25.勝つ要素と負ける要素は表裏一体
「簡単には負けないからな!」
シフの宣戦布告に苦笑いを返す。
一応、彼女も武器を新調してもらったらしいが、勝利を確信できていないようだ。
まあ、仕方がないか。
こちらは職業、スキル、装備と強化が多岐に渡る。ズルいと言われてもおかしくない。
泣き言を吐かずにこの啖呵が切れるだけ大したものだろうね。
右手に握ったメイスを一度素振りする。
〔メルゼッハの戦棍〕、良い重さだ。
ズシリと手にくる感触は心地好い。
これまで球形だった頭部はフランジタイプに変更されていた。ゲームなので叩きつけた際に変化はないが、現実ならば相手の鎧にフランジが食い込んで凶悪な破壊力を生むことだろう。まあ、ゲームだから飾りでしかないが。
サイズも変わり、今まで扱っていた物よりも一回り大きく、かつ拳1つ分ほど長くなった。
具体的には、先端から柄尻までが80センチ少々だ。片手剣と同じくらいか。
間合いも破壊力も以前とは段違いと言えた。
ただ、リーチが伸びた分扱いには気を使わなければ。
考えずにぶんぶん振り回していてはいけない。
このあたりは、クエストでの学びを活かしていきたいものである。
身に着けた〔ノイテヤラの薄片鎧〕も動きを阻害せずに素晴らしい。動けば薄片から音が鳴るかと思っていたが、その予想は良い意味で裏切られていた。
ノイテヤラという鍛治士が手掛けたラメラー・アーマーは、日の光を反射しないように加工が施されたくすんだ鈍色ながら、各部の装飾によって気品ある仕上がりとなっていた。差し色の金が高級感を引き立てる。
いくらになるかは恐ろしくて聞けていない。
頼りきりにならないと考えた直後に、資金力でぶん殴られてしまっている。
これに対抗する手段?
いやあ、まるで思いつかないね。
もう笑うしかない。
当分、財布は握られたままだろう。
ギーメル家の敷地内にある訓練場。
土が踏みしめられたその中央で、シフと向かい合う。
彼女は普段のパンクな格好に、レザーアーマーを合わせていた。革を主体に各所を金属で補強して黒く染められた鎧は、華奢なシフに似合わぬほどの厳つさを見せていた。
その不釣り合いさが可愛いのだと、以前彼女自身が語っていたが、私には遠い世界のようである。
おじさんなんて歳ではないと思うのだが、ファッションが分からないと言った時のシフの目は大分ショックだったよ。
私が盾を構えると、シフもまた武器を構えた。
艶やかな黒い長剣。
良い直剣だ。
細身だが、曇りなき剣身は歪みなく光を切り裂いている。シフにしては飾り気がないを選んだが、その分性能に優れていただろうことは簡単に想像できた。
「良い剣でしょ?」
「ハハハッ。まったくだ」
得意気な彼女の笑みは、普段の強気な態度とは違い随分と柔らかい。
それだけ気に入ったのか。
言えば怒るだろうが、まるで新しい玩具を見せびらかす子どものようだ。
コロッセオメニューから決闘を選択して、カウントダウンを開始させる。
あと15秒。
もう話すことはない。
ここからは、肉体言語だ。
──カウントが0になる。
シフは一直線に突っ込んできた。
そして、私はそれを待ち受ける。
攻め気を抑える。
西の村防衛クエストでそれを学んだ。
ワジリを相手にして、自分がいかに雑な攻撃をしていたかを理解した。
ワジリランデに攻撃して、自分の動きに無駄が多いことを痛感した。
そしてモンスターとの戦いを通して、やはりコロッセオで戦っている方が性に合っていることを確認した。
盾で防いで、メイスで叩く。
基本を見失っていた。
だが、今は違う。
「【ブレイズ・ストライク】!」
剣を包む炎に、目を見開く。
初めて見る、魔法以外の属性攻撃。
驚きながらも身体は滑らかに動き、振り下ろされる炎の剣に盾を合わせる。
「【スーパーガード】」
スキルを発動してなお、重い手応えに顔をしかめる。それでも剣を弾き、初撃は防いだ。
続け様に振るわれる剣を堅実に防いでいく。
炎は既に消えている。
踏み込みたい気持ちはある。
昨日までの私なら間合いを詰めていたかもしれない。
しかし、ここは堪える。
より確実な機を手にするために。
間合いを遠めに、大振りを誘う。
縦に横に自在に振られる剣が、容赦なく盾を叩く。
時折発せられるエフェクトは、何らかのスキルによるものだろう。纏わりつくような黒い靄が現れる。
パッシブのスキルだろうが、どんな効果があるのだろうか。
しかし、私のMNDかRESか、それとも別の何かが働いているのか。身体に触れた途端に靄が消えるために、効果は発揮されなかった。
これなら少し鬱陶しいだけだね。
「【フレイムスラッシュ】!」
再び、炎を纏った剣撃が放たれる。
さすがに盾だけでは防ぎきれずにダメージはもらうが、それでも受け止められていた。
押し合いになると、こちらのSTRが勝っている。
シフもそれを理解していて、押し切ろうとはしてこない。
ガツンガツンと盾を叩く衝撃が響く。
ただの攻撃ならきちんと防げばダメージにはならないが、中々に骨が折れると言うか、まあ負担だ。
【信仰の途】が、少しずつHPを回復してくれるために収支は釣り合っている。
後は根競べだ。
とは言え衝撃を堪えながら防御を続けるのは、忍耐を強いられた。
だが。
剣を振るった後の隙が、僅かずつ大きくなっていた。
シフの動きが、徐々にだが乱れてきている。
分かるよ。
いくらここがゲームで、身体は疲れないのだとしても、ずうっと同じことを続けるのは苦しい。
飽きもするし、集中も途切れる。
張りつめた緊張の糸だって、いずれは切れてしまう。
それは当然のことだ。
人として当たり前でごくごく普通なことだ。
だからそこを狙わせてもらう。
剣の鈍りを、勢いの陰りを、姿勢の崩れを、確かな隙を狩りに行く。
一際大きな音を立てて、袈裟懸けの一撃を弾き返した。直剣が描いた軌道をそっくり戻っていく。シフの上体が流れてよろめいた。
チャンス到来。
待ち望んだ一瞬だ。
決めに行こうとした瞬間、シフの瞳に笑みを見た。
弾かれたように盾を掲げる。思考は後。防御だ。防げ。防げ。攻撃を防げ!
「【ブレイズ・ストライク】【アフターバーナー】!」
「【スーパーガード】!」
スキルの重ねがけだと理解したのは、受け止めてからだった。
轟音と灼熱を撒き散らして、再度振り下ろされる致命の刃。
押し負けた。
盾が砕けると思うほどの衝撃にたたらを踏む。
否さ、スキルを差し込めていなければきっと砕かれていただろう。
「【フレイムスラッシュ】!」
追い込みがかけられる。
逃げの一手は打てない。AGIで負けている私は、逃げてしまったら立て直せない。
選択肢は2つ。
攻撃か、防御か。
──なんだ。
それなら、決まっている。
「【衝撃注入】」
身を投げ出すように、あるいは体当たりをするように。
構えた盾ごと剣の軌道に踏み込んでいく。
シフが目を見開くのが見える。
黒真珠のような瞳に、楽しげな私が映っていた。
衝突。
流し込まれた衝撃がシフの手首を壊し、炎が私の左上半身を焼く。
いくら回復系のパッシブスキルがあるとは言え、これはきつい。短時間でHPを削られ過ぎていた。
「【穢れ落とし】」
状態異常である火傷を治癒する。
【キュア】のままだと対象外だったため、地味ながら良い活躍だ。
ガラン、とシフの直剣が床に落ちる。
「くっ、【ファイアボール】!」
火の玉を放ちながら後退しようとするシフ。
その火の玉を身体で受けながら、間合いからは逃がさない。
瀕死の身体で、メイスを上に放り投げた。
「【罪滅星】」
対象から命を取り立てる一撃。
一定以上のダメージを相手から受けていることが条件だが、起動時に受けたダメージに応じて強制的に取り立てが発生する。
間合いは狭く、発動には武器を手放す必要があるものの、その効果は避けようがない。
私のHPはパラメータをVITにも振ってあるため、相応に多い。少なくともシフよりは間違いなく多い。
そんな私を散々に痛めつけたのだ。
その結果は実に分かりやすい形で出た。
《決闘に勝利しました。》
HPの全損。
対人では破格のスキルである。
「……はあ、焦ったあ」
罠に気付かなければ負けていた。
スキルが間に合わなくてもダメだった。
私の方がレベル高い上に装備を新調してもらって負けていたら、スポンサー打ち切りでもおかしくない。
危ないところだった。
「んだよ、気付きやがって」
決闘モードが解除されたことで、HPが回復したシフがぼやく。
恨めしげにこちらを睨みながら、次は勝つからなと口にした。
「ハハハッ。次も私が勝つよ」
今度は危なげなくね。
その一言は付け足さない。
まあ、ちょっとした意地みたいなものだよ。
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【罪滅星】は対人ならともかく、対モンスター、特にボス相手ではカスです。受けたダメージ以上の取り立ては出来ないので。
【フレイムスラッシュ】:炎を纏った斬撃。火傷を負わせることがある。
【ブレイズ・ストライク】:炎を纏った攻撃。爆発する。火傷を負わせることがある。
【アフターバーナー】:前進を補助するスキル。加速する。炎のようなエフェクトが出る。
【カースソード】:パッシブ。攻撃4回ごとに呪い判定。成功すると相手に呪い状態を付与する。MNDで対抗できる。




