『碧の章』第24話:ロガンの心臓
「なんですそれ、綺麗ですね」
グウェイの取り出した首飾りにネメルが興味を示す。
黒い宝石を中心に、5色の宝石が並べられたそれを、利緒は知っている。
「……《ロガンの心臓》。」
「……それは、お前の眼か?」
「いや、でも、知っている。」
碧のスターターに入っていたアイテムカードで、魔法のコストを下げる効果があったカードだ。
「ロガンって、あのロガンですか?」
「あのロガン?」
グウェイの手から首飾りを渡され、ネメルは様々な角度から装飾を眺めていた。
銀色の葉の上に、宝石が葉脈のように4方に伸びていたが、それがロガンのマークをイメージしているらしい。
「ええ、リオ君が見つかったところも含めて、あの辺りは「ロガン」っていう指導者が統治していたとされているの。」
その名前をとって、ロガン遺跡群などと呼ばれているらしい。特徴的な文様が多く見つかっており、その影響力の大きさがうかがえる。
ネメルは棒を持って、ロガンの文様を地面に描く。
斜めに置いたひし形の中に丸、そしてひし形の斜辺には辺を向かい合わせて少し離してある3角がそれぞれ置かれていた。
(ファンタズム・ゼノクロスの「スピリット」マークみたいだな。)
それは偶然か、それとも必然か。
「それで、だ。そいつはルル坊が見つけてきたアグロギアから作ったものだ。」
クーネアが試験的に作ったものにも関わらず、どうしてその名前を知っているのか。
ロガン遺跡群の名を知らないにも関わらず、遺跡の統治者の名前と、ゴーレムの起動部、つまり心臓から取得したものということで命名されたそれを知っていたのは何故か。
グウェイの眼は、利緒を責めるように睨んでいた。
「ちっ、まあいい。ネメル、遊ぶなよ。そいつは面白い特性を持っているんだ。」
「遊びませんよ、まったく……。で、どんな特性なんですか?」
ネメルは眺めるのを止めて、グウェイに首飾りを返した。
「そいつは……ちょいと待て。」
グウェイは、何かに気づいたように立ち上がり、訓練場の入り口の方へ歩いていく。利緒とネメルもそちらを向く。
グウェイが入り口の側に付いた頃、ガン、と大きな音を立てて扉が開いた。
「ディスティマン先生いる!?私の成果、勝手に持ってっちゃったの!!」
息を切らしながら、大声で叫ぶクーネア。どうやら、グウェイのそれは、無許可で持ち出されたものらしい。
「おう、ちょうどいいや。奴らに説明してやってくれ。」
カッカ、と笑いながら、クーネアを部屋の中へと招き入れるグウェイに、クーネアはどう怒っていいものか対応に困っているようだ。頭にハテナを浮かべながら、利緒の元へと連れられて、座る。
「この「ロガンの心臓」な、お前、昨日の夜に命名したはずだろ。カンナリオが名前知ってたぜ。」
へぇー、と言いながら、クーネアは隣に座る利緒の顔、眼を見つめる。
「……なんで?」
純粋に疑問だったのだろう、片目はモノクル越しに、澄んだ眼で利緒を見るクーネア。
本当のことを言えるわけでもなく、利緒はバツが悪そうに頬をかいた。
◇
「コホン。さて、この「ロガンの心臓」は、魔法を使うために作った魔導具です。」
グウェイに何を無駄だと悟ったのだろう、クーネアはひとまず怒りを横に置いて《ロガンの心臓》についての解説を始めた。時々、専門的な説明が入り、利緒には理解が追いつかない部分もあったが、おおよそでその特性を飲み込むことができた。
《ロガンの心臓》は、通常、4色の宝石、正確にはアグロギアを構成する4つの制御コアが、持ち主の魔力を吸収する。そして有事に、その機能を解除する事で、貯められた魔力を瞬間的に解放し、魔法式に流れ込み威力を増加させるそうだ。
クーネアの当初想定では、魔法を使えない一般人でも、ほんの少しずつの魔法を蓄積していくことで魔法が発動できる、という開発思想だった。
それを、利緒が使うとなると話が変わる。
どれだけ吸収されても10分単位で回復するのであれば、蓄積し放題である。残念ながら容量的な問題で魔力値900、利緒にとっての3単位強までしか貯められないが、対面してから、コスト3までの魔法を即使えるというのは利緒の戦術の幅を広げる。
過去、魔力を蓄積するアイテム、というのはいくつか発明されてきたが、魔法使い以外でも使える魔導具は無かった。
そのおかげでクーネアは退園の危機に瀕したが、今は昔である。
ちなみに、アグロギアは1つ数百万で取引されるらしく、文字通りお宝だった。
それだけで莫大な研究費を賄うのは難しいが、分解して中のパーツを使おう、というのは中々正気でできることではないとのことだ。この話を聞いた時、ネメルが本気で驚いていたのが、利緒の印象に残った。
「で、だ。これカンナリオにやっていいよな。」
グウェイが爆弾をぶち撒けた。クーネアにとって《ロガンの心臓》は、命をかけて得た重要な研究結果であった。
金は出すぜ、とグウェイは顔のシワを深くしてニヤリと笑う。実際のところ、グウェイならアグロギアを数十個買っても余裕である。
「ルル坊は結果が出せれば良かった。そして、こいつはその結果を証明した。ならこいつは売って次の研究資金に変えた方がいいんじゃねぇのか?」
確かに研究の成果を実証することはできた。何よりも、それを認めたのが目の前にいるグウェイである。
しばらくの間、クーネアとグウェイは睨み合いを続けていた。
「リオの物になるなら、まあ仕方ないか……。」
利緒もネメルも口を挟むことができず、数分が経ったころ、とうとうクーネアが折れた。
ため息をつきながら、首飾りをグウェイへと手渡した。
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