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『碧の章』第3話:遺跡を歩こう

 目標と合わせて思い浮かべた魔法が、実際にその姿を現した。

 バチバチと音を立てていそうな小さな妖精は、その指先にこれまた電気で出来ていると思わしき矢印を浮かべている。

 シナリオでは「路示す雷の指針」の魔法は、遺跡を探索中にクーネアが接触してしまった遺物が偶々発動した魔法、となっている。カードとしての効果は、特定条件付きで山札の上からカードを2枚手札に加える、という低コストスキルである。


(……まじで?まじでか!まじなのか!?)


 利緒は表情こそ崩さなかったが、内心その喜びようは相当なものだった。

 1つは魔法が使えたことに対して。これは現実世界ではあり得ないことであり、厨二心をこれでもかと刺激した。

 次に「ファンタズム・ゼノクロス」の魔法であることに対して。これはこの世界が、カードゲームの背景世界であることの証左のようなものだから。

 そしてこの魔法を使うのが「遺物」であるという設定に対して。つまりこの魔法を使った自分はまず間違いなく、この世界におけるキーパーソンであるということだ。


 そんな利緒の驚きとは別に、クーネアもこの魔法を見て目を見開いていた。


「カンナリオは「失われた魔法」を使えるのですね!」


 フレーバーテキストにあった「それは奇跡であった。賢鬼の名は雷との出会いから始まる。」の一文を思い出した利緒。


(カードゲームではただの手札増強カードなんだけど、やっばいなこれ。魔法とか、凄いテンション上がる。)


 そんな興奮を隠すように、利緒は笑顔で話を続ける。


「それじゃ、探しに行こうか。クーネアの探し物「アグロギア」を」

「……カンナリオも名前を知っていましたか」

「まぁね。使い方が分かれば想像ついたよ」


 本当は、シナリオで読んだからだけれど。

 アグロギアはカードとしては登場していないため、実はどんな姿形かを利緒は知らない。


(……このニコニコと笑っている雷の妖精の矢印が、ものにピタリと当たってくれると良いんだけど)


 知ったかぶりを訂正しないまま、利緒は矢印の方に歩き始めた。

 魔法に浮かれていた利緒は、実はアグロギアが目標になっていない、なんて事は欠片も考えていなかった。



「ところでさ、利緒が名前で、環奈は苗字なんだ。カンナリオじゃなくて、リオって呼んでくれるかな?」

「すみません、カンナリオという名前なのだと思っていました。リオが名前でカンナが苗字。やはりカンナ、いえリオはマギニアの人間ではないのですね。」

「あー、うん。そうなんだ。まぁ、ある種の精霊?とかそんな感じ?」


 2人は取り留めのない話をしながら、遺跡の中を進んでいく。

 そんななか利緒は今までの地球については、極力情報を出さないよう気をつけて会話をしていた。特に大きな意図があったわけではないが、むやみに藪を突くより、遺跡の関係者だと思われているのなら曖昧に誤魔化していた方が良いだろう、という事なかれ主義の結果だった。「ファンタズム・ゼノクロス」ではプレイヤーはミラリオで活動する高位生命体という立ち位置となっている。利緒としては、住民と魂の契約を行い、その力を行使する、という説明が気に入っていた。


 クーネアとの会話は遺跡についてのものが多かった

 「起きたばかりでよく分からない」という利緒の言葉を、「遺跡のゴーレムが封印されていて、時間経過でその記憶を失ってしまった」と、クーネアが受け取ったために、わかることは何かを探るようなものとなった。実際遺跡について詳しいわけでもなく、あまり多くを語ることが出来ない利緒だったが、遺跡の内情についてクーネアがそれほど気にした様子はない。そもそもの目的については「路示す雷の指針」が道順を教えてくれるのだから、その通りに進めばよかったため、なかなかに会話が弾んだ。


「それにしても、流石「失われた魔法」です。こんなに楽に進めるとは思いませんでした。」


 クーネアの感想ももっともで、指針は単純に目的地を指し示すのではなく、曲がり角や階段を含めて、実際に進む道を示してくれる魔法だった。また、選ばれる道もどこか歩きやすいように見えた。そんな優秀だと思っていなかった利緒は、ふふふ、と曖昧に笑って誤魔化した。


「……こいつ、アグロギアの実物しっかりと指してくれるよな」

「リオ、なにか気になること?」

「あー、魔法って便利だよねって」

「そうですね。だからこそ私は、魔法を学び、もっと良いものを目指しているんです。」


 そのためにもぜひ「アグロギア」を探さなくては、とクーネアは拳を胸の前で固めた。もっとも声にこそ出さないが、利緒の発見こそ今回の最大の収穫だ、とクーネアは思っている。


「イメラルディオ学園だっけ?なんか凄そうなところだよね。」

「ええ、実際にマギニアでも優秀な学園ですから。」


 実は、私結構優秀な生徒なのですよ、と少し胸を張るクーネア。


「そうだね、そんな感じするよ」

「んー。リオー本当にそう思っている?」


 だって、シナリオ上そうなってたもの、と心の中で利緒は答える。実のところ、研究側な気はするけれど、可愛さもあって学術的に優秀なようには思えなかった。


「本当だよ。目的もそう遠くはないだろうし急ごう?」


 クーネアが可愛い、などと考えたことを誤魔化すように、利緒はその歩みを少しだけ早くした。

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また、誤字脱字などありましたら宜しくお願いします。


2017/09/04 レイアウトの調整

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