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Solomon's gate (試作_6回目失敗)  作者: にしてつ
第一章 森の中の死体
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ブリスコーの熱気

避難民達はルナンをわたり、明け方にブリスコー砦へたどり着いた。

 急峻な山に三方を囲まれたブリスコーは優れた自然の要塞だった。巨岩を削り出して複雑に組まれた分厚い城壁はまさに前線基地と呼ぶにふさわしい無骨な威容であった。櫓も屋根も飾り気のない風貌で、それはまに北方兵士の生き様を体現しいるかのようだった。

 城壁は二十フィート幅の深い堀に囲まれていた。跳ね上げ門はセコイアから削りだされた一枚造りの大板で、頑丈なだけでなく見た目にも猛々しく美しかった。

 すでに連絡が行っているのだろう、櫓の上の兵士が中へ急ぐよう手招きした。アイル達はすぐに従ったがエルフたちは門の前で立ち止まった。 そして長齢のエルフが叫んだ。

「兵士様方や、聞いてくだされ !!我々は領民ではないので砦に匿ってくれとは言いません。ただ我々が一時にでも隠れ住む森を提供してくだされば、後々必ずや恩に報いますことでしょう。厚かましいお願いとは存じますがどうぞ聞き届けてくださいまし」

櫓の兵は後ろを振り向き上役らしき人物と会話した後、言った。

「風貌よからぬ人間以外は砦に入れろと言われている!」

 老エルフは言った。「我々は領民ではなき故そこまでしてくださる義理はありませぬ。ただ一時の森を提供してくだされば…」

 櫓の中で何か会話があった。青い服を着たモノクルを掛けた役人が顔をのぞかせた。彼は兵士にうなずいた。

 兵士は大きな手振りをして大声で叫んだ。

「とにかく全員早く中に入れ!」

 アイルとアベルは互いに顔を見合わせた後、城門をくぐった。すぐ眼前は街の広場だった。

 ブリスコーは石組みの家が立ち並ぶ無骨な漢の街だった。山の斜面には、草むらから顔を出す石灰岩の露頭のように、たくさんの家がまばらに並んでいた。広場の中央には噴水があり、その回りを今到着したばかりの避難民たちが右往左往していた。

 役人らしき人物が大声で誰かに指示を出していた。町人が広場を取り巻き、遠くからこの雑踏を観察していた。

 城門の上から兵士たちが避難民を眺めていた。

 

 そのとき櫓の上から鐘の打ち鳴らされる大音響が響いた。そして櫓の兵士が大声で叫んだ。

「敵襲だ!!敵襲だ!!男は剣を取れ!!男は剣をとれ!!」

 分厚い銅が打ち鳴らされる重低音が何度も何度も繰り返し街に鳴り響いた。やがて「どけ!!」と大声で怒鳴る音が広場の奥で響いたかと思うと、百人を越える兵士たちが人々を突っ切り、門外へ向かって走り出した。そのすぐ後には正規兵ではない、おそらく冒険者であろう千差万別の派手な格好をした男女も、歓声を上げながら武器を掲げ兵士たちの跡に続いた。防具をつけていない町人らしき人々も、弓矢を抱えて城門の上に陣取った。

 この剣を持つ人々には、勝利への確信と煮え滾るような熱気があった。それがさらに人から人に伝染した。町人としか思えないような人々も、わずかな軽装で門外の戦いに加わろうと砦を飛び出した。中には歯をむいて笑っている人も沢山いた。アイルもこの熱気に当てられ、短剣の感触を確かめると門外へ向かって走り出した。

 門の外では戦闘が始まっていた。


 城門の左手、ラインベルクの上流側でオークと兵士たちが今まさに激突していた。北部連隊の刺繍を施されたマント纏った背中が見えた。彼らは砦まであと一歩のところで追い付かれたのだ。

 砦の兵達は土手を一気に駆け下り、あっという間に川伝いに道を上った。そしてオーク軍の横腹から一気に突撃した。

 魔力開放の高揚感と、そしてブリスコー軍の熱に当てられたアイルの感覚でも、彼らの熱狂的な突撃は異様だった。歯をむいて目を血走らせ、宗教的熱狂以上のなにかに突き動かされ散るも厭わすオークに突撃を繰り返した。短い時間にいくつもの剣戟が舞った。すぐにオークの前線は崩れだした。アイルはその隙間に突撃した。


 前線の中で派手なマントを棚引かせた集団が激しく戦いオーク達の死体の山を築いていた。彼らは冒険者達だった。

 今若い冒険者がオークの棍棒を横から打ち込まれよろめいた。膝をついた彼に巨大な棍棒が打ち込まれようとしていた。アイルはオークに突進し、その太い左腕に剣を突き立てた。

 オークは痛みにあえいぎ、乱暴にアイルを振り払った。アイルは吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。

 さらにアイルはやってきた別のオークに胸を踏みつけにされ地面に押さえつけられた。オークは鉈が振り上げ今アイルを真っ二つにしようとしていた。

 そこに剣士が割って入った。エルフの細剣がオークの兜の隙間を貫いた。オークは首から血を流しよろめいた。彼を助けたのはアベルだった。


 アイルは立ち上がった。彼は自分が戦線の先頭にいることに気づいた。しかし引く気は一切なかった。彼は高揚していた。


 いま一人のオークが一歩前に進み出た。彼は鬣を緑に染めた筋肉質な大きいオークだった。その手には血糊に染まったタルワールが握られていた。

 緑青だった。彼もアイルに気づいた。

 彼はアイルの剣を指差した後、空いた手で手招きし挑発した。

 アイルの血が沸騰した。彼は地を蹴って突撃した。

 そして地面を蹴り、曲刀の軌道を身を捩って交わすと、鎧ごと腹を突き破るべく右手の短剣を突き立てた。

 その剣先が鎧に触れる瞬間に気づいた。あれだけ我が身からほとばしっていた魔力の噴流が、雨樋を伝う僅かな水のように、細く小さくしか垂れていないことに。

 アイルは自分が魔力を失いかけていることに気づいた。

 魔力が切れるとどうなるのか。テオのように全身疲労を起こし、場合によっては気を失うのではないか。

 剣は軽々と分厚い鉄の鎧に弾かれた。

 オークは手甲で剣を振り払った。アイルの短剣が弾かれ宙を舞った。

 次の瞬間、緑青の持つ分厚い曲刀がアイルの土手っ腹を刺し貫いた。

 彼は真っ赤な血を吹いて地面に倒れた。血の海に溺れまったく呼吸ができなくなった。

 遠くでアベルが叫ぶ声が聞こえた。

 そしてアイルは意識を失った。

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