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『黄の章』第22話:化物を打ち倒す其は

 ヒナギが怪物に相対したのと同じように、ギンコも3体の怪物と対峙していた。

 もし、ギンコが本気で殲滅しようとすれば問題ない相手である。

 しかし、ギンコは距離を取りながら、牽制程度の攻撃ばかり行っていた。


 ギンコは悩んでいた。


「至王の試練」


 里に近いこともあり、里には挑戦者が逗留することも多い。

 また、里の者が試練を受けた話を聴く機会も相応にあるため、それなりの情報を持っていた。

 試練の内容自体は魔物と戦ったり、走ることであったり、祭壇を組み上げることであったりと千差万別だったが、内容に関わらずある共通点があった。

 それは『終わるまで休む暇なく続く』ということだ。


(おかしいですよねー……)


 試練に《巨壁》が現れた時には驚かされた。

 それは恐らくイメラルディオで聞いたことのある《巨壁》だった、という前提で、その強さは相当のものであったとギンコは思う。

 実際にスキルに対する耐性は脅威だ。

 しかし、スキルに頼らない攻撃を有するならば、倒せないほどではない。

 事実、ヒナギが太陽毛に見初められるほどの才能を持つとはいえ、実戦経験の少ない彼女に攻略できる程度ではあるのだ。


 《巨壁》に対し、ギンコは時間をかけながら体力に余裕を持たせて打ち倒した。

 それは、次に訪れる試練を警戒してだった。

 それにもかかわらず、前回は《巨壁》を倒した程度で利緒、ヒナギと合流することになった。

 それはどういうことか。


(それに……)


 ヒナギが考えるのは、利緒と至王のこと。


 利緒には話していなかったが、ギンコが戻った時、利緒を抱えて部屋に入る至王を見たのだ。

 その後、何食わぬ顔で部屋から出てきた至王に利緒が起きるから連れてくるように、と言われた。

 ギンコたちが1日ぶりというを受けて、利緒自身かなり長く眠っていたと感じていたようだったが、至王の行動、首を絞め意識を落とす、であればそんなに長く気を失うはずがない。

 首に手を添えた程度で気を失って、長時間眠っていたのであれば、スキルかそれに類する力が働いたに違いないが、眠る利緒からはそういった気配は特になかった。

 もちろん時間経過で気配が薄れることはあるだろうが……。


「っと!」


 思考が、隙となった。

 思わず声を出して、反射的に大きく体を反らせ《鉛》の腕を回避する。


 連携する3体を減らして良いのか、現状維持で追加されることはないのか、全て倒してどうなるのか。

 試練を知っているからこそ、ギンコは動けない。


「覚悟決めないと、だめですかねー……」


 大きく上がった鼓動と、頬を流れる汗を抑えるように息を大きく吐き出した。


【黄の祀舞「高揚供え奮いたつ神輿」】


 ーー戦いの激情に己を沸き立たせよう。

 ーーされど戦意はわが意に在らず、その想いは全て天に奉じる歌となれ。


 ギンコは、3体の怪物を改めて見据えた。


「いきます」


 敵に意思があるのかはわからない。

 だからこの言葉は、これから戦う自分を鼓舞する言葉。


 ギンコは大きく足を踏み出した。


 ギシギシと音を立てて、怪物たちは迎え撃つ。

 それは、ギンコの覚悟など関係なく、行動に対する反応に過ぎなかった。


 《鉛》は腕を大きく振り上げて、勢いをつけて地面を叩きつけ揺らす。

 ギンコは腕を掻い潜り飛び、《鉛》の胴体を蹴り上げた。

 質量差もあって、《鉛》を倒すまでにはいかなかったが、バランスを崩した。

 《鉛》が倒れないよう重心を安定させるべく腕を動かせば、そこに脅威はない。

 とはいえ、ギンコの力では機能を停止させるまでには遠い。

 《鉛》をひとまずは無視することに決め、ギンコはそのまま先へと進む。


 《堅木》は回避したギンコの進路を塞ぐように立っていた。

 《堅木》はその尖った手をギンコに突き立てんと、腕を引き構える。

 それは木材とはいえ、ギンコを容易に貫くだけの力があった。

 もちろんそれはギンコが何の対策も行わなければ、だ。


【黄の祀舞「畏れ古より続く風鎖」】


 放たれた腕よりも速く、《堅木》へとたどり着く。


【黄の祀舞「深緑よ普遍こそ永遠」】


 そして勢いのままに、純粋に強化した力のみで《堅木》を破壊した。


 残る《水晶》の攻撃は、《堅木》の破壊片を盾に受け流す。

 風による遠距離攻撃は、あくまで《水晶》から直線的に放たれており、見えずともその動作から起動を割り出すことは難しい話ではない。

 倒した《堅木》の対スキル耐性が機能するかは分かっていなかったが、少しでもそらすことが出来れば、そのまま《水晶》までたどり着ける確信がギンコにはあった。


 幸い、《堅木》は壊れてなお風を弾き、無傷のままギンコは《水晶》の元へとたどり着く。

 ガシャンと大きな音が部屋に鳴り響いた。


 体勢を立て直した《鉛》が、後ろへと駆けて行ったギンコの方へと向き直る。

 そこには《水晶》を倒し、不要になった《堅木》を放り捨てるギンコの姿があった。


「……追加はなしですかねー」


 あたりを見渡して、ギンコは呟いた。


 単体であれば、その行動も変化するのだろう。

 《鉛》は、3体の時とは変わって、その巨体をもって勢いよくギンコへと迫る。

 部屋から出る方法が見つからない以上逃げるという選択肢は不毛であり、連携を意識しない質量に物を言わせた突撃はこの上なく厄介ではある。


(でもまぁ……祀舞はこれ以上必要なさそうですねー)


 面倒はかかるだろうが、不利な相手ではない。

 ギンコはそう判断して、《鉛》の突進をヒラリと避けた。

読んでいただきありがとうございました。

ぼちぼち頑張ります。 

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