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エルフさんは日本語がわかりません ~副音声日本語吹き替え2か国語放送版~  作者: 猫長明


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1/3

エルフさん、京言葉を通訳する

「その時計、かっこいいですね!」


 上品な彼女の笑顔にケイジも自然と笑顔になる。

 なによりその時計は、彼が保育士になるにあたって

 両親がプレゼントしてくれた思い出の品だ。


「あぁ、そうなんだ。この時計は……」


 と、彼がそのエピソードを語ろうとした刹那。


「すみません! もうすぐ夕方ですもんね!

 ほらケイジさん! そろそろ行きましょう!

 折角の京都ですし、私、清水寺が見たいです!」

「あ、ちょ、エルフさん……ああもう!

 ごめんなさい、これ、俺の連絡先です!

 また今度落ち着いて時間を取ってお話しましょう!」


 居候のエルフに手を引かれ、

 無理矢理会話を打ち切られてしまうケイジ。

 折角職場の同僚が紹介してくれた京都美人で、

 ここまで会話もとても楽しく進んでいたのに……


「まったく。どうして邪魔してくれるんですか」

「ケイジさんが人の話を聞かないからです。

 あの方、ケイジさんのこと嫌ってましたよ。

 なのにケイジさんったら押し押しで……

 確かに女性を口説く際にはそういう覚悟が必要だと

 以前森に来た勇者様が仰っていましたが、

 私はそういうの好きじゃありません」

「は?」


 一瞬、エルフが発した言葉の意味が理解できなかった。

 いや、意味はわかるのだが、理解を拒絶した。

 彼女とはずっと楽しくコミュニケーションが

 取れていたように感じていたのだが……まさか。


「……あの子、なんて言ってた?」


 冷や汗の寒さを感じつつ問いかける。

 異世界からこの日本に転移してきたこのエルフは、

 日本語がわからない。


 それでも普通に会話が出来ているのは、

 転生者特有の基礎的なチート能力、

 言語自動翻訳の恩恵だ。


 しかし、このエルフの言語翻訳は、

 最先端のAI翻訳を遥かに上回る奇跡を示す。

 言葉をそのまま辞書で翻訳する

 通常の翻訳とは異なり、このエルフの翻訳は……


「先程からのあなたの

 話がとても楽しいです(声が大きすぎます)

「うっ!?」


「隣のテーブルの家族連れの子も、

 とても元気でしょ?(うるさいでしょ?)

「うっ!?!?」


「それにしてもほんと、

 よく食べる方ですね(食べ過ぎですよ)

「うっ!?!?!?」


「その浴衣も

 京都の街によくあって(京都の街で浮いていて)

 よく似合ってますよ(全然似合ってないです)

「うっ!?!?!?!?」


その時計(いい加減に)かっこい(私帰りた)……」

「ストップ! ストォォップ!」


 エルフの翻訳は、言葉の真の意味を理解する。

 もはやある意味でそれは翻訳スキルではなく、

 読心スキルと言えるものであった。


「噂には聞いていたけど、

 京都の子って、そんな嫌味を言うんだね……」

「嫌味じゃないですよ。

 人目があるところでそんなこと直接言ったら

 ケイジさんに恥をかかせてしまうじゃないですか。

 だからどうにか気付いてもらえるように

 言葉を選んでいたのにケイジさんは

 あの方の言葉がまるでわからないみたいで……」


 これは典型的な京都の方への誤解。

 彼らは嫌味からではなく、

 相手の対面を考えて婉曲表現をする。

 それがまるで伝わらないことから、

 後で真意を伝えられた人が感情的になって

 あれはすべて嫌味だったと受け取るだけだ。


「はぁ……折角紹介してもらったのに、

 この調子じゃ次はないんだろうなぁ……」


 新たな出会いが失敗に終わり肩を落とすケイジ。

 今年からついにアラサーになる彼は

 どうにか結婚を前提としたお付き合いができる

 女性を探すべく焦っている中だった。


「そう気を落とさないでください。

 ケイジさんには私がいるじゃないですか」

「…………」


 が、そんなケイジに真顔で言うエルフ。

 ケイジは目を細くして、気持ち小声で言葉を返す。


「……じゃぁエルフさんが俺と付き合ってくれよ」


 それは彼が必死で紡いだ一言。

 だが決して焦りから出た言葉ではなく、

 しっかりとそのエルフを思っての

 プロポーズであるのだが。


「嫌です」


 玉砕。16日振り、29回目。


「だって私、ひとり取り残されたまま

 残りの1万年を寂しく過ごしたくないので。

 ケイジさんがこれを食べてくれたら考えます」


 そう言って袖の下から鮭とばにしか見えない

 乾物を取り出すエルフ。

 しかしケイジはそれが鮭ではなく人魚の肉で

 一口かじれば最後、現代の八百比丘尼に

 なってしまうことを知っていた。


「……流石に、それはちょっと」

「なら早く良い方を見つけてください。

 もしくは、不老不死の道を歩む覚悟を決めてください」


 異世界転生者の基本セット2つのうちの1つ、

 即座に魅力的な異性と出会える能力をもって

 このエルフが出会ったケイジは、

 多少鈍いところはあるし、稼ぎも決して多くないが

 世間的に言えばイケメン寄りの見た目だし、

 女性にも優しい優良物件ではあった。


 実際、2人が相互に感じる好感度は十分な高さである。

 しかし、数多の創作で不幸な展開が示唆される

 不老不死を軽々しく選択できない恐れが

 ゴール直前の最後の一歩を躊躇わせていた。


「まぁその話は今はいいです。

 それより京都ですよ! 京都!

 街全体から魔力を感じますし、私、京都好きです!

 なにより、こんなに新しいハイカラな街ですから!」

「ハイカラ……ねぇ……」


 ハイカラは2026年の現在、間違いなく死語である。

 しかしこのエルフに死語という概念はない。

 理由は2つ。1つは彼女が不老不死であるから。

 そしてもう1つは……


「ほら、行きましょう!」


 彼女には、日本語がわからないからだ。


挿絵(By みてみん)




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




 主人公、阿部啓二(あべけいじ)、24歳。

 西東京の保育園で保育士を務める

 一人暮らしの気さくな青年だ。


 ひょんなことから彼のアパートで

 同棲することになったエルフ、2098歳。

 本名は日本語では発音できない。

 一通りの魔法の覚えはあるが、

 魔力濃度の薄い現代では使用できない。

 なお彼女が転移してきた異世界は

 公転周期が96時間である。


 この物語は、異世界から転移してきたエルフが

 言語の違いに苦労しながらSNS全盛の現代日本で

 ごくごく普通に暮らすだけの逆スローライフである。


「あ。おはようございますぅ……

 すみません、カップ麺いただいちゃいましたぁ……」

「うん。カップ麺はいいんだ。

 だけど、もうちょいまともな服着てくれない?

 ちゃんと君用の買ったよね?」


挿絵(By みてみん)


「エルフちゃんごめんなさい! こっち手伝って!」

「エルフのねーちゃん! あそぼーぜ!」

「エルフさんしりとりしよー!」

「あああ! 同時に話しかけないでくださーい!!」


挿絵(By みてみん)


「え? 新聞なんて契約しちゃったの? なんで?」

「はい。1ヶ月だけ取って解約するとお米が貰えて

 歩合制のバイトさんの業績にもなり、

 全員が得すると私わかっちゃったんですよ~。

 実質お米10キロ3400円。お得でしょ?」

「……確かに?」


挿絵(By みてみん)


「……エルフさん、さっきから何してるの?」

「レスバです」

「レスバかぁ……」


挿絵(By みてみん)


「にゃうにゃう? にゃーにゃう!」

「にゃぁ!」

(かわいい……)


挿絵(By みてみん)


「ただい……って、誰ぇ!?」

「あぁ、こちらケイジさんの留守中に来てくださった

 この世界のシスター様です!

 良い機会なのでこの世界の女神様の

 信仰について詳しく教えて貰おうと思ったんですが、

 それとは関係なく仲良くなっちゃいました!」

「あ、ど、どうも……」

(この人、宗教勧誘を返り討ちにしている……!)


挿絵(By みてみん)


「おめがこっためごぇよめうぢにづれでくるなでなぁ」

「もうばっちゃっわまだよめざじゃねよ!」

「相変わらずばあちゃんの言葉わかんねぇ……」


挿絵(By みてみん)


「何故マイちゃんはみんなと遠足に行けないんですか?」

「……マイちゃんのうちは月の半分しかうちの保育園に

 預けられてないから……行政が決めた規定で……」

「私日本語わかりません!」


挿絵(By みてみん)


 がんばれエルフさん! がんばれ!

 日本語は米国務省の外交官養成局(FSI)が定義する

 習得言語難易度で最上級のカテゴリー5の

 さらに上に当たるカテゴリー5*!

 世界で一番難しい言語らしいぞ!

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