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『碧の章』第55話:戦いは何のために

 重く静まった部屋に、ゴンゴンという音が響いた。

 伏し目がちだったクーネアとアリアの2人も、思わず顔を上げて窓の方を見る。


「邪魔すんぜ」


 鍵を魔力でこじ開けて、グウェイが窓から侵入する。

 何が起こったのか、あまりに急な出来事に少女たちは目を見開いて驚いていた。

 続いて、利緒とブレガも窓から部屋へと入る。


「リオ!?」

「リオさん!?」

「……俺もいるんだけどなぁ」


 驚く声をあげる2人と、切なげな台詞をこぼすブレガ。

 唯一その声が聞こえた利緒は、後ろにいるブレガの暗い顔が見えた気がして苦笑する。


 最後に入ってきたブレガは窓を閉じる。カーテンも閉めて振り返ると、利緒の左右で口論を始めるクーネアとアリアが見えた。

 グウェイはそれを笑って眺めていて、利緒は左右に首を振りながらどうすればいいのかと、途方に暮れていた。

 ブレガは、はぁ、とため息をついて3人の側に向かい、利緒を2人から引き剥がす。


 利緒は少しホッとしたようにブレガを見上げ、クーネアとアリアは感情の消えた冷たい視線を向ける。


「言い争いは後にしよう。ディスティマン先生話をお願いします」


 自分の声には聞く耳を持たないと悟ったブレガはそれら全てを一切無視して、グウェイに話を切り出した。

 利緒の部屋で聞いた、指令への参加資格について。

 流石にグウェイの言葉となれば、クーネアもアリアもグウェイへと注意を向ける。


「おーう、詳しい話は置いといてな、お前ら喧嘩の裁定を頼むわ」

「すみません、俺の方で説明します」


 あまりに適当なグウェイの言葉に頭を抱えるブレガ。

 案の定、クーネア、アリアは頭に疑問符を浮かべるように、首を捻っていた。


「今回の旅に俺が参加できるかどうか、カンナリオと戦って実力を示せとのことでね。それだけの実力があるか判定してもらいたいんだ」


 ブレガは笑って言うが、内心非常に面白くない。この条件は、まるで敵わないことを前提としているようではないか、とブレガは思うのだ。

 確かに利緒との力の差があることをブレガは理解しているが、純粋に納得できるものではない。


「別に構いませんよ」

「場所はどこ?」


 二つ返事で返してきた女性陣に、特に異論はないらしい。

 当たり前のように返ってきた声には、それ以上の感情がない。


「……ブレガ、僕は本気で行くからね」

「ああ、そうじゃないと意味がない」


 この場で、ブレガの心情を1番に理解していたのは利緒だった。

 利緒は笑わず。目を合わせることなく横で呟いた声にブレガは味方が敵である利緒しかいない不条理に苦笑いするしかない。


「そいじゃあ、訓練場へ向かうぜ」


 空気を読むことなく窓から外へ出て声をかけるグウェイに、皆がため息を吐いた。



「こんなに早く再戦するなんて、正直思ってなかったよ」

「全くだ」


 訓練場へやってきた一行。

 訓練場の中心には、《神無》襲来の直前の立会いと同じように、利緒とブレガが立っている。


 観客は、グウェイ、クーネア、アリア。そしてグウェイに連行されてきたネメルの4人。

 だれも私語することなく、成り行きを見守っている。


 ブレガは腰に下げた2本の杖は変わらず。そして、剣を一本手に持っていた。

 刀身は大怪我を負わないよう潰してあるが、魔術を扱う仕組みが柄に組み込まれておりブレガの実力を発揮するには十全であった。


 対して利緒は一切の武器を持たず素手。自然体に立っているがそこに隙はない。

 身体強化の魔法が、利緒の纏う魔力が、力を抑えきれずに揺れる。


 お互いに準備はできている。


「それじゃあ、合図するぜー」


 グウェイの声に、2人の緊張が強くなる。風すらなく訓練場は静まり返っていた。


「……始め!」


 声と同時に、2人が一気に動き出す。


 進行方向は、お互いに後方。1回戦は遠距離魔法の打ち合いから始まった。



 ブレガの魔法は杖の力を借りるものだ。

 それは例えば杖を腰に下げていても、問題なく使える。実際に掴んだ方が制御はしやすいが、その分杖の持つ力に引き摺られてしまう。

 その対策として、2本の杖を同時に持っていたがその分その他の魔法はほぼ使えないと言う欠点があった。


 その対策が、1本の剣、『魔を制する剣(ベルダスカ)』だった。

 (ベルダスカ)を利緒に向け、起動式を展開する。

 灼熱と極寒の相反する力が同時に宙へと描かれる。


 式の展開から、発動までは一瞬。

 広がった陣は、即座に冷気と熱気へと変わり、利緒を襲う。


【「魔に染まる狂い月」】


 しかし、利緒の元へそれらが届くことはない。


 利緒の前に魔法の無い不自然な空間があった。

 見えない球を避けるように、氷と炎が絡みながら広がっていた。


 ブレガは自分の魔法が異様な広がりを見せたことで、魔法が届いていないと看過し、直ぐに攻撃を止める。

 炎と氷が残るうちに新しい魔法式を展開する。


【「國屠る怨嗟の枝」】


「ちっ!」


 利緒の魔力の極端な増加に、展開している式を維持したまま、ブレガはその場を離れた。

 直後、魔法の斬撃がブレガの魔法を消しとばす

 寸前までブレガの立っていた地面に行く筋もの線が走り、割れる。


 走るブレガに見えた斬撃の向こう側には、無数に枝分かれした魔法の剣を構える利緒。


 ブレガを追うように、利緒の顔が動く。

 合わせて、ブレガの進行方向の地面にピシリと無数のヒビが入る。


「宙踏む疾風の沓!」


 訓練場ではあり得ないはずの光景に、慌てて靴に込めた起動式を音声で起動し、勢いを殺さぬよう空へと翔ける。

 同時に踏み出す予定だった地点が、大きく崩れた。


 舞い上がった土を利用して、ブレガが利緒の視界から隠れる。

 ブレガの見えなくなった、利緒は攻撃を止める。


 土が落ちるまでのほんの数秒で、ブレガは維持し続けていた起動式を完成させる。

 奥にいるであろう、利緒目掛けて魔法を発動する。


「立場が逆転したな」


 ブレガはついこの間の戦いを思い出す。

 あの時は、利緒の魔法を必死に受けることになったが、今度は利緒が堪える番だとでも言いたげに。


【碧の魔法「誉奪う崩壊の顎」】


 《魔壊師》セラヴィの誇る、破壊の魔法。

 幸いなことに、それとも残念なことに、だろうか。ブレガはこの魔法で利緒を倒せるビジョンが浮かばない。


【「護る物、汝は不変なり」】


 噛み砕かんと顕現した魔法の顎は、確かに利緒を飲み込んだ。

 しかし、そこには平然と立つ利緒がいる。


「……思うんだけど、これ人に使っていい魔法じゃないよ」

「平然と耐えてるくせに何言ってんだ、この化け物め」


 見上げる利緒と、空に浮かぶブレガは笑う。

 お互いに、思う、戦いが楽しい。今この戦いは2人だけのものだった。

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