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『碧の章』第45話:消えたクーネアは何処?

「おい、クーが消えたぞ!?どういうことだ!」


 利緒がジルモーティンに掴みかかった。

 消える瞬間に、男の口から上がった名は何者か、身長差から胸元を絞るように握りしめる。


「オージッカヌラ、この迷宮の主、覇王様だ」


 怒る利緒に対して、その声は冷静だった。


「オージッカヌラ?何だその言いづらい名前は!」

「俺に言うな。王ってのはみんなそんな名前だ」


 なおもつめ寄ろうとする利緒だったが、ジルモーティンの冷ややかな視線を浴びて怯む。

 早急に動く必要はあるが、情報がないことには最適な行動を取ることは出来ない。


「………ごめん。冷静じゃなかった。知っていること、教えてください」


 胸元を掴んでいた手の力を抜いて、下に落とした。

 一度、大きく深呼吸をしてから、利緒は頭を下げた。


「冷静になれたのなら謝らんで結構。お前の気持ちも分かるしな」


 顔を上げた利緒を見て、ジルモーティンは苦笑する。


「覇王は強くなろうとする意志を尊ぶ。これだけならそう悪いやつではないんだがその方法があれだ。奴が気に入ったなら、当人の意志を無視して試練に引きずり込む」


 消えた理由は、クーネアが強さを求めたからだという。


 利緒も同じような気持ちを持って、この試練に臨んでいたつもりだが、戦いの中胸中を渦巻いていた自身が強くなったという一種の酩酊があった。

 ジルモーティンという強者と曲がりなりにも戦えている実感は、純粋に力を求める意思とは少し外れていた。


「クーネアは、お前よりも弱い。さっきまでの戦いを見て本人がそれを強く感じた」


 だからこそ、より強さを求めた。その気持ちが覇王の目を引いたのだろう。


「……クーを助けるには、どうしたらいい?」


 利緒の疑問に、ジルモーティンは顎に手を当てて考える。


「嬢ちゃんの強さ次第だが、恐らく6層に飛ばされたと思う」

「6層?どうして?」

「5層までは純粋な力があれば超えられる試練。その次の6層から地力を測るため絡め手が増えてくる」


 覇王の試練は2段階に分かれる。5層までの力押しと、6、7層の対応力を求めるもの。


 後半に進むにつれて迷宮は攻略までに進む距離が長くなっていく。

 そのため、6層は1~3層の魔物に知力を与えたものとなっていた。


「そういうわけで、直ぐに危険と言うわけではないがそれでいて緩くもない。そんな階層だからだ」


 何度も挑戦しているだけあって、利緒にとってジルモーティンの説明は納得のいくものだった。


「なるほど……」

「問題は、覇王に睨まれているせいで嬢ちゃんの意志で迷宮からの一時離脱が出来んことだ」


 そういえば、迷宮からはいつでも抜けられると言っていた、そんなことを言われていたなと、利緒は思い出した。

 何にせよやるべきことに変わりはない、クーネアを助けに行くだけだ、と利緒は想いを固めた。


「僕は急いで6層に向かう。ありがとう」


 向かうべき場所は分かった。利緒は即座にクーネアの元へと向かおうとする。

 情報を教えてもらったことについて礼を言って、「路示す雷の指針」を起動する。


「まあ待て、カンナリオ。お前がいいと言うのであれば、俺が手を貸してやるがどうする?」

「いいの?それはありがたいけど、含みのある言い方だね」

「覇王のご機嫌を損ねることになれば、お前の目的覇王との契約はご破算。それでよければ力を貸そう」


 ジルモーティンは真っ直ぐに利緒を見る。体格の差と本人の顔の造形によって、上から睨まれているようであった。


「いいよ、そんなの。こんな無茶苦茶な奴こっちから願い下げだ」


 利緒は右腕をジルモーティンに差し出した。


「よろしくお願いします」

「おう、任せろ!」


男はその手に強く応えた。



ジルモーティンの強さは、対魔物において圧倒的だった。

遭遇した途端に地面を強く蹴り接敵。そのまま頭を撃ち抜いた。


頭部を吹き飛ばされた魔物は、そのまま光の粒子となって消えていく。


飛び散る肉片はない、死体が残ったりもしない。その事実に利緒はホッとした。


「次、団体さんだ!」


広い通路に、十程度の二足歩行の竜人がいた。

みな金属製の鎧兜に槍を装備していた。


ジルモーティンの叫び声が聞こえたのだろう、揃って利緒達の方を向き、槍を構えた。

数の差は一つの正義である。


ここにいるのが、この2人でなければ。


【碧の魔法「鋼砕く狂鬼の纏」】

【碧の魔法「躰廻る朋の叫喚」】


利緒は魔法によって、身体強化を強めて飛び掛った。

構えられた槍の隙間を竜人達に反応できない速度で通り抜け、すれ違いざまに2体撃破。

そのままの勢いで、利緒を見失い慌てていた1体に蹴りを入れて吹き飛ばす。


蹴った部分が弾けて、光となった。

残った体も、勢いよく弾き飛ばされて、残る魔物のうち3体ほど巻き混んで消えていった。


「よくやった!」


ジルモーティンも、この一瞬で魔物達を倒していた。

利緒の蹴りで残りも片がつくと看過し、先に駆け出していた。


利緒は全滅させたことを確認して、その背中を追いかける。


試練に現れる魔物達が生きているかという問題はあるが、利緒はこの世界で初めて生物の命を絶った。

それも圧倒的な力でねじ伏せた。


未だ宙に残る光の粒子を背に、利緒は走りながら、己の力が命を脅かす凶器であることを強く感じていた。

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