File3―8 四つの依頼 〜調査報告書〜
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〜ライト・マーロウ〜
カリス・ワイルドが巻き起こした、怒涛の嵐から三日が経った。
当事者であるレフトとカリス・ワイルド以外の僕達は……何も出来なかった。
カリス・ワイルド自身の異様な殺気に呑まれていた。
彼は……果たして僕達と同じ人類なのか? スカル・シーリングの話だと彼は【吸血族】らしいが……吸血族が操れるのは自分の血だけだ。あんな風に全身の細胞を丸ごと操るなど、出来やしない。いや……そんな事が出来る種族は、この世界上には存在しない。
だからこそ……カリス・ワイルドが、心底不気味だった。
彼は恐らく、また訪れる。彼のレフトへの執着は異常だ。レフトは気づいていなかっただろうが……僕は――レフトの相棒である僕は、ずっと押し潰されるような殺気を向けられていた。一応気丈に振る舞い、煽られたら言い返しもしたが、内心はかなり冷や冷やしていた。
一応事の粗方はスカル・シーリングからエルちゃんと共に聞いたのだが……やはり今度、レフトに彼との関係などを詳しく聞いてみたい所だ。
レフトも、あれ以来塞ぎ込んでしまっている。
いや、“塞ぎ込む”という表現は適切ではない。どちらかと言うと……普段通りだ。
だが、僕にはわかる……というか、イラちゃんやエルちゃんにも丸わかりだと思う。彼は……無理をしている。
僕達に心配をかけないように、という彼なりの気遣いなのだろうが……無理してる感が満載すぎて、ハッキリ言って痛ましい。それならばいっその事、弱音を吐いて本当の意味で塞ぎ込んで欲しいものだ。気遣いが逆のベクトルに働いてしまっているのも、レフトらしいと言えばらしいのだろうか?
……気分が乗らないが、今回の事件を纏めよう。
まずはアサリさんが依頼した、彼の妻の浮気調査からだ。
まぁ結果的にはいつもの通りアサリさんの勘違い。むしろ、結婚記念日のプレゼントを探しているだけだったのだから……いつもと変わらぬ夫婦円満だった。
結局、彼女は何をプレゼントに選んだのか。……というか、アサリさんは何もプレゼントを考えていないようだったが、結婚記念日を覚えているのか。
それら全部含めて、今度聞いてみようと思った。
次は……レフト達が担当した、捨て猫の里親探しでも纏めよう。
……これに関してはレフトに聞いた話でしかないから、纏めようにもどうしても伝聞調になってしまうのだが。
どうやら少し怪しげな、コートを羽織った紳士が貰って行ってくれたらしい。
……というか、後日捨て猫がどうなっているか観察しようにも、レフトが何も書類とか執らずに渡しちゃったから、観察しようがない。僕の相棒は馬鹿なのだろうか……いや、馬鹿だ。
まぁ、今度それらしき男に出会ったら、それとなく様子を確かめてみよう。
三つ目は、ストーカー調査でも纏めよう。
とりあえずストーカーは憲兵に色々と証拠を提出し、逮捕してもらった。証拠と言っても、僕へ殴りかかってきた時の映像などしかないため、最悪の場合執行猶予付きで出てきてしまうかもしれないが……まぁ、それでももうメリィさんをストーキングしようとはもう思わないだろう。知り合いの憲兵に話を聞いた所、とても反省しているようだし。
メリィさんも、この事件以来男を誑かすのは控えるようになった。だが、『また何かあった時にはよろしくね』と舌を出しながらウインクしてきた所から考えるに、彼女の根っこの部分は恐らくあまり変わっていないと思われる。
そして……エルちゃんの心の闇、とでも言おうか。この調査中、これが垣間見えたと思う。レフトもだが、彼女も過去に何かあったのかもしれない。……いつかそれも知りたい、と思ってしまうのは自分勝手だろうか?
……そして、最後にレフト達の行った、怪しい新人店員『へーパ・イストゥス』の素行調査だ。その素顔は、怪しいなんてもんじゃなかったが……。カリス・ワイルドが化けていたのだから。
まず、依頼人の『ミナー・ミロー・ミィヤー』店主『ギロット・バツチリ』の事についてだ。
彼には適当にイラちゃんに誤魔化させておいた。イラちゃん曰く『病気の父親の体調が急変したらしくて、実家に帰ったそうです。介護のためにしばらく実家で暮らすので、このお店も辞めるそうです。勝手な女でごめんなさいって言ってました』という嘘で納得してくれたらしい。イラちゃんもなかなか口が達者なものだ。
だが……この事件の一番の肝は、やはりカリス・ワイルドの存在だろう。
僕達は再び……確実に、彼と相まみえる事になるだろう。ハッキリ言って、彼は今の僕達の誰よりも強かったように感じた。今更ながら、背筋が凍りつくような思いがする。
そして、これはまだ僕が調べただけで誰にも言っていない――レフトにも言っていないのだが。
あの石橋の下に流れる川が流れ着く先に、『ホビレイル』という名の村があったらしい。その村は約五年前に突如として滅びている。五年前……カリス・ワイルドがクリスタ・シーリングを殺し、そして消えた時と一致する。もし、彼が五年前、川に飛び込んだ後でその村に流れ着き……その村を、滅ぼしていたとしたら。
……これ以上はよそう。レフトに、もっと心労を強いる事になる。
と、上からドンドンと足音が鳴った。
無理やり力強く鳴らしているような足音。自分に『元気だ』と言い聞かせるような足音。
……三日前からの、レフトのものだ。
「よう! ライト、何やってんだ?」
「……何もしてないよ」
たった三日。それなのに、彼の本当の笑顔がどんな感じだったのかが掴めなくなってしまった。
事実、彼の顔からは笑顔が消えた。不格好な作り物の笑顔の仮面を纏い、その下で必死に苦痛に耐えている……それが、今の彼の状況だ。
「……時間が解決してくれると、いいんだけど」
僕はそう、何かに願わずにはいられなかった。
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〜五分前 レフト・ジョーカー〜
カーテンを閉め切って、光を遮って。ドアには鍵をかけて、外からなるべく断絶させた、そんな暗い部屋の中で俺は一人ぼーっとしていた。
別に何をするでもなく、ただただベッドに座りながら、壁に背中を預けて、ひたすら何も考えないようにしていた。
「…………っ」
ぐしゃりと髪を掻き乱す。
何も考えないように、頭の中を空っぽにすればするほど、その空白にこの前の出来事が――カリスやクリスタの真実が浮かび上がってくる。
何か考えていた方が、もしかしたらいいのかもしれない。
白いキャンパスに黒い汚れはよく映えるけど、キャンパスをグチャグチャに塗りつぶしてしまえばそこまで汚れは目立たない。
そう言った感じで、色々考えまくって思考をミキサーにかけてしまった方が楽なのかもしれない。
そう考えた俺は、ベッドからゆっくりと立ち上がった。
何か考え事をしよう。依頼が来てるなら依頼の事を。依頼がないんなら、書類整理とか色々やる事があるだろう。
俺は階段をわざとらしくダンダンと踏み鳴らしながら下に降りて行った。
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〜フーティ・ウィンダリア〜
「……はぁ」
私は何度目とも知れぬため息を吐いた。
私は『バンガン』『ミミリーズ』などの地区があるこの国『ウィンダリア』の国王『フーティ・ウィンダリア』だ。
ここ最近、色々と悩み続きなのだ。財政面も昨年度と比べると明らかに下がっているし、議会の一部の連中も、何やら私を王の座から蹴落とそうと裏で暗躍しているという噂を聞いた。他にも外交とか犯罪率の増加とか……。更に、子供達のこと……主に我儘な長女の事でも悩んでいる。
他にもあれやこれやと問題はあるのだが、当面での一番の問題は……これだ。
【予告状】
《予め告げておく……“予告”だ。とりあえず二週間以内に、アンタの城にある『国宝 鋼の炎杖』を奪い取る……“奪取”する。首洗って待っとけよ、国王陛下殿 ――怪盗ダッシュ》
「……怪盗ダッシュ」
私は予告状を握り締めた。
怪盗ダッシュは、最近世間を――世界中を騒がす怪盗である。だが……その正体は隅から隅まで完全に暴かれている。
本名が『ダッシュ・ステイル』だという事も、種族が【地人族】だという事も、何なら実家の住所までもが、世界中に知れ渡っている。
ならば何故、捕まらないのか……それは、彼の持つ圧倒的な力だ。
彼は“怪盗”と言っても奇想天外なトリックや奇術で物を盗む訳では無い。
その逆。地人族の種族固有能力【超怪力】に加え、持ち前の筋肉、実力、才能を用いたゴリ押し。正面突破で堂々と宝を盗みにやってくる――怪力強盗。略して、怪盗。
奴は地人族から見ると、稀代の天才であるらしい。【超怪力】の才能が、出力が、何もかもが……他の地人族とは抜きん出ている、と地人族の私の配下は言っていた。
ちなみに、いつ盗みに来るかはざっくりしているが、大抵来る時は非常に派手な演出と共に真正面から堂々と盗みに来るため、特に問題は無い。
「……スカル・シーリングは、引退してしまったし」
私の知る中で、世界最高の探偵であり……旧知の友であるスカル・シーリングは既に引退してしまっている。
彼に頼めば、いくら怪盗ダッシュと言えども……と思ったのだが。
「……大丈夫であります! ボクが命に変えてでも国宝を守るであります!」
思い悩んでいると、声が聞こえてきた。
顔を上げると、そこには機人族の少女『リュー・アクセル』が綺麗な敬礼を決めている。
そこに一人の男――『バーン・アイシクル』が、彼女にゲンコツを落とした後で私に敬礼した。曰く、『王の前で部下が無礼な態度を取り、申し訳ない』との事だ。だが彼は王の前でもうちわを手放すことがないし、その方が無礼なのでは――いや、わかっている。彼にはうちわが必須なのだ。と言うかそもそも、うちわくらいで機嫌を損ねてしまうようでは国王なんて到底務まらない。
彼と彼女は憲兵の一人だ。今回の怪盗ダッシュの件について、私は憲兵を大量に配置する事で対策を取っているのだが……過去、これより多量の警備を施しても盗まれてしまったという例がある。一〇〇を優に超える憲兵達でも、私を安心させるにはやはり足りなかった。
果たして私はどうすれば良いのだろうか……?
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〜ウィンダリア城 王の間の扉の前〜
一人の少女がいた。
その少女は、暗い廊下の中で王の間の扉に耳をくっつけて、中の様子を聞いていた。
そして彼女は聞いた。王の話を――スカル・シーリングの話を。
その瞬間、彼女の脳裏に何かが走った。
それは、使命感。影の暗闇から溶けだしたかのようにも思える、突拍子もないそれに倣って、彼女は一目散に外へと駆け出した。
「行ってきます、お父様」
最後にそう言い残して……監視や護衛を、振り切って。
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【舞台設定】 〜ウィンダリア王国〜
・国土……広め
・国王……フーティ・ウィンダリア
・場所……世界五大大陸の一つ『風の大陸』の中央東部




