の事」


「……エルさん?」


「……ごめんね、変な話して。私の身近に一人、そんなのがいたから……つい」


 エルさんは苦笑いしながらそう言った。

 するとそこへ、ライトくんが割り込んできた。


「今のセリフ……この本の受け売りだね?」


 ライトくんはそう言いながら本を一冊突き出した。

 そのタイトルは……『最上の脳を持つ者達へ』。

 うへぇ……何か難しそうなタイトル。でも、こんな本この事務所にあったっけ? この事務所は探偵さんの好みに合わせてるから、こんな難しそうな本が置いてあるわけがないし……。

 そう思っていたら、エルさんが声を上げた。


「あっ、私の本! 勝手に読んだんだねライトくん!?」


 ライトくん……女子の私物を勝手に持ち出しちゃダメだよ。

 だけど、ライトくんはサラリとこんな事を言ってのけた。


「なかなか興味深かったよ。キミのカバンの中にあった本は、他にもどれも面白いものばかりだった。中にはマンガもあったね。普段はマンガは読まないけれど、たまにはいいもんだね。面白かったよ」


「んなっ……こっ、これ以外にもっ、見たの?」


「うん。とりあえずキミの持ち物は全て確認させてもらったよ。ただ、気になったんだけど……リストバンド、あんなに必要なのかい? キミが今つけてる二つ以外にも、まだ後二〇組はあったけど」


「〜〜〜〜っ、いいの! オシャレなの、だからいいの! 余計な詮索しないでって言うかまず女の子の荷物勝手に見ちゃダメだよライトくんのバカぁっ!」


「ええっ、ダメなのかい!?」


 ライトくんは突然の理不尽に襲われたような顔をしているけど……自業自得すぎる。

 私だって持ってきたカバンの中身を勝手に探偵さんに見られたら怒ると思うし……って、何で例に挙げたのが探偵さんなんだ。ライトくんでも別にいいだろうに。

 私はそんな色付いた思考を頭を振って振り払った。

 すると――


「おい、お前ら。……こちらの()()()が、依頼だそうだ」


 ――と、上から店主さんが私達を呼ぶ声がした。

 ……って、お嬢様?

 ここ数日ここに来てわかったけど、基本的に店主さんは私みたいな女の子には『お嬢ちゃん』だし、よく来る婦人のお客さんは名前や苗字+さん付けだ。『お嬢様』呼びなんて……どこの誰にもしないんだけど。

 お嬢って事は、子供? でも、子供に様付けなんて……。

 店主さんに様付けさせる程のお客さん……じゃないや、依頼人さん。どんな人なんだろう……?


「とりあえず入ってもらおっか?」


 エルさんも不思議そうにしながら私達にそう告げる。

 探偵さんも含め、私達は揃って頷いた。


「じゃあ、どうぞ〜……ってわぁっ、可愛い!」


 エルさんが扉を開けると、入ってきたのはとても高そうなドレスを着た、長い金髪の九歳くらいの女の子……。


「「「……ん?」」」


 エルさんを除く私達三人は、その女の子を見て首を傾げた。

 ……見た事あるからだ。

 探偵さんが若干の震え声を発した。


「な、なぁライト。アレって……」


「あ、ああ。アレは……ソレだろうね」


「な、なんでソレが……ココにいるんですか」


「あ、あの? 皆……何言ってんの? こそあど言葉ばっかじゃ何もわかんないよ?」


 私達がどんどん目の前の光景を理解し、流す冷や汗の量を増やしていく中、エルさんだけが状況を理解していない。首を傾げながら、その女の子を抱っこするエルさん……って!


「おいおいおいエルお前何やってんだっ!?」

「エルちゃん!? ダメだよそれダメ!」

「エルさん! 何してんですか!?」


 私達は揃ってエルさんに叫び散らした。

 だって……だって! 今、エルさんが抱っこして頭なでなでしてるのは……その女の子はっ!


「えっ、え? 何って……依頼人の女の子なでなでしてるんだよ……可愛いねぇキミ! お名前は?」


 ついに腕の中の女の子に頬すりすりまでし始めたエルさん。女の子は嫌そうである。

 私達の顔面はもはや蒼白。カリスさんに相対していた時よりも真っ青だった。

 私は冷や汗を頬に伝わせながら、意を決して、エルさんに真実を伝える。

 その子は……その方は――!



「エルさん! そっ、その方は――()()()()()()()()()!?」



 ……その声がエルさんに届いて、三秒。

 エルさんの驚きの声がこの部屋に轟いた。


「えっ――えええええええええええええええええええええええええええ!?」



 ****



 〜レフト・ジョーカー〜


 目の前に座る金髪幼女……否。()()()()()()()()『アリア・ウィンダリア』は、ソファーに座ってふくれっ面でジュースを飲んでいた。

 何の飾り気もないオレンジジュース。ズコココココッとストローが鳴るや否や、イラがすぐさまオレンジジュースを空になったコップに注いだ。

 無言の時間。ただただ、オレンジジュースを啜る音だけがこだまする室内。

 俺達の間には、この十数分間、さっきまでとは別の意味での重たい空気が流れていた。


「……あの、今回はどうされました?」


 俺は比較的温和に切り出した。

 目の前の幼女は見た目は幼くても王女。少しでも選択をミスると、即首が飛ぶかもしれない。物理的に。

 目の前の少女は口を開いた。


「……けぷっ」


 ……それは、ゲップだった。可愛らしく品のあるゲップ。こんなゲップ初めて聞いた。さすが王女。気を張っていた俺達は、そのゲップ一つで心底ビビり散らしていた。

 ただのゲップでさえ、俺達のメンタルゲージはガリガリと削れていく。やべぇよこれ、保たねぇ。


「……さっきは、びっくりした」


「……さっき……えっと、この女が貴女を抱き上げて頬を擦り寄せた事でしょうか……?」


 急に話し始めた。怖い。

 比較的平静を装うが、内心は心臓バクバクである。多分背中の汗凄い事になってると思う。

 王女は続けた。


「うん。いきなり抱っこされて、あんな事されて……お父様にもされた事ないのに」


 ちなみに今、今回の主犯であるエルはイラやライトと共にガクガクと震えていた。

 そらそうだ。知らなかったとはいえ、王女を抱っこして頭なでなでして頬すりすりしてたなんて、ショック死してもおかしくない。俺達も同罪で死刑ったりするかもしれない。

 俺達平民は、目の前の幼女に心底平伏(ひれふ)していた。


「あの、今回は誠に申し訳ない事を……ほら、エルも謝れっ」


「はっ、はい! あの、知らなかったとはいえ、抱っことか頭なでなでとか頬すりすりとかしちゃって、ごめんなさい!」


「本当に、気をつけて欲しい……妊娠したらどうするの」


「そっ、その時は私が責任を負い……って、妊娠?」


 呆気を取られたように顔を上げるエル。

 頬を赤らめながら、王女様は目を逸らして言った。


「うん。抱っこして、頭撫でて、ほっぺすりすりして……これは、実質せっくす。女は妊娠する、してもおかしくない」


「あ、あの、そんだけじゃ妊娠とかはしませんけど……ていうか、私、女ですし」


「女の子と女の子も、結婚するしせっくすもするって……お母様言ってた。同じ空気を吸ってるだけで、せっくすになる事もある……とも言ってた」


 それを聞いて、エルは困った顔で俺やライトの顔を見る。だが残念、俺達でもどうする事も出来ねぇよ?

 しかし……ませてんなぁ、王女。

 その年でセッ……うん。まぁ、その単語を覚え、更に口に出すなんて……王家の教育係は誰だ。殴りに行きたい。どこの誰かは知らんが、お前のせいで今この事務所内が変な空気に満ち溢れてるんだよ畜生。って、会話の内容からしてこの子にその事教えたの王妃(お母)様か。ハッハッハ、殴りてぇけど殴ったら確実に死刑になる奴だ畜生!


「お母様の持ってる『絵本』でも、手を繋いだだけで妊娠した女の子の二人組いた……」


「へ、へぇ。そ、それはどんな絵本……なのでしょう」


 エルはそう質問した。

 それは俺も気になる。その絵本作家なら殴りに行けるからな。それにそんな極端な内容の絵本、特定するのも簡単だ。

 王女様は質問に答えた。


「夏と冬にお母様が執事とかに買いに行かせてる。詳しくは知らないけど……いっぱい絵もあったし、薄かった。だから、確実に絵本」


 ――同人誌えほんかよ……。


「……異世界なのにコミケまであんのかよ、ってツッコミ入れてもいいかな」


「ダメだ」

「ダメだよ」

「ダメですよ」


「ですよね……」


 エルもその答えに思わずツッコミたくなったらしい。

 気持ちはわかる。だが、今はやめてほしい。そのツッコミのせいでギロチン台に首ツッコム事になる。

 しかし……マズイな。このままじゃメンタルがもたない。作戦会議するか。

 俺はライト達に目配せした。そして、回らない頭と呂律ろれつで、必死に言い訳を連ねた。


「……すみません、ちょっと俺……僕達四人、持病の発作が起きて。四人一緒にトイレに行かなきゃ治らない持病なんで、ちょっと席外してもよろしいでしょうか」


「……うむ。世界には、色んな人がいる。そんな人もいるだろーし、手を繋ぐだけで妊娠する人も――」


「すみませんじゃあ俺達トイレ行ってきますッ!」


 俺達は揃ってトイレに飛び込んだ。



 ****



「……王女アレ、どうする?」


 俺は開幕一番、そう切り出した。

 トイレの中、余裕はあるが若干のすし詰め状態になりながら、俺達四人は作戦会議を開く。


「……とりあえず、依頼を頼みに来たんですよね。なら、それを聞くしかないんじゃ」


 イラがそう言った。

 だが、それにライトが反論した。


「でもイラちゃん。王女がわざわざ僕達に頼みに来るような事、あるかな。やっぱり別の意図があると考えるべきじゃ」


 だが、更にそれにイラが反論する。


「でも、いくら王女とはいえ九歳ですよ? そんな意図、ありますかね?」


 なるほど、イラの言う事も一理ある……が。

 お前が言うと……なぁ。


一三歳ガキのお前が言うと説得力に欠けるな」


「探偵さんは黙っててください! 女は男より早く成長期来るんですよ!」


「お前のその胸、成長期来てんの?」


「うるさいです! ほっといてください!」


「痴話喧嘩は後にしたまえ。今は目の前の事に集中しよう」


「……痴話喧嘩じゃねーし」

「痴話喧嘩じゃねーです……」


 ライトのその一言で、俺達は枯れた花のようにしおれてしまう。

 ……痴話喧嘩じゃねーよ。

 そんな事を思っていると、クスクスと笑い声が聞こえた。

 まさか、トイレの花子的なアレか――!? そう戦慄しながら笑い声の方を見る。すると何と、笑っていたのはエルだった。

 ……ビビってねーからな。


「……エルちゃん? 何、笑ってるんだい?」


 ライトはそうエルに聞いた。

 エルは、笑顔で答える。


「何か……いつも通りのやり取りが、懐かしくて」


「……どういう事だい?」


「だって、この前からずっと空気が重かったから。だから……レフトくんとイラちゃんの喧嘩とか、ライトくんの雑な仲裁とか、何か久々って気分で」


 まだ出会って一週間くらいの私が言うと変だけど。

 そうエルは付け足した。

 ……でも、確かにそうだ。

 王女のインパクトによって、俺達はこの前の事を忘れて完全に普段通りに戻っていた。

 ……気がつくと俺は、口を開いていた。


「……悪かったな。何か、気ィ遣わせたみたいで」


 周りの目線が俺に集中する。

 俺は続けた。


「……そうだよな。落ち込んでても、どうしようもねーしな。どうしようもねーなら、下向くよりも前向いた方がいいよな」


 なんか、吹っ切れた気がした。

 すると、 ライトも口を開く。


「……うん。やっぱりキミは、前を向いている方がいい顔だ」


「だろ? このイケメン顔が曇ってたら台無しだよな」


「……自分でイケメンって言っちゃう辺りが残念です」


 イラもまた、自然な笑みを浮かべ始めた。


「うるせーよ。事実なんだししょうがない」


「ちょっと童顔だけどねー」


 エルも俺達の会話に混ざり込んだ。

 ……何か、女子勢の俺の顔への評価が低めな気がする。

 俺達は久々に、しばらくの間他愛のない話をして笑い合った。


 ……その結果、何の作戦も会議できないまま王女に『まだか』と呼ばれてしまい、時間をただ無駄にしただけだったのは反省点だと思う。



 ****



【キャラクター設定】 〜アリア・ウィンダリア〜


 ・身長……一二九センチ


 ・体重……二七キロ


 ・種族……神子族


 ・年齢……九歳


 ・職業……ウィンダリア王国第二王女


 ・誕生日……五月二日


 ・尊敬している人……お母様


 ・『せっくす』について知っている事……赤ちゃんを作るために必要な儀式。何をするかまでは詳しく知らない。


 ・何となく『せっくす』なんだろうなと思う事……手を繋ぐ、ハグ、頭なでなでなど


 ・好きな()()……お母様の部屋の本棚に巧妙に隠されている『禁断』シリーズ

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