#047「カケハシ」
@ドレッシングルーム
真理「修羅さんと帝釈さんとで、被害者の会を創設しようかしら。腕に痕が残ったら、どう責任を取ってくれるのって話よ」
不動『何をブツクサ言ってるんだ、川添。着方が分からないのか?』
真理「何でもありません」
――お湯を上ると、脱衣所前には不動さんが仁王立ちで待ち構えてて、そのまま腕をムンズと掴まれて、ここまで強制連行されたの。それから『タダ飯を食わせる訳にはいかないというスタンスは、前と変わらない。扱き使ってやるから、キビキビ働け』と言われて、紙袋を押しつけられて、着替えるように命じられて、今に至るってわけ。
真理「素直に『一緒に働こう』って言えないのかしらね。そんなところも好きなんだけど」
不動『いつまで着替えてるんだ。サイズが合ってないのか?』
真理「もうちょっとですから」
――紙袋の中身は、憧れのメイド服。清楚なクラシックスタイルで、デザインと機能性を兼ね備えた、エレガントな一品。全体的にフリルは控えめだけど、地味すぎず派手すぎない、絶妙なバランス。着方としては、黒いパフスリーブのワンピースの上に、肩紐がクロスしたタイプの白いエプロンを羽織るだけのシンプルなものなんだけど、前に後ろに、右に左に、ついつい、クルクルと見てチェックしたくなってしまうのよね。
真理「ヨシッ。全方位、完璧! ――着替え終わりましたよ、不動さん」
不動、カーテンを開ける。
不動「遅い! 着替え一つに何分掛ける気だ。待ちくたびれたぞ」
真理「お待たせしました。フフッ。そんなに楽しみだったんですね」
不動「アァ、そうだ。寸法直しが必要なら、すぐに弥勒に渡さなければならないからな」
真理「意地っ張りですね。それより、どうですか、わたしのスカート姿は? 感想を聞かせてくださいよ。そうだ。先に釘を刺しておきますけど、馬子にも衣装とは言わせませんからね。女性らしくて、可愛いと思いませんか?」
不動「そうだなぁ。スカートを穿くと、目の錯覚で、羚羊の脚が羚羊のような脚に見える」
真理「不動さん。いい加減、怒りますよ?」
不動「勘弁してくれ。いまの俺には、これが精一杯の賛辞だ」
――アラアラ。いつになったら素直に褒めてくれるのかしら。マァ、良いわ。女子社員として再雇用してもらえただけでも、大きな進歩よ。
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@スタッフルーム
大日「申し訳ありません。悪いとは思ったのですが、濡れたままにしておくのが忍びなかったものですから、検めさせていただきました」
真理「いいえ。むしろ、助かりました」
大日「そう言っていただけると、こちらも助かります。濡れた本は、新聞紙を挟み、上から重石をしてます。お洋服は洗濯していますので、乾いたら、お渡しします。その他の荷物は撥水性の優れた薄い袋に詰められていたので、袋から出して置いてあります。念のため、濡れたところがないか、中身が揃っているか、川添さんのほうでもお確かめください」
真理「わかりました。ご親切に、ありがとうございます。――ところで、その黄色い缶は何ですか?」
大日「ハァ。大変申し上げ難いのですが、スタッフルーム脇のお手洗いに置いておきますので、月決まりのお客様がお見えになった際に、お使いいただければと思いまして。痛みが酷い場合は、遠慮なく申し立ててくださいね。いかようにも柔軟に対処いたしますので」
真理「(アチャー。見られてたか。要らない心配を掛けて波風を立てないように、コッソリ行動してたんだけどなぁ。)お気遣い、ありがとうございます。正直な話、ちょっと辛い日もあったんですけど、言っても共感してもらえないかと思ったものですから」
大日「重石が乗っているようとか、雑巾絞りされてるようとか、錐で削られるようとか、例えは山ほどありますけど、実際に経験できない痛みですからね。決してワガママでは無いんだということは、三人にも言ってあったんですけど、嫌な思いをしませんでしたか? 包み隠さずに言ってください」
真理「細かいことを言えばキリがありませんし、同じことは起きないと思いますから、何も言いません。別に、我慢してるわけではありませんから、心配しないでください」
大日「わかりました。私も、これ以上は何も言わないでおきます。――いつの間にか、太陽が顔を出したようですね」
真理「本当。雨が止んだみたいね。――アッ! アレ」
真理、窓を開け、空を指差す。
大日「オヤオヤ。雨上がりの空に、綺麗に虹の橋が架かりましたね」
真理「何か良いことがありそうだと思いませんか?」
大日「そうですね。何かの吉兆かもしれません」




