帰還
アマンダは森の下生えの中に倒れ込んだ。サンダル履きの彼女の足は鬱蒼とした森の下では無防備に過ぎた。彼女の両足は森の草葉に切り刻まれて真っ赤に染まっていた。彼女は膝を抱え込んだままうつむき声を震わせて慟哭した。男たちは何も言わずに彼女のそばに立っていた。
「今夜はここで一旦寝ることにしよう。もっとも火は起こせないがな……」ゲイルはそう言って荷を下ろして布を引き出した。それは昨日の夜テントの幌にした布だった。
ゲイルは下生えを踏み鳴らし、平らな地面を作ると、布を敷きアマンダに寝るよう合図した。そうしてアマンダが横になると、ゲイルはすぐとなりに身を横たえた。アマンダが驚き固まっていると、今度はアイルが隣に寝そべり、布にくるまるとアマンダを挟み込んだ。
「すまんが火を起こすわけにはいかねえんだ」ゲイルが言った。「体を冷やすのが一番だめだ。我慢してくれ」
アマンダは背後でゲイルがそういうのを聞いた。目の前にはアイルの細い鎖骨があった。襟首と胸の隙間から香る男の芳匂いがアマンダの鼻孔をついた。
アマンダ視線を上げてアイルの顔を見た。アイルは目を閉じ眠りに入ろうとしていた。
アマンダはそのまま下からアイルの顔を見つめた。長いまつげと髪の生え際の産毛が女性的で美しかった。彼の年ではうっすら生えているはずのひげもなく、濡れた唇に妖艶さを感じた。
突然アイルはアマンダを強く引き寄せ、頭の上にアゴを乗せて抱いた。汗と男性の匂いと体の熱に包まれて、アマンダは心臓を高ぶらせながら、それでもいつしか眠りへと落ちていった。
アマンダは目を覚ました。あまりに早いリズムで脈打つ心臓の鼓動を感じ、アイルの胸に埋めていた顔を離した。ああいるの首筋は汗で濡れており、開いた鼻の穴からかすかに匂う息の香りがした。彼はアマンダの頭を強奥抱きしめると、右足を臀部にからみつけ、腰を強く引き寄せた。
アイルの怒張した陰茎がアマンダの下腹部に押し付けられた。
アイルは腰全体を波打たせ激しく痙攣した。
「あぁ!」アイルは小さくうめき声を上げた。汗と吐息の匂いがアマンダを包んだ。
アイルはアマンダの額に唇を押し当てた。股間の膨らみから湿ったものが染み出しアマンダのスカートを汚した。
途端に布の隙間から強烈な男性の匂いが立ち上った。
いまやスカートと布はぐしょぐしょに濡れていた。
おもらし?いや違う。アマンダはその液体の正体に気づき羞恥と興奮で鼻の穴を膨らませた。
精液。ジャングルジュース。男性の子種。
アマンダが驚き固まっていると、アイルが眠りからようやく目覚めた。そして彼も自分のやったことに遅まきながら気づいた。
下腹部をネバネバの精液まみれに濡らして、アイルとアマンダは固まったまま見つめ合った。
「夢精したか」ゲイルは言った。
アイルは黙って布を畳んでいた。
「命のやり取りのあとはそうなる。戦のあとに男が猛るのはそれが理由だ」
既に精液は乾き固まり始めていた。アマンダの絹のスカートは白い糊のようなものに覆われゴワゴワと固まっていた。
アマンダは生乾きの部分を指でこすり取った。そして鼻に近づけて匂いを嗅んだ。
精液は乾燥した海産物の香りがした。
アマンダは後ろを向き舌先で精液を舐め取った。
それは苦味を含んだ塩辛い小麦の生地のような味がした。
「おぶさってください」突如声をかけられアマンダはびくりと肩を震わせた。アイルはかがんで手のひらを差し出していた。
アマンダはアイルの背中に身を預けた。
「しっかり掴まって」アイルがそう言うとアマンダはアイルの首元に強く腕を絡めた。そしてうなじに顔を沈めた。
アイル達はまた森を歩き出した。
やがて日は昇り昼になった。アイル達は一度水分補給のため渓流に出た。道にはオークが踏み抜いた多数の足跡が残り、二本の轍も穿たれていた。アイル達は再び森の中に戻り歩を進めた。
やがて陽が落ち森は再び夜の帳に閉ざされた。アイルたちは少し木々もまばらに開けた森へたどり着いた。そのまま少し小高い傾斜を昇り、スホルト村を見下ろす小高い丘の上に出た。
丘の上から覗くスホルト村は、橙色に光る松明の炎に取り囲まれていた。すでに先行したオークたちが村を取り囲んでいるのだ。
「裏口から入るぞ」ゲイルが言った。3人はごつごつした岩の突き出た乾いた渓流の底に降りると、蔦で覆われた大きな一枚岩の前に立った。ゲイルが岩の両端に手をかけて岩をずらすと、隠匿された洞窟が顕になった。穴の中はコウモリの瞳より黒かった。
3人は内側から扉を塞ぎ洞窟を進んだ。乾燥した洞窟はゆるい傾斜となって奥へ続いていた。やがて三人は行き止まりの壁にたどり着いた。
その天井から一条の光が漏れていた。ゲイルは天板の岩に手をかけゆっくりとずらした。穴から出るとそこは村の家一つだった。
三人は家から出て村の中庭に立った。村人の一人が気づいて三人に手を振った。
村は跳ね橋があげられ防御態勢が固められていた。要塞壁にかけられた渡り廊下から幾人もの弓使いが外を伺っていた。
広場の外周部にはぐるりと細い溝が掘られ、中には六芒の紋様が描かれていた。おそらく村長が引いた魔法陣だろう。
竜狩りのバリスタには極太の矢が番えられており、オークの軍勢と言えど用意には近づけなかった。
村の中央広場には村の大人たちと10人ほどの残存兵が火を囲み休息を取っていた。皆それぞれ傷つきぐったりとうなだれ疲労困憊していた。
「アマンダ様よくぞご無事で」ジーグラット隊長が進み出て膝を折って敬礼した。
アマンダはこくりと頷いた。そしてみなから離れると小声でなにか話し合っていた。
「盾と剣をよこしてくれ」ゲイルが兵に言った。「俺は昔北部連隊に所属していたんだ。剣は使える」
ゲイルは長剣を受け取ると感触を確かめるように何度か振り回した。そして盾を背負いながらアイルに言った。
「俺は防御に参加する。お前は村長に事の始末を報告しろ」
アイルはうなずくと、一番高くそびえる櫓まで行き、梯子を伝って上へ昇った。
村長は櫓の堅い床の上であぐらをかいて外を睨みつけていた。
「ただいま戻りました」アイル言った。
「ご苦労」村長は疲れた様子でうなずいた。
「ルーはどうしました」アイルは訊いた。
「ルーはブリスコーへ行ったきり帰ってこない」村長は言った。そして続けた。「ヤゴーは…」
「ヤゴーは死にました」アイルは短く答えた。
「うむ……」村長は沈痛な面持ちで地面を睨んだ。「ゲイルは?」
「ゲイルは守りに参加しています。女達はどうしましたか?」
「ほとんど西へ送ったが、二人残ってる。ネネとララだ」村長は杖に寄りかかりながら答えた。「お前たちが出てすぐにオークの襲撃があった……お前粥食ったか。腹一杯にして今日はもう休め」
アイルは地面に降りた。焚き火のそばへ行き丼いっぱいの粥をよそうと、ぼんやりと村の入り口を眺めながら飯をかき込んだ。眠気と疲労で頭がぼんやりしてきたので、自分の小屋に入り、藁敷に身を横たえると、すぐに眠りに落ちていった。
アイルは屋外の騒がしさに目覚めた。家から出て星を見ると眠りに落ちてからまだ一刻も経っていなかった。
皆塀に昇り物々しい様子で外を覗いていた。見るとゲイルが塀の渡り廊下の上から手招きしていた。アイルも塀の上から顔を出し外を覗いた。斧槍を立てて村を取り囲んでいた。




