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File3―1 四つの依頼 〜高鳴る細胞〜

 〜???〜


 僕の胸は高鳴った。

 もう少しで……最愛の人に会えるから。

 あの日あの時……一度は別れた、大好きな人。


「楽しみだなぁ……ってアレ? ()()()()()……どんなのだっけ」


 僕は鏡を見ていた。

 その鏡に映るのは、僕の顔――ただし、その顔はどう見ても大人の女性の顔だった。決して男の顔ではない。

 いや、顔だけじゃない。体も、大人の女性のように胸は程々に膨らみ、女性らしい体のラインを象っていた。


「……マズい。せっかく久々に会うのに、これじゃ気づいてもらえないよ……」


 僕は体をぐにゃぐにゃと変形させながらそう呟いた。

 そう、男の僕が女の姿になっている事――これは変装なんかじゃない。言ってみれば、体中の細胞を操り、男の体から女の体に変形させているのだ。


「あぁ、ワクワクするなぁ……」


 僕は、空を見上げて、愛する人の名を呼んだ。


「……レフト」



 ****



 〜レフト・ジョーカー〜


「見つかりませんねぇ……子猫の引き取り手」


 イラは額に浮かぶ汗を手の甲で拭いながら、そうボヤいた。今日は春にしては寒い日だが、それでも動き回れば汗はかく。イラも頑張ってくれているってことだ。

 だが、引き取り手が見つからない……俺もその事実にため息を吐く。

 本当に見つからない。色々とアテはあったのだが、旅行に行って不在だったり、すでにペットを飼い始めてしまっていたりと、上手く行かなかった。

 ライトがこの状況見てたら、呆れて俺を馬鹿にしてくるに違いない。

 クソ……このまま見つからなければ、最悪おやっさんに土下座して頼み込んで、家で飼う許可を貰うか……?

 俺がそんな事をイラと俯いて考えていたら――


「子猫の引き取り手を探しているんですか」


 ――と、俺に話す男の声が聞こえた。

 俺とイラは同時に顔を上げた。

 そこには――コートを纏った怪しいおじさんがいた。


「あっ。貴方は」


 と、イラがその怪しいおじさんに反応を示す。

 俺はイラに聞いた。


「知り合い?」


「この人が、ミーコの件で探偵さんを紹介してくれたんですよ」


 イラがそう言うと、そのおじさんはソフト帽を押さえながら軽く俺達に会釈した。

 ……このおじさんが俺を?

 こんなおじさん、うちの事務所に来た事なかったと思うんだが……。

 俺は失礼を承知で聞いてみた。


「……あの、失礼ですけど、どこかでお会いした事ありましたっけ……?」


 おっさんはふふ、と笑って快く答えてくれた。


「いえ、直接会うのは今回が初めてですよ。街中ですれ違ったりなどは幾度かありますが」


 ……そう、なのか。

 直接会うのは今回が初めて……。何か引っかかる。

 もっと前に会ったことがあるような……?

 ……まぁいい。今は依頼だ。集中集中。


「……なら、何でイラに俺を勧めたんですか?」


「私の知り合いが貴方に依頼をした事がありましてね。その時に、貴方の仕事ぶりを非常に良く褒めていたんですよ。で、先日そのお嬢さんとひょんな事から少し会話をしまして。そちらのお嬢さんは探偵をお探しのようでしたから、貴方の事を勧めてみたんです」


「へぇ……ふむ」


 俺の事を勧めてくれた……悪い気はしない。

 一応イラに目配せをして、このおじさんの話の真偽を確かめてみた。

 俺の目配せに気づいたイラは、俺に小声で『お財布を落としちゃって……このおじさんが拾って届けてくれたんです』と囁いた。


「……おじさんの事はわかった。で、俺に話しかけてきた理由は何ですか?」


「何、子猫の引き取り手を探しているのでしょう? 丁度私も、数日前にペットを失いましてね。新しいペットを飼いたいと思っていたのです」


 おじさんはそう言って笑った。

 ……確かに好都合だ。でも……このおじさんを信用していいのか?

 気づくと俺は、おじさんを問い詰めていた。


「……何で、前のペットは死んだんですか?」


「寿命だと思いますが、何か?」


「……いや、何となく気になりまして」


「はは、まぁ賢明ですよ。初対面の人は疑惑の目で見透かす程度に用心するくらいが、今のご時世には丁度いい」


「……気を悪くしたなら、すいませんでした」


「いえいえ。こんな相貌をしていますから、怪しまれるのは慣れてますよ。ですが、細胞の寿命で死んだのは事実ですので、そこは信じていただきたい」


「……わかりました。信じましょう」


 こうして、子猫はおじさんの手に引き取られた。

 おじさんは子猫を抱き抱えながら、俺達に会釈をして立ち去った。


「それでは、貴方達の未来これからに幸あれ……」


 そう言って去っていく後ろ姿を見ていると、謎の焦燥に襲われた。

 これで依頼は完了――それでも、俺の心には何かもやもやとした物が鬱積していた。



 ****



 〜???〜


 あの子は勘が鋭い。ほぼ初対面の私の正体をあそこまで訝しむとは……。

 私はあの子から引き取った子猫を見下げた。


「喜びたまえ。キミもあの子と同じ力を得る事が出来る」


 そう言うと私は、ポケットから一本の注射器を取り出し、子猫の体に注射した。

 すると、しばらくして子猫は苦しみだし……そして、その体はどんどんぐにゃぐにゃと形を不確定に変えていった。


「そんなに苦しそうな声を出すな。数百体これまで実験動物モルモットも同じ声を出して死んだんだ……実験の失敗を予感させる。その声をそれ以上出さないでくれ」


 私はそう願ったが……子猫()()()()()は、あっさりと萎んだ白い小さな丸いものになって死んでしまった。


「……失敗か。やはり、あの子の力はそう簡単に生物の体に馴染まないのかもしれない」


 今までの私の実験してきた動物モルモットの中で一番生き長らえたのは、数日前に死んだ老犬だ。

 あの老犬はあの子の力を受け入れ、一週間も生きた。

 だがやはり、老犬の体力では細胞はすぐに寿命を迎えてしまった。これではあの子の力を受け入れられても無意味。あぁ、あの犬が老犬でなかったら――いや、もしかしたら老犬だからこそここまで生き長らえたのか?

 まだまだ実験は必要だ。

 あの子の観察と共に、並行して進めていこう……。

 私の研究これからに幸があると信じて――。



 ****



 〜ライト・マーロウ〜


「こちら、ストーカーの件で依頼をしてきたケーキ屋『ブラーボオーレン』の看板娘、『メリィ・マルフィ』さん」


 僕はエルちゃんに一人の【森人族】の女性を紹介した。

 彼女こそ、ストーカー被害に遭っていると我らが探偵事務所に依頼してくれたメリィさんだ。

 長いクリーム色の髪に森人族特有の長く尖った耳、そしてふわふわと笑う可愛いフェイスのおかげで、この店はケーキ屋なのに男客も多い……らしい。後、胸の大きさも人気の秘訣だとか。

 正直僕は女の子とか恋愛とか興味ないので、伝聞調でしか語れない。

 機人族は感情面に疎い事が多いと聞く。恐らく、僕も違わずその例に入るんだろう。


「よろしくお願いします!」


 メリィさんはぺこり、と頭を下げた。ぶるん、とその大きな胸も揺れた。レフト辺りなら慌てふためいて顔を真っ赤にしてそうな光景。そう言えば、レフトはメリィさんが苦手だって言ってたっけ。

 エルちゃんも慌てて『こちらこそお願いしますっ』と頭を下げた。


「さて、本題に入ろうか」


 僕は手を叩き、その場の空気をリセットした。

 メリィさんは僕達を店内に招き入れてくれたので、遠慮なくその心遣いに甘えた。今日は春なのに風が冷たく、少し冷えるので助かった。


「……何か飲み物飲みますか?」


 メリィさんは厨房の方を向いたまま、振り返ってそう聞いてきた。振り返る際、髪を少しだけ耳にかけるような仕草をしていた。こういうのが、人気の秘訣なのだろうか? 僕にはよくわからない。


 しかし、飲み物か。ふむ……機人族は飲食を取る必要は無い。

 別に取ろうと思えば取れるし、味も感じる事は出来るのだが……ほとんどの機人族は飲食を好まない。

 そもそも消化器官がない。だから、何かを食べる時も僕達は、噛み砕いて、味わって、飲み込んで……で終わりだ。飲み込んだ物は栄養にもならないし、毒にもならない(硫酸などはボディの中が溶けてしまったりするために毒になるが)。ボディの中に汚れとして蓄積されるだけ。

 だから、何かを腹に収めた後は必ずボディの中を洗浄し、メンテナンスを受けなければならない。

 飲食の楽しさとメンテナンスの面倒さを不等号で表すならば、ほとんどの機人族は尖った方が飲食の方に向く。

 だから、よっぽどの時でない限りは機人族は何も飲まないし食べないのだ。

 だから僕は当然断った。


「僕はいい。エルちゃんはどうするんだい?」


「えっ、えっと……じゃあ、ミルクティーってお願いできますか?」


「アイスですか? ホットですか?」


「じゃあアイスで!」


 エルちゃんは足をバタバタとさせて喜んでいるように見えた。

 ミルクティーが好きなのだろうか。

 正直僕的には乳系統は特によくボディ内を洗浄しなければならない割にはそこまで美味しくないので、魅力がさっぱりわからない。


「そんなに好きかい? ミルクティー」


「うん! 甘いし、まったりしてるし、美味しいし!」


「……ミルクティーって、そんな味なんだね」


「ライトくん、飲んだことないの?」


「機人族は基本的に飲食は取らない。一日に二回ほどオイルやら燃料やらを取り込むだけだ」


「……そうなんだ」


 エルちゃんは何だか僕に同情するような目線を向けてきた。

 ……僕はそれに、少しだけイラッとした。


「……もしキミが、機人族が物を食べられないことに同情しているのなら、それはとても不愉快だ」


「えっ」


人間族キミに見下される程、機人族ぼくたちは不幸じゃない。まぁ、見上げられる程偉くもないけど」


「……で、でも食べたり飲んだり出来ないのは、やっぱり可哀想だと思っちゃうよ」


「文化の違い、種族の違い、宗教の違いなどであれこれ制限される事を『可哀想』『損してる』と思う事は、とても傲慢で閉鎖的で差別的な思考だ。少し強めな言い方をすれば、ただ単に自分のものさしで他人を測り、見下しているだけだ」


「……そ、そうなのかな」


「もちろんキミが優しさで言ってくれているのは理解しているよ。でも、この世界は恐らく、キミのいた世界以上に文化、種族の価値観が違う。短気な輩に今と同じ事をすると、キミの命が無くなりかねない」


「……こ、これから気をつけます」


「うん。僕もキツい言い方をした。ごめんね」


 少し空気が悪くなってしまった。

 レフトにもたまに言われる。『もう少し相手を思いやって喋れ』と。

 今回エルちゃんに僕が話した事も、レフトならもう少しマイルドに伝えられたのかもしれない。それこそ、渋い紅茶や苦いコーヒーにミルクを混ぜるみたいに。


「はい、ミルクティーが入りました〜」


 と、メリィさんがミルクティーの入ったカップを二つと、白いクリームでデコレーションされたショートケーキの乗った皿を二つ持ってきた。

 僕は断ったから、恐らくエルちゃんとメリィさんの分だろう。

 メリィさんは机の上にカップとケーキの皿を置いた。

 ところで、置く際に僕の方に胸の谷間を見せつけてきたのは偶然なのかそれとも故意なのか。


「えっ、ケーキまでいいの!?」


 目を輝かせて喜ぶエルちゃん。

 よく考えると、エルちゃんも可愛いし、メリィさんも看板娘と呼ばれる程あって美人だし、僕は――というか機人族は皆総じて顔立ちが良い。

 よって今、僕達のいる空間は美男美女しかいない空間なんだなぁという事になる。いや、だから何だという話だけど。


「……さて、それでは今回の依頼の具体的内容を聞かせてもらおう」


 僕はケーキのイチゴを先に食べるか後で食べるかを悩むエルちゃんを横目に、メリィさんに早速問いかけた。

 メリィさんはその途端、顔色が青くなり少しカタカタと震え始めた。


「どうしたんだい? 話してもらえなければ、僕達もどうする事も出来ない」


 僕は問い詰めた。

 すると、横からエルちゃんが僕の頬をツンと強めにつついてきた。

 そして僕の耳元に近づき、ヒソヒソと話し始めた。


「……デリカシーないのライトくん! ストーカーっていうのは……ストーカーっていうのは、本当に不安で怖いんだよ」


「……ふむ。だから何だというんだい」


「だから! あんまり話したくない事なの! 急かしちゃダメなの!」


「……めんどくさい。レフトくらい単純なら……いやアレも結構めんどくさいな」


「……それに、仮にちょっとした知り合いがストーカーだった時って、もし勘違いだったらどうしよう、とかそういう事もあって……話しにくいんだよね」


「……ふむ。今後の参考にさせてもらうよ」


 僕は再びメリィさんに向き直った。

 そして、落ち着いた口調で話しかける。


「大丈夫。僕はキミの味方さ。思い違いだったらどうしよう、と悩んでいるのなら、気にしない方がいい。思い違いだったら後で笑い話になるさ、とでも考えればいい」


「……それ、ストーカー扱いされた人は結構傷つくんじゃ」


「どんな過去でも過去は過去。時が過ぎればだんだん笑い話になっていくよ。人が死にでもしない限りはね」


「……なら、話しますけど……」


「うん。遠慮なく頼むよ」


 ようやくメリィさんは話してくれる気になったようだ。

 だが、エルちゃんはメリィさんが話す前に席を立った。


「……ちょっとトイレ借りてもいいですか?」


「あ、そっちの突き当たりにあります……」


 メリィさんが指し示した方にエルちゃんは駆けていった。

 ……少し横槍が入ったが、本題に入ってもらおう。

 彼女はミルクティーを少し飲んで唇と口内を湿らせた後、ぽつりぽつりと語り始めた。



 ****



 メリィさんの話した内容を統括すると、こうだ。


 まず、一人の新規客がある日やってきた。

 その客はとても女に縁の無さそうな外見で(メリィさんはすごく申し訳なさそうに語っていた)、常におどおどとして、周りをキョロキョロと見つめるような奴だった。

 メリィさんは、それでもいつもお客さんにするみたいに、その新規客にも優しく接してあげたらしい。

 そして――この日を転機に、メリィさんの生活に異変が起きるようになる。


 まず、一人自宅に帰ろうと夜道を歩いていたら、誰かに尾けられた。

 メリィさんは怖くなって走って家まで帰ったが、家の中に入るまで尾けてきた奴の気配は後ろから途切れる事は無かったらしい。


 そして次の日。朝起きて窓を開けたら――一人の男がいた。

 先日の例の新規客だ。昨日会った時にキョロキョロと落ち着きなく辺りを見渡していた目は、今やずっとメリィさんの部屋を一途に見つめ続けていた。


 更に男は、メリィさんの勤めるケーキ屋――つまり僕達の今いるここだ――に入り浸るようになった。

 それだけではない。メリィさんが休憩に入った時にタイミング良く現れ、メリィさんにお茶を差し出してくるらしい。

 男曰く、『このお茶には疲労回復効果があり、疲れが取れる』そうだ。


 そしてその日も、夜道を誰かに尾けられた。


 それからは毎日、朝窓を開けたら男と目が合い、昼にケーキ屋で男と目が合い、休憩中に男にお茶などの品々を差し入れされたり、夜にも誰かに尾けられたり。

 メリィさんは精神的に追い詰められてきた。

 そして遂に我慢が出来なくなり、二週間前にその男に言ってのけたらしい。


『もう私に付きまとわないでくれ』と。


 すると、男は――


『僕が、キミを付け回してる!? どこにそんな証拠があって、そんな言いがかりを付けるんだい!? 名誉毀損に値するよこれは! うっ、自惚れ女が! 売女! アバズレ女! どんな客にも色目振り撒きやがって! そんなに男が好きなのか、このビッチ! いっつもその大きなおっぱいを揺らして……それはわざとなんだろう誘っているんだろう!? 僕はキミが好きだったけど……そんな人だとは思わなかったもう許さない! 天罰だ天罰だ天罰だ! 天罰を下してやる! 色欲の悪魔に、僕が引導を渡してやる!』


 ――と、ツバと共にまくし立ててきたらしい(吃音と滑舌の悪さが伴い、あまり内容に自信はないらしい)。

 ……いや、こんな長文よく全部覚えてたな、と僕は思うけどね。


 そしてこの日から、ストーカー行為はエスカレートしていった。

 郵便受けに虫の死骸を貼り付けた手紙が沢山詰め込まれたり。

 夜道に先回りされ、チラチラと見せつけるように刃物を懐から出してきたり。

 朝起きて寝室の窓を開けたら、窓に大きく『アバズレ』と落書きされていたり。ちなみにメリィさんの自宅の寝室は二階にあるので、この落書きをした犯人はメリィさんの寝ている夜の間に彼女の家の屋根によじ登り、窓に落書きをしたことになる。

 後、冷凍されたネズミの死骸が郵送されてきた事もあったそうだ。


「……酷いねぇ」


「……私、怖くて怖くて」


「しかし、アバズレやら売女やら……酷い言いがかりを付けられたものだ。言い返さなかったのかい?」


「……いや、それは、えっと」


 メリィさんは口ごもる。

 その様子を見て、僕はさっきから思っていた仮説を確信へと深めた。


「言い返せなかった理由を言い当ててあげよう。恐らく、図星だったんだろう?」


「えっ」


 メリィさんは虚をつかれたような顔をして固まった。

 僕はそれに構わず続ける。


「キミはその男の言っていた通りの、色欲の悪魔だった……いや、これは言い過ぎにしても、それに近しい存在だった。違うかい?」


「……ど、どこにそんな確証が」


「さっきから僕に何度も胸の谷間やら太ももやら、頭の悪い言い方をするのならエロい部分ばかり見せつけてきているだろう。無意味にボタンを取り外したり、スカートを捲ったり……演技がバレバレだよ」


「……あ、暑かったんだよ」


「今日は春なのに珍しく肌寒い日だ。運動もしていないのに暑がるのはおかしいよ。それに、さっき僕に太ももを見せてきていた時、ほんの少しだったが鳥肌が立っていたのを確認出来た。恐らくそれは、キミが寒さを感じているにも関わらず、無理をして太ももを露出したからだ」


「……うっ、くぅ」


「反論は有るかい?」


 メリィさんは俯いて肩を震わせ始めた。

 ふむ……少し言いすぎてしまったのだろうか? さっき相手のことを思いやって喋るべきだ、と反省したばかりなのに。

 ……ところが、それはどうやら違ったようだ。

 メリィさんが震えていたのは、悲しみや悔しさが理由ではなかった。

 そう――彼女は、笑っていた。


「くっ、……ふふふふふふっ」


「……反論は有るかい?」


「無いわ。全く……素朴で可憐なエルフっ娘を演じてきたつもりなのに。私の本性、私にフラれた時の負け惜しみとかで偶然言い当てた男は沢山いたけど……根拠を持って見破られたのは初めてよ?」


 彼女はさっきまでの自称・素朴で可憐なエルフっ娘な態度をやめ、今では仕草をする度にむせ返るほどの色香を醸し出す、妖艶なオーラを纏っていた。

 ちなみにエルフっ娘、というのは森人族の女性を指す言葉だ。


「本性を現した……って事でいいのかな?」


「ええ。これが私よ。男を弄んで夢中にさせて、最後にポイするのがだーい好きなエルフっ娘。それが私『メリィ・マルフィ』」


「ふむ……なぜこんなことを?」


「……男の人ってすごくいい反応してくれるから……楽しくなっちゃって」


「僕の反応はどうだった?」


「ぜーんぜん。つまんない」


「そうか。つまらない……か。やはり、女の子の胸を見てデレデレするのが一般論としては正しいのかな?」


「……そんな大々しい話でもないでしょ」


 メリィさんはため息一つ、ケーキの欠片をフォークで突き刺して口に入れた。

 そして、僕の方にフォークの先端を向けた。


「でも、私の本性を暴く必要あった? 探偵アナタはただ単に依頼人ワタシにイエスマンでいてくれればいいのに」


「キミに非がある場合と無い場合で、仕事の内容も多少変わる場合もあるんだ。依頼人にはキチンと本音で向き合ってもらわないとね」


「ふぅん……そういうもん?」


「そういうもんさ」


「私が探偵のことよく知らないからって、適当言ってない?」


「知るも知らぬも知るのうち。神々の黄昏恋模様ってやつさ」


「……? うん……ん、んん? えっ……うん?」


 メリィさんは唸って考え始めた。

 口論で困った時は、とりあえず意味のありそうで特にない名言っぽい謎の事を言えば、このように意味を考え始めるので、反論は来なくなる……と思う。豆知識だ。使えるかどうかはキミ達次第。


 さて、それにしても……ストーカーか。

 しかも、恐らく火種を作ったのはメリィさん。ストーカーは犯人が勝手に盛り上がって――ってパターンも多いが、メリィさんのように故意に勘違いさせて弄んだ結果の、ある意味自業自得なパターンはちょっと珍しい気がする。


「……うん。ワクワクするよ」


 僕はそう言って、そっと微笑んだ。



 ****



【キャラクター設定】 〜メリィ・マルフィ〜


 ・身長……一五八センチ


 ・体重……四八キロ


 ・種族……森人族(ノーマルエルフ)


 ・年齢……二〇歳


 ・職業……ケーキ屋『ブラーボオーレン』店員兼看板娘


 ・誕生日……八月一日


 ・見た目……おっとり天然系巨乳美人


 ・本性……男たらし計算系巨乳ビッチ


 ・意外な事実……まだ処女


 ・処女である理由……『まだ私には早いかな……』をこじらせ続けた

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