『碧の章』第1話:出会いは、暗い石部屋の中
「さて、ここはどこだろう。」
薄暗い部屋の中で、環奈利緒は目を覚ました。
天井は、岩で出来ており一面の灰色に冷たい印象を受けた。天井近くにある格子から差し込む光がなければ部屋の中はどれほど暗かったことだろうか。床も随分と硬かったが、幸い身体に異常は無く、石の上に直接眠っていたにしては気分は悪いものでは無かった。
ここはどこか、と呟いたのは頭が現実に追いついていなかったからだ。
昨日ベットで眠った記憶がある。
その状態から、どうすれば石に囲まれた部屋で目を覚ますことができるのか。ゲームで見たことがあるような、無機質な灰色は、現実味がなく起き上がる際に感じた床の冷たささえ、夢のようだった。
寝間着が、厚手であること、靴下を履いていることは不幸中の幸いだった。
「いやまじで、ここなんなんだ?」
利緒が確認したところ、一辺6畳くらい、天井まで350cm程の部屋のようだった。
扉はなく、部屋を出る手段は、4辺にある光の差込口である格子なのだが、利緒がどれだけ飛び上がって見ても手が届ない。仮に届いたとしても、格子をどうすればよいかが浮かばないのだけれどその絶望にたどり着く希望すらなかった。
周囲の壁を叩いて反響音を聞こうとしたり、ずらせる石がないか色々と探って見たが、ここを出て行く目処はたたず、ただ途方にくれるばかりだ。
「もう一度眠ったら、ベットで目覚めるだろうか?」
一通り調べて見て、何も見つけることのできなかった利緒は、石以外何もない床に寝転び夢の世界へ飛び込むべく、目を瞑った。
◇
「身体中が痛い」
幸い、夢の世界にはすぐにたどり着けた利緒だったが現実は非情であり、石の上に眠ったことで節々が固まり凝り固まったという結果だけを残して目が覚めた利緒は相変わらず石室の中に閉じ込められたままだった。
着の身着のままの自分に持ち物はない。
例えば、これが制服なら携帯電話がポケットに入っていたり例えば、カバンがあればゲームがあって時間を潰せたりしただろう。
それがよいことかは別として、この冷たい世界、それなりに広い部屋ではあるけれど、に押しつぶされそうな気持ちを誤魔化せたかもしれないのに。
もっと言えば、外への連絡ができたかもしれない。かも、ではあるけれど。
しかし、今の利緒は何も持っていなかった。
◇
「そういえば、今は何時なんだ」
体操座りをしながらしていた天然のあみだくじにも飽きた頃、ふと気づいた。床に射す光が、一定の位置から変わらず、部屋に入り続けていることに。
「太陽だとして、これだけ光量、光源が変わらないってあり得る?」
明るさ的に、ありえないとは思うのだけれど、と前置いて自分の考えを口に出す。
「松明のような明かり?」
それが、こんな長時間持つのだろうか。
「蛍光灯みたいに、一定の明るさで、持続的に…」
思考の海に沈み始めてしまったあたりで、カツン、と音が聞こえた。
「…カツン?」
ハッと、上を向く。
どこの格子窓からかは分からないが、確かに、石に何か硬いものが当たったような音が聞こえた。初めは、気のせいかと思ったが、次第に音が近づいてくる。
「…誰か、誰かいる!?誰かいるか!?」
慌てて、音が聞こえたと思わしき窓に向かって叫んだ。この声が届いたからか分からないが、音は、こちらに向かってくるように次第に大きくなっていった。誰か、誰かと叫ぶ様はある種異様ではあったけれど、その声にはきちんと効果があった。
ガリガリガリ、と音を立てて鉄格子が外される。興奮して上を見る利緒と、覗き込む誰かの視線があった。
これが、利緒と後に賢鬼と呼ばれる、クーネア・ル・ルナフィアの初めての出会いだった。
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