『碧の章』第7話:攻略の兆し
「クーネア、ごめん!そろそろそっちへ行く!」
「……っ!はいっ!そろそろこっちもキツかったです!」
クーネアは《巨壁》の大振りを避けてから、息を切らしながら利緒の所にやってきた。実際のところ、利緒が下がってから、クーネアに声をかけるまでに1分程度かかっていた。
魔法が効かない以上、クーネアに出来ることは少なく、ほぼ回避に専念していたのだが《巨壁》の圧力は厳しかったようだ。首筋に流れる汗を手袋の甲で拭っている。
《巨壁》が振り下ろした腕をゆっくりと上げた。その巨体が向かってくるより先に、兜の奥の碧の光が2人を捕捉するように動く。
「あいつを倒せそうななにか、リオは浮かびました?」
ゆっくりと体を動かし、こちらを向こうとする《巨壁》を見ながら、クーネアがいう。
「残念ながら。」
「そう、ですか。どうやったらこのゴーレムを止められるんでしょうか。」
精神的にも疲弊しているだろうに、クーネアは《巨壁》を倒すことを諦めてはいない。やはり、逃げる気はないようだ。
莉緒は取ることの出来る選択肢をクーネアに提示する。
・「影貫く蛇の弓弩」が打ち所によって、実は倒せることに期待する。
・「鋼砕く狂鬼の纏」により、能力を強化して前面から打ち倒せることを期待する。
・「路示す雷の指針」が、《巨壁》の攻略方法を指し示してくれることに期待する。
・「魂写す翡翠の眼」で、《巨壁》の弱点を見通せることに期待する。
「「鋼砕く狂鬼の纏」をつかうのが一番マシだと思う。でも、僕もクーネアもそれだけであいつには絶対に勝てない、そんな予感がする。」
「リオの力でも、絶対に勝てない、ですか。」
「正直ね、あいつの前に立つこと自体無理。めちゃくちゃ怖い。でも戦わないといけないんだ。」
「……別にリオは逃げてもよいですよ?」
利緒は別口で知ってしまっていたが、クーネアは自身の事情を話していない。自分の進退について、重要ではあるが、他人に命を掛けさせてまで叶えるものだとは考えていなかった。
「あの石室から助けられた恩がある。」
「遺跡をここまで案内してくれましたし、十分と思いますよ?」
《巨壁》がいる以上、アグロギアかは別として、重要なアイテムがあることも事実。すでに借りは返してもらっている、とクーネアは言う。
「……戦意が折れそうになる言葉はやめて欲しいかな。」
だが、利緒はクーネアを助けたい。そして《巨壁》に立ち向かうには無理にでも理由を作らなければ覚悟を維持できないほど、怖い。
「……僕は「この世界」が好きなんだ。」
この半年以上、ずっと追いかけてきた空想の世界が、今現実にここにある。
恐怖と、興奮と、義務と、正義と、様々な想いの入り混じった心。
その声は小さかった。
◇
碧のデッキは、魔法をメインとしたデッキである。
それぞれのユニットは、自身のスキルカードのプレイをトリガーにした能力を持つものが多い。
【《賢鬼》クーネア・ル・ルナフィア】の能力もスキルカードの発動に対して効果を発揮する。
1ターン1度の手札の増強と、スキルカードのコスト低下、自身のステータスの強化と、そのレアリティに相応しく強い。
中盤から、手札を切らさずに魔法による圧力をかけ、終盤には自身の強化によってフィニッシャーとなるキーユニットだ。
が、現実のクーネアはどうだろうか。
探検家然とした格好に、美人ではあるが化粧っ気の無さ、縛っただけの髪とあってどこか気が抜けた感じがある。カードであれば、「鋼砕く狂鬼の纏」を2回使えば効果と合わせて《巨壁》を一方的に打ち倒すことが出来たのだが、残念ながら、今のクーネアではそのビジョンが見えない。
「可能性はこれしかないと思う。」
使い切ってしまうことになるが、2人とも強化する。現状、2人とも耐久力、攻撃力が足りていない以上、出し惜しみはしていられない。利緒はまずクーネアに「鋼砕く狂鬼の纏」を発動した。
(やっぱり、コスト制ってのは正しかったみたい。)
「鋼砕く狂鬼の纏」「影貫く蛇の弓弩」の2つだけが唱えられる感覚に、利緒は仮定の一部があっていることを知る。
(問題はいつ回復してくれるか、または回数が増えてくれるかだけれど。)
自分にも、「鋼砕く狂鬼の纏」を使おうとした時、クーネアから声がかかった。
「……リオ、「鋼砕く狂鬼の纏」を、もう一度、私に使って頂けますか?」
もしかしたら、あのゴーレムを倒せるかもしれません、とクーネアが言う。クーネアは自身のかけられた魔法の効果を確かめるように拳を握り、近くの瓦礫を打っていた。
弾け飛んだ瓦礫自体は、利緒でも出来るがだからといって勝てるイメージはなかった。クーネアがこう言う、と言うことは、なにかしらの感覚があると言うことか。
対《巨壁》について、攻略の光が見えた。
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