15.ナンセンスな問い
「さてと、どうしよっかねえ」
さてさてここまで通算で20戦を終えての成績は、17勝3敗となった。勝ち数や勝率を見れば上々だろう。
ただ、最後の敗けは痛かった。
19戦目は良かったのだ。
前の試合から続けて盾での防御を主体にした堅実な攻めを実践出来ていた。
防いで殴る。その繰り返し。
途切れないように、逃げられないようにじわじわ追い詰める。
相手の剣士からしたら嫌で嫌でしょうがなかったことだろう。分かるよ。
やられたら嫌なことをやっているからね。
もう自画自賛したくなるほどに上手くはまった。
そのままのノリと流れで突入した20戦目。
これがまあ、ひどかった。その前が嘘のようにボコられた。
槍使いの住人に遠間からどつき回されたのだ。攻撃を必死に防ぐもこちらからの反撃は届かずジリ貧に。
間合いを制されたまま試合も制された。
それがつい先ほど。
負け試合を終えてコロッセオ地下街に来たのだが、そこで1件のメッセージが届いた。
『コロッセオランク昇格について』。
そんな表題で気にならないわけがない。
転移モニュメントの脇につっ立ったまま開封した。
ランク分けされていることを今知ったばかりなのだが、思い返せばそんな話をされたことや、私たちはまだまだ下っ端に過ぎないことなんかを言われたことがあったような気もする。
まあ、それは良い。あるならあるで。
問題は、いや特に問題でもないか。
気にするべきは昇格の条件。
一つ目、メッセージを受け取っていること。これはクリアしている。
二つ目、昇格戦に勝利すること。これをクリアしなければならない。
昇格戦に挑むこと自体は良い。戦うのは嫌いじゃない。
ただ、今このテンションではやる気にならないのだ。何せ、少し前にボロ負けしたばかりなのだから。
ううむ、と軽く唸りながらステータス欄を開く。
何か気付きがあるかもしれない。
まあ、簡単な解決策としては【キュア】を別のスキルと入れ換えることになる。なるのだが、ここまで来ると私も拘ってしまう。……意固地になっている自覚はある。
レベルが上がっていたためにパラメータを割り振っておく。
やはり突進系かステップ系が欲しいな。
そう思いながらスキル欄に目を通すと、嬉しい発見があった。
【インパクト】と【シールドバッシュ】の2つのスキル名が点滅していた。
進化が可能であるらしい。
いくつかの候補からこれだ、と思えるものを選択する。
隙間風が吹くような寒々した心持ちだったが、段々と気分が良くなってきたね。
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<名> ゼンザイ
<レベル> 14
<メイン職業> 闘士
<称号> エヘイエーの戦士
<ステータス>
⚫STR【65】(+7)
⚫INT【10】
⚫VIT【35】
⚫MND【35】(+4)
⚫RES【35】(+4)
⚫DEX【20】〔+4〕
⚫AGI【25】
⚫LUC【10】
⚫保有強化値【0】
<スキル>
⚫【インパクトボム】 ⚫【踏ん張り】
⚫【シールドスラム】 ⚫【祈り】
⚫【パワーガード】 ⚫【筋力強化】
⚫【ヒール】 ⚫【精神強化】
⚫【キュア】 ⚫【抵抗強化】
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【シールドスラム】については順当な強化と言うべきだろう。単純に威力が向上した。
スラムと言うくらいなのだから、どれ程のものか期待したい。
そして【インパクトボム】。こちらは威力の強化は低めな代わりに爆発属性が付いた。
それがどのような効果をもたらすのかまでは分からないが、きっと有用であるはずだ。
パッと思い付く限りでは、爆風で範囲攻撃を逸らしたり逆にまとめて攻撃を仕掛けたりする感じだろうか。
テンションが上がってきた。
ちょっともう、試してみたい気持ちがある。
昇格戦に行ってみようか……。
ウズウズとした気持ちを抑えられず、気づけば昇格戦への参加を決めていた。
♦️
昇格戦の会場は、見慣れた箱の中では無かった。
デビュー戦程ではないが観客席の付いた開けた場所だ。
私は石造りの舞台の上に立っていた。
歓声を一身に受けながら、対戦相手の様子を伺う。
泰然自若。
彫像のようにピクリとも動かない騎士甲冑は、しかしそれこそが余裕の証左であると辺りに重圧をばらまいていた。
唾を飲む。
一目見ただけで理解させられた。
格上だ。
威圧感に気を取られてすぐには分からなかったが、纏っている騎士甲冑は使い込まれていて飾りではなく戦装束であることを如実に表していた。
心が躍るのを感じていた。
心臓が跳ねる。跳ねて跳ねて痛いほどだ。
ああ、なんと。
なんと、楽しそうな相手であるか。
メイスをゆらゆらと揺らし、姿勢を低く保って開始の合図を待つ。
なるほど、これは力試しだ。
ならば全霊をもって当たり、今の私を試そうではないか。
なんて気張っていると、騎士甲冑が動き出した。
下ろされたバイザーの向こうから、こちらを見る視線を確かに感じた。
ガシャンと音を立てて取り出されるは巨大剣。
鈍色の輝きは、切れ味ではなく破壊力を知らしめてくる。叩き斬り、力で捩じ伏せる武器であった。
「戦士よ」
突然騎士が話し出したことに、それ以上にその甲高い声に驚きを隠せない。
まさか、子どもか?
威圧感に誤魔化されていたが、騎士の身長はそこまで高くない。170を少し上回るくらいの私よりも下だろう。
「戦士よ、何故戦う?」
やはり、子どもだ。
少年が無理に固い口調を作っているのかと思うと少し笑えてきた。バカにするつもりはないが、微笑ましいのだ。
「答えよ」
「そんなの考えたことも無かったよ」
いや、正確には真っ正直に考えたことが無い、か。
だってそうだろう。
これはゲームだ。
戦いたい、物を作りたい、釣りをしたい、歌いたい、お金を稼ぎたい、お洒落したい、速く走りたい、絵を描きたい、見たことのない物を見たい。
理由は何でも、ゲームがしたいからしていると言うのにそれを覚まさせようと質問をするとは。
「でもそいつは不粋だねえ」
鎧が黙り込む。
ムッとしているのは伝わってきた。
だが、それはこちらも同じ。
NPCにどんな事情や思惑があるか知らないが、楽しめないのはお断りだ。
「とっとと終わらせるよ」
──今、試合開始を告げる銅鑼の音が響く。
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カウンター特化、連撃、HPを削って高火力、スタン効果アップなどがスキル進化の選択肢になっていました。




