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59.守る殴る治す、三拍子揃えた蛮族


 ──神の加護と祈りによって身を守り、戦場を駆けて敵を討つ。


 なるほど、それもまた神官戦士としての一つの形ではなかろうか。




 ウォーハンマー〔大地讃頌〕を購入した後、戦闘スタイルの修正が必要になった私の頭に浮かんだのはそのような考えであった。


 盾で守りを固めて回復力で押す、今までの戦い方だって良いものではあった。

 強みを押し付けて相手を磨り潰すのは戦いの常道だ。

 だが、固執するべきものではない。

 新たな一歩を恐れるべきではないのだ。


 ……同じことを続けていては、思考の固定化を招いてしまうしね。

 ここらで一つ、守破離の破の段階へと進むとしよう。




 方針を決めたのであれば、後は行動あるのみ。

 武器の他に足りぬ物を用意し、さらにシャンボールに頼んだ防具が出来るまでの時間でスキルの調整も済ませておこう。

 CP(コロッセオポイント)で交換可能な品の中にうってつけのアクセサリがあった。何のためにあるのかと思っていたが、こういうコンセプトのプレイヤーに対応していたのか。

 レベルが75を超えたことで解放された最後のスキル枠にも忘れないでセットする。


「良い具合だねえ」


 瞬間的な火力では以前に劣るだろうが、継戦能力や持久力の点では上回っているだろう。悲しいかな、コロッセオではそこまで重視されていない部分になってくるが。

 とは言え、攻撃を身体で受け止めてガンガン回復しながら前進してきて最後には殴り倒されるのは、相手にしてみればプレッシャーなはずだ。

 私の気質的にも合っている戦い方に思える。


「楽しみだ」







 ♦️







 ──キャソックに身を包み、ウォーハンマーを手にしてコロッセオに立つ。




 シャンボールがアレンジを加えたキャソックはダメージ加工が施され、一見すると襤褸(ぼろ)のようであった。端はほつれ、所々が破れ、全体的に煤けている。

 完成品を受け取って身に着けた自分を見た時、脳に瞳を得ていそうだと思ったものだ。胡散臭いよりも近寄りがたい。そんな感じだ。


 ただ、機能面についてはこちらの要望通りである。着たままでも動きやすくなっており、また、MNDの補正が高く設定されていることで他の装備とのシナジーが生まれた。



 そのシナジーが生まれた装備が、新たに購入したアクセサリである〔バルタジールの悔恨〕だ。

 MNDの値に応じてダメージ減衰が働くネックレスで、あまりコロッセオ勢には浸透していない装備品だ。


 まあ、それは分からないでもない。

 コロッセオは一対一の戦いであるため、パーティに一人は欲しいヒーラーが基本的に存在しない。居場所が無いのだから当然だ。

 もちろん、全くいないわけではないのだが、回復役を担う必要性が薄い以上コロッセオに居着かないのだ。

 MNDを参照する装備でありながら、MNDを重視するプレイヤーが少なければ注目を集めることは出来ない。ダメージ減衰という優秀な効果を持っていても、コロッセオプレイヤーでは活かしきれないために日の目を浴びていなかった。


 それから一つ、〔バルタジールの悔恨〕には弱点があった。

 盾と干渉するのだ。

 重ねがけで防御を固められないように、という運営の考えがあったのだろう。だが、お陰で耐久型のプレイヤーからも無視される品となってしまっていた。

 産廃ではないが優先されない。そんな微妙な立ち位置だったのだ。


 しかし、今の私にとってはかなり有用な装備である。

 アクセサリであるため手が空くし、盾がないから干渉もしない。ダメージ減衰で持久力が上がり、MNDを上げているためその効果も保証されている。

 これを思い付いた時には快哉を叫んだものだ。






 〔大地讃頌〕を低く構え、腰を落とす。

 身長ほどもある戦槌の柄を両手で握り、確と相手を見据えれば、バチリと視線がぶつかり合うのが感じられた。

 対峙している弓使いもまた、こちらのことをじっくりと観察している。


 初顔の相手だ。ポプルスと言うらしい。

 見かけた記憶もないため、最近コロッセオに出てくるようになったプレイヤーのようである。

 このところ、いくつかの街でプレイヤーの流入が激しくなっていると聞いた。舞踏会イベントがきっかけだとオクタウィ臼は話していたが、おそらくその口の一人だろう。


 ポプルスは、これと言って特徴の無い男だ。

 強いて挙げるなら少々派手なイヤリングだが、似合わない装備を性能優先で身に付けるのはゲームあるあるだろう。

 イケメンに出来るところをわざと地味にしている辺りは特徴と言っても良いかもしれないが、そこはプリセットから設定した私が言えた義理ではないね。

 ただ、どことなく違和感があった。

 それは曖昧な感覚でしかない。しかし、信じるに値するものだ。



 一つ、プランに付け足しをすることにした。

 直感を信じて、安全策を講じる。







 ──銅鑼が打ち鳴らされた瞬間、その場には二人の声が響いた。




「【慈愛の腕(彼方よりの抱擁)】」

「【クイックキャスト・エクスキューショナー】」


 違和感は正しかった。

 あの男、弓使いではない。魔法使いだ!


 スキルによって詠唱が加速されたことで素早く魔法が展開される。

 こちらが間合いに収める前に、魔法が飛んでくる!


「<バーニングスピア>」


 矢を飛ばせとツッコミを入れる間もなく、炎の槍が放たれた。連続投射を可能にするスキルがあるのだろう。二本、三本と叩き込まれる。


 そしてそれらは、私に当たって弾けて炎をまき散らした。


「何!?」


 炎の槍を受けても止まることのなかった私を見て、ポプルスは驚きの声を上げる。


 信仰系のスキルである【慈愛の腕(彼方よりの抱擁)】は、不可視の力場によって魔法攻撃のダメージをカットする。

 弓を持っていながら矢筒を持たないポプルスに感じた違和。これに従ったことが功を奏した。



 【信仰の途】による回復と釣り合うまでにダメージは抑えられ、私の歩みは止まらない。

 一息に間合いを詰めて、ポプルスを〔大地讃頌〕が届く範囲に捉えた。


「くっ、フレイ……」


 いや、魔法よりも先に戦槌が届く。

 腰の辺りを抉るように強打した。


「……ああ、しまったねえ」



 叩きつけた戦槌の勢いそのままに、ポプルスが吹き飛んで行って距離がとられる。

 彼はわざと飛ばれたのだ。誤算である。



「<フレイムウォール・オブストラクション>」



 転がりながらポプルスは魔法を発動。分断するように炎の壁が展開される。


 強引に抜けてしまおう。そう思い突進する。


「ぅぐっ……!」


 弾かれた。

 炎の壁は熱だけでなく実体までも持ち合わせていたのだ。

 【慈愛の腕(彼方よりの抱擁)】は魔法ダメージの軽減であって打ち消し効果ではない。


 舌打ち一つ。

 炎の壁を迂回する。力任せに打ち破るよりこちらの方が早い、そう判断した。

 だがそれは向こうも承知のこと。


「<バーニングスピア>!」


 壁際から出てくる瞬間を狙われた。

 しかしこれは無視できる。今この瞬間、その魔法に効果は無い。

 ニヤリと唇の端を歪めてそのまま駆けようとした。


「だがこれはァ! <フレイムスフィア・バーンバインド>!!!」


 弾けた炎が消え失せない(・・・・・・)

 渦を巻きながら、私を取り込むように球体を形作る。動きを止められ、全身を炎に包まれた。

 燃焼ダメージによって徐々にHPが減り始める。


「くっ、効果が薄いな」


 ポプルスはさらに魔法を追加しようと詠唱に移った。


 そうはさせない。


「【パワーストライク】!」

「何っ!?」


 強引にスキルを起動。

 STR任せに炎の檻を叩き壊した。


 驚いた隙に間合いを詰める。

 次は逃がさない。確実な一撃を叩き込む。

 戦槌を握る手に力が籠る。


「【衝撃(インパクト・)侵入(イントルージョン)】、【貫通(ディストーション・)歪杭(パイル)】、【スイングダウン】!」


 多重に起動させたスキルが唸りを上げる。〔大地讃頌〕がオーラを纏ったように、周囲の空気が揺らめいた。


 高く掲げてからの振り下ろし。

 脳天を叩き割ろうとした一打を、ポプルスは腕を犠牲にして逃れようとした。

 両手で頭を庇ったことで、肩口へと戦槌が逸れる。


 しかし、足りない。

 その程度で永らえることなど出来はしない。


 メキメキと、骨を砕く手応えがあった。


 その感触を、〔大地讃頌〕は余すところなく伝えてくる。肉を潰して、人体を破壊する瞬間の感覚が、柄を通ってしっかりと私のもとにやって来た。





 ポリゴンとなって散っていくポプルスをよそに、私はメイスと異なる重さに震えていた。



 背筋の冷える、胃をキュッと掴まれたかのような苦しさを覚えていた。

 メイスがおもちゃのようだ。いやさ、真実おもちゃだったのだろう。再現性、あるいは実感という点において、あれらは玩具と相違なかった。


 〔大地讃頌〕が異なる理由は何だろうか。

 武器としての種類? 入手の経緯? 何か特別な曰くが存在する?

 単純に相性の問題かもしれないね。

 だがどうでも良い。

 どうせ分からないことだろうから。




 問題は、これと今後も付き合っていけるかどうかだ。







 ゴクリと唾を呑んだ。


 気付けば、広場に戻されていた。








ご覧いただきありがとうございます。

評価、いいねをいただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします。


ゼンザイの予想の中に正解があります。



それから、現時点のステータスを載せておきます。

===================================

<名> ゼンザイ

<レベル> 83

<メイン職業> 浄罪官

<称号> 無罪放免


<ステータス>

⚫STR【245】(+49)

⚫INT【10】

⚫VIT【190】(+19)

⚫MND【185】(+28)

⚫RES【165】(+25)

⚫DEX【55】

⚫AGI【65】

⚫LUC【10】

⚫保有強化値【0】


<スキル>

⚫【衝撃侵入】    ⚫【九死一勝】

⚫【パワーストライク】⚫【信仰の途】

⚫【スイングダウン】 ⚫【フル・パワフル】

⚫【貫通歪杭】    ⚫【精神統一】

⚫【囁かれし祝福】  ⚫【免疫向上】

⚫【穢れ祓い】    ⚫【耐久強化】

⚫【餓えたる月夜】  ⚫【震幅増大】

⚫【慈愛の腕】


<刻印>

⚫【スパイクス・アーチン】


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