26.シナリオの先を見据えて
──ギーメル家の邸宅からコロッセオに戻ってから、2試合をこなした。
いや、少しは落ち着いても良いと思うのだが、どうしても気が昂ってしまっていてね。
身体を動かしたくなってしまった。ゲームだが。
今回のシフとの試合は私に有利だったから、次は対等な条件でも勝てるようにしたいと思ってしまったのだ。
シフとのPVPで得た反省を基に、動きとスキルの連携を調整した。
仕上げるにはもう何試合か必要だろうが、とりあえずはこんなものだろう。
新たなスキルの特性も大方把握した。
クセのある効果は使いこなすのに骨が折れそうである。だが、そういうのも嫌いではない。
むしろ、遣り甲斐を感じる。
まだサンプルが少ないが、レベル30を超えてからコロッセオで戦える住人の個性が強くなったように思えた。
普通に戦闘する上では無駄になるような遊びがあったのだ。
【錬金】系と思われるスキルを合わせてゴーレムを作成したり、撃ち出した水の塊が複雑な軌道を描いて飛んだり。
プレイヤーを相手にした時の感覚に近くなっている気がする。何をしてくるか、予想を立てられないあの感じだ。
これからも同様であるなら、コロッセオで勝ち上がっていくのは今まで以上に苦労しそうである。
楽しみだ。
知恵の限りを尽くすことが求められるね。
まあ、元からかなりプレイヤーに近い人間的な挙動が見られていたのだ。
今さら住人がより洗練されたからと言って、驚く必要は無いかもしれない。
それに悪いことばかりでは無い。
プレイヤーに近づいていると言うことは、通用する戦術が似てくるものだ。
傾向と対策がそっくりなら試験の用意は一度で済む。それと同じだ。
つまり、楽になる可能性もあった。
コロッセオ地下街で、すっかり馴染みになった店に入る。
『銀縁メガネ亭』。
先代である店主の父がトレードマークにしていたのだとか。
メニューが豊富、と言うよりも膨大で、制覇を目指して通い始めたが食べきれると思えなかった。それなりに頻繁に通っているはずなのに、まだ1割ほども注文出来ていない。
現実の料理をジャンル問わずにまとめてメニューにした上に、ゲーム内の食材や住人独自の調味料などがアレンジとして加わえられている。
和食に洋食に中華はもちろんのこと。中東、東南アジア、アフリカ系までと無節操なほどに手広く、さらにそこから創作までしているとなれば常連の住人ですらメニューを制覇した者はいない有り様だった。
結果として、メニュー表は事典のようになっており、初めて見た時は加減することの重要性が思い知らされた。選ぶのに時間がかかるし、見にくいのだ。
まあ、メニューが多すぎること以外は良い店である。
老舗のカフェのような落ち着いた装飾。
仄暗い店内には照明の炎の影が揺らめいていて、柔らかな明るさは眠気を誘ってくる。
ソファは手触りの良い生地でふかふかと座り心地が良い。
料理は美味しいのに、いつも不思議と席が空いているのも嬉しいポイントだ。
店主は元気だが煩くなく、愛想よくテキパキ働く看板娘が給仕をしてくれる。
穏やかな一時を過ごすために、ログインする度に一度は訪れていた。
席について注文をする。
「店主おすすめグリーンカレーオムライスと揚げた芋。それからマンゴーラッシーを。
ああ、持ってくるのは同時で頼むねえ」
「はい。いつもありがとうございます」
この店では、ポテトフライやフライドポテトではなく揚げた芋表記。何故だかは知らないが。拘りだろうか。
他の店にはないこの店ならではの要素である。
まあ、どうでも良いか。
料理を待ちながら、更新されたクエスト情報を確認していく。
そう。クエストが更新されていた。
『──ランキング戦の参加資格を獲得なさい』
アロイジアから明確な目標を与えられるのは初めてだ。
これまでは好き勝手に進めてきた。
恐らくは、報告と指示がセットになっていたところを無視していたからだ。私が報告を踏み倒していたから道筋が提示出来なかった。
これからは違うのだろう。
柵は面倒臭さと安心感を同時にもたらす。
自由気ままは暗中模索と表裏一体。
贅沢な話だが、思うがままとはいかないようだ。
「いやあ、参った参った」
天井の木目、それが描く迷路を目で辿りながら呟く。
やりたいことと乖離しているわけではないから、あまり文句を言っていてはいけないのだろうね。
ただ、性分としてガイドに逆らいたくなってしまうのだ。
リアルならそうでもないが、ゲームでは指示と真逆に動いてしまう。
へそ曲がりなのだろうね、私は。
料理が運ばれてきた。
猫舌とか気にせずに熱いものでも食べられるのは素晴らしい。
グリーンカレーの仄かな青臭さをスパイスとオムライスの卵がうまく隠してくれて美味しい。
この店は本当に外れがない。
辛さも丁度良い。喉を焼くほどではないが、口の中をヒリヒリとした痛みが暴れている。
しかしそれもラッシーを飲めば治まる。冷たい甘味が染み渡るようだ。
巧みなバランスだ。釣り合いがとれていなければ、くどさになってしまうだろう。
揚げた芋もいつものように美味しかった。外側はカリッと、中はホクホクに仕上げられたそれは、芋の素朴な味わいだけで十分に楽しめる。
一旦、考えていたことを脇に置いて料理を味わう。
存分に料理を堪能した後、紅茶を注文してゆったりとくつろぐ。
思考を切り替えて、ここからは情報収集タイムである。
クエストについては、ランキング戦参加を求められていること。レベルが50にならないと参加資格を得られないこと。何か試験のようなものがあることまでしか分からなかった。
それ以上は、アロイジアの友好度なりクエスト進行度なりを上げないと話してもらえないようなのだ。
どうせなら全部聞かせるか、逆に内緒にしておいてくれと思ってしまう。
掲示板を流し読みしながら、ワード検索をかけていく。
『ギーメル家』。『アロイジア』。『ランキング戦』。『レベル50』。『コロッセオ 試験』。『参加資格』。
──どれも該当なし。
単語のチョイスが悪かったのだろうか。
『シークレットクエスト』。『ライツィ』。『ライツィ・ハルバルティア』。『戦神の祝福』。『眩き怒り』。『央室』。『央室二十二家門』。
それから『エヘイエー』。
今度はいくつかヒットした。
ほとんどは無関係だろう。切り捨てて良さそうなものが大半だった。
まあ、秘匿されている情報もあるはずだ。
当てにならないと言うか、掲示板を当てにしてはいけないのが当然だ。
それでも気になる話はあった。
『央室は央城にあるわけではないらしい』
『ライツィと央室二十二家門は仲が悪い』
『エヘイエーと神殿に祭られる神は別物』
これらの書き込みは1つではなかった。
間違いである可能性も残るが、個人的には真実に近いと感じている。
なんせ私は、央室二十二家門であるギーメル家が、ライツィから戦神の不死の祝福を剥ぎ取ろうとしていることを知っていた。
ああ、なんともきな臭い。
下手につついたら、怪しげな暗殺者の集団でもけしかけられてしまいそうだ。
──ギーメル家に従いつつコロッセオでレベルを上げて、ライツィに勝つことを目標に鍛練しながらクエストに隠された企みを解決する。
いやはや大変だ。
身体も使えば頭も使う。
なんだかとんでもないことに首を突っ込んでしまった。
もしかしたら、全部深読みかもしれない。
真実だとしても、今なら知らぬ振りを通せるだろう。
だけどまあ、折角だ。
根掘り葉掘りほじくり回して、私が満足するまで付き合ってもらおう。
「プレイヤーは自分勝手なんだよ」
舗装された道は好ましくないが、遥かな目的地は愛おしい。
私の目的地が姿を現し始めていた。
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『銀縁メガネ亭』では、うどん・蕎麦・ラーメンの類いは食べられません。音が出るためメニューに入っていないのです。これは他のレストランでも同じです。
他のものなら大体食べられます。
ただ、あまりに匂いの強いものはやはり扱っていません。(例:ドリアン、くさやなど)




