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『碧の章』第57話:7人の仲間たち

 利緒とブレガの戦い、この結果はグウェイにとって非常に面白いものであった。

 試練を超え、覇王の加護を授かったクーネアが短期間で強くなったのはわかりやすい。

 しかし、ブレガは独学で利緒に一撃入れるまでになっていた。


 元々、ブレガは優等生である。特に魔導具については大人を含めても相当優秀であった。

 ただし、正面切って戦えば甘い部分も多くあくまで学生としては優れているという評価である。


 それが、大きく覆されることになった。

 勝つために知恵を絞り、必死に喰らいつく姿は以前のブレガでは考えられなかった。


 理想を追い求め、駄目なものは駄目と切り捨てる諦めの良さ。

 その全てが悪いわけではないが、戦士にはなり得ない、そのはずだった。


「好敵手ってのかね、化けやがった」


 グウェイは笑う。

 学者として強さは必ずしも必要ではないが、発展は闘争と密接な関係がある。

 強い方が、後に多くのものを残す、それがグウェイの持論だった。


 壁に叩きつけられた利緒から異常な魔力を感じ戦いを止めたが、グウェイとしては十分な収穫があったものと思っている。


 証拠に、観戦者は今までのブレガからは想像のできない戦い方に、目を見開いている。

 アリアであればブレガに勝ち目はほぼはないが、その他の2人は良い勝負になりそうだ。


「それじゃ、ひとまず撤収すんぞ」


 パンと大きく手を叩き、惚けるクーネア、ネメル2人の意識を呼び戻す。


 アリアは既に利緒とブレガの元に向かっていた。

 ハッとするクーネアが辺りを見回した頃には、グウェイを抱きかかえ、利緒に手を貸していた。


 いくら疲弊しているとはいえ、女性に抱きかかえられるのは座りが悪く、ブレガはアリアに降ろすよういう。

 ブレガは集中が切れたこともあって、地面に座りこんでしまった。

 少し上を見上げて、利緒と目を合わせた。


「……随分余裕そうだな。くそ、いけると思ったんだがな」

「防御は切らされたし、魔法の威力次第で僕が危なかったよ」

「本当かよ。まあいい、次は俺が勝つ」

「いいや、次は僕が勝つ」


 利緒とブレガはお互いに啖呵を切り合って、しばらく見つめあってから笑う。

 アリアが一歩引いた位置で、じっと二人を見ていた。


「青春ですね」

「バカヤロウ、お前何のために来てんだよ。とっとと診てこい」

「おっと、そうですね」


 グウェイに叱られて、ネメルは駆け足でアリアの元に向かう。


「おい、クーネア。お前はセラヴィを呼んでこい。ちょっと予定切り上げる」

「ストラバリッツ先生ですか、はいわかりました」

「場所は、俺の研究室に来るよう言え。ついでにペルフェ、ブリギガを呼ぶよう伝えろ」


 クーネアに、一通りの指示を言い渡してグウェイは訓練場を去る。

 その後ろ姿を見送って、一度利緒達の方へと振り返ってから、クーネアはセラヴィの元へ走り出した。



 グウェイの研究室に、人が集められた。

 利緒とともに、偉大なる三頭が1人「《地震》ニーアムナイクロティープ」の元へ向かう面々だ。


 訓練場から戻ってきた利緒、クーネア、ブレガ、アリア。

 別口で参加を希望していたセラヴィ。

 そして、学生であるが実力を認められ、参加することになったペルフェとブリギガ。

 それに、発案者のアルドと、募集を行ったグウェイの9名である。


「カンナリオ以外はお互い知ってるから、そっち二人、自己紹介だ」


 グウェイは投げやりに、ペルフェ、ブリギガに声をかける。

 2人は、クーネア、ブレガの2年上の先輩である。

 優秀な人材であれば、接点も多い。特にセラヴィは学年を問わず人気があり彼らはセラヴィの元で知り合っていた。


「それじゃあ私から。未来のペルフェ・キ・ディスティマン。よろしくねリオ・キ・ディスティマン」

「……俺はブリギガ・ゾン・フォカン、魔薬を主に扱っている。今回の目的地は普段は立ち入り禁止区域なのだが、俺の求めている植物の群生地でな。勝手ではあるがこっちの都合で参加させてもらうことにした。」


 ブリギガは良いとして、ペルフェの紹介に利緒は頭を捻る。

 利緒の目に見える名前は「《破滅の足音》ペルフェ・アントゥール」だが、当人はキ・ディスティマンを名乗っていた。


 適当とまではいかないが勝手なことを言っていたのだろう、案の定、グウェイに頭を殴られて、涙を浮かべていた。


「いったっ!? 何するんですか先生!?」

「未来の何だって? 俺ぁ認めてねぇぞ」


 2つ名に現れているように、ペルフェはキ・ディスティマンに並みならぬ思い入れがあるらしい。


 利緒よりも背が高く、長い赤い髪が目を惹く。

 格好はジーンズのようなハーフパンツにノースリーブのシャツ、皮のコートと魔法使いと言うには少々ラフな格好だった。


「でも、先生誰にも継がせないって言っときながら、リオに『キ・ディスティマン』を名乗らせてるじゃないですか! じゃあ、私も可能性ありますよ!」


 随分と情熱的な人のようで、再度グウェイに小突かれるも、思いの丈をぶちまける。

 グウェイに負けず劣らず、強い人だった。


「僕べつにディスティマンとか受け継いでないですし、名乗ってないですよ?」

「あら、そうなの?」


 利緒の訂正を聞いて、ペルフェがようやっと落ち着いた。

 当人も暴走した自覚はあるのだろう、居心地の悪さを誤魔化すように頬をかいて、改めてよろしく、と利緒に手を差し出した。


 利緒も手を出して、握手するとペルフェはなにか感じるところがあったのだろう、ふぅんと訳ありげに呟いてから、笑った。


「普段は頼りになるお姉さんなんだよ」


 クーネアから肯定的な意見が利緒に寄せられるが、第一印象は頼りになる、という感じはなかったと利緒は思う。

 そこら辺は、そのうちわかるのかな、と未来の自分へと投げ出した。


「ところで、1ついいだろうか」


 ペルフェの騒動に一区切りついたタイミングで、ブリギガが手を挙げる。


 《魔薬師》という2つ名の筋肉質な巨躯。格好も集まっている中では最も戦士然としており、見るからに強そうな男であった。


「ブレガとクーネアの2人は参加するには実力が足りていなかったと思うのだが、ディスティマン先生が許可を?」

「まぁな。クーネアは覇王の試練を超えたし、ブレガの方も問題なしと判断する」

「覇王の? それほど……であれば、こちらとしても特に言うことはないです。話の途中、失礼した」


 覇王の試練を攻略した、という実績は相当の権威らしい。

 ペルフェもクーネア達を見る目が少し変わった。


 以降、話は特に詰まることなく進み、実際の日程が決定される。


「……それでは、これから4日後に君達はマギニアを発つ。全体工程は2週間程度となる。各々準備をしておくように」


 アルドの言葉で集会が締められた。

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