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『碧の章』第6話:「環奈 利緒」の選択

 魔法に反応してか、《巨壁》が腕を大きく振るい、近くの岩を弾き飛ばした。

 幸い、それらが利緒とクーネアを傷つけることはなかったが、机や椅子にぶつかり退路を塞ぐように崩れていった。


 仮に手強いガーディアンが現れたとしても、自分であれば簡単に倒すことができる。強敵を一蹴することでクーネアからの評価もうなぎ登り、一気に距離感を詰められるかもしれない。そんな甘いことを考えていた自分に、利緒は今更後悔していた。


 いままで、全ての魔法が問題なく使えた事もあって、攻撃スキルを試して見ようなんて考えもしなかった。なんとなく上手くいくと思っていた。それが《巨壁》による絶望を殊更に際立たせていた。


 「影貫く蛇の弓弩」は元々効くかどうかもわからず、弾かれたことはおかしくない。むしろ最強の魔法が効かなかった時の方が精神的にはきつかっただろう。しかし、それでも魔法が上手くいかなかったことで、利緒は動揺していた。


「あれを弾きますか。やはり魔法は効かないものと見て間違い無いですね」


 私以上の威力ですが全く効いていないですね、と分析するクーネア。元々の心構えが違うこともあるだろう、利緒と違って冷静だった。


「あれだけの魔法、魔力の消費もあります。リオは少しでも下がって、私が前で相手をします!」


 女の子に庇われるのはどうなのか、などと漠然と思いながら、それでも体が後ろへ下がっていった。クーネアの一言で時間の猶予ができ、利緒はハーと息を吐いた。


 心臓が大きくなっている。

 呼吸が苦しい。

 それでも魔法が効かなかったことを踏まえて、それ以外の方法で《巨壁》を攻略しなければならない。利緒は現状について魔法についての考察を含めて、この後の対応について思考する。



 魔法を唱える条件について。

 「刻奪う深淵の歪」を使えなかったことから、知っている呪文を単純に唱えられる訳ではないようだ。また、二回「鋼砕く狂鬼の纏」を使えたことから、スターターのカード枚数と連動している可能性もなさそうである。

 現在、唱えられそうな魔法は「鋼砕く狂鬼の纏」「影貫く蛇の弓弩」「路示す雷の指針」の3つ。以前唱えたことのある「魁謳う天星の詩」「躰廻る朋の叫喚」が唱えられなくなっていた。

 他には「魂写す翡翠の眼」のみ唱えられそうな感覚はあり、カードのコストを参照して唱えられる魔法が制御されている可能性があるようだった。


 今までの魔法について、カード上でのコストは以下の通り。


1:「鋼砕く狂鬼の纏」「影貫く蛇の弓弩」

2:「路示す雷の指針」「魂写す翡翠の眼」

3:「躰巡る朋の叫喚」

4:「魁謳う天性の星」

8:「刻奪う深淵の歪」


 コスト3以降が使用できない魔法だ。まだ唱えたことのない魔法もあるが、いずれもコスト3以上であり、どれも唱えられそうにない。


(もう一度「影貫く蛇の弓弩」を使って、「鋼砕く狂鬼の纏」「影貫く蛇の弓弩」だけが使えるようになれば確定なんだけど)


 検証のために、手札を切ることはできない。魔法が使えるようになるタイミングがわからない以上、無駄な手を打つのはよろしくない。


(今まで使った魔法の総コスト合計は「10」。唱えられそうな魔法が残りとして「2」。まさか最初に「12」配られて終わり、なんてことないよな?)


 対戦ごとに盤面がリセットされ、ターンごとにコストを増やしていくカードゲームのシステムはこの世界でどう表現されているのか。

 理論上、手札からプレイ出来る限りコストとなるエレメントの配置上限はないため「12」という数字が急に出てくることはないように思う。とすれば、何かしらの条件で「12」が設定されたか、特定の条件でコストが増えているか。


(時間経過、イベント、初期値……くそ、最初に閉じ込められていた時に使えることがわかっていれば。)


 はじめに魔法が使えるとわかった時点で、自分の知る限りの魔法を試そうとしていれば、と利緒は悔やむ。もし起きてすぐに使っていれば、その時の上限や、どの程度で回復するかを測ることができたかもしれなかった。


(いや、もしかしたら本当に「12」だけ与えられていて、試していたらそこで使い切っていた可能性もある。)


 最悪はいくらでも想定できる、と、利緒は頭を振ってから、できることを考える。


(1つは、今ある選択肢だけで乗り越えられることを祈ること。1つは、回復するよう祈ること。1つはうまいことトリガーを踏んで魔法が使えるように祈ること。)


 浮かんだ3つの選択肢。どれも祈りが入っており、利緒は自分ながら少し可笑しかった。


(……ドローがあるなら別だけど、いまここで偶然に期待するってのは、なしだよな。)


 これがカードゲームなら、あるいは別の選択肢があったかもしれない。しかし、ルールが、正解がわからない以上、利緒はリスクがなるべく低い選択肢を選ばなくてはならいと考える。


 《巨壁》に対する恐怖がある。しかし、そんな化け物と1人戦っているクーネアがいる。


「……逃げられればいいんだけどさ」


 利緒がカードについて考えるにあたって、遺跡の試練について一つ思い出したことがある。クーネアはこれから発見するアグロギアを使い、魔法の研究を行ったことで学園への在籍を許可されたという未来のシナリオ。


「クーネアはここで逃げられないんだよ」


 震える脚を叩く。


「覚悟を決めろ、『環奈 利緒』!」


 利緒は《巨壁》を睨みつけた。

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また、誤字脱字などありましたら宜しくお願いします。


2017/09/04 レイアウトの調整

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