#041「ダンジョ」
@鵲橋
賀茂「さて、川添氏。いましがた君から借りたヘアゴムは、そちらから見て、右と左のどちらにあるかね?」
賀茂、握った拳を見せる。
真理「右です。人差し指と中指に掛かってます」
賀茂「本当に、そうかな? よく見たまえ」
賀茂、パッと手を広げる。
真理「アラ?」
賀茂「ご覧。人差し指と中指に掛けたのは、小生のヘアゴムだよ。見た目に騙されてはいけない。クックック」
真理「変ね。グーにしてたときは、たしかに右にあったわ。それなのに、パーにした途端、薬指と小指に移動したのよ。騙したのは、そちらじゃない」
賀茂「オヤオヤ。マッ、他人の目を欺くのは、これくらいにしよう。お返しするよ」
賀茂、指からヘアゴムを二本とも抜き、真理に差し出す。
真理「わたしのヘアゴムは、黄色いほうだけよ。紫のほうは、賀茂さんのでしょう?」
賀茂、真理の右手を両手で包み、ヘアゴムを二本とも握らせる。
賀茂「いいから、持っておきたまえ、川添氏。それは君を魔の手から遠ざける、一種の呪具のようなものだ。大した霊験は無いが、御守代わりに身に帯びておくと良い」
――ワー、いかにも非科学的な胡散臭い話になってきたわ。でも、無事に還れる確率が、ほんの少しでも上がるなら、縋ってみて損は無いわね。不気味な薄ら笑みを湛えたの人形や、奇天烈な文様が描かれた壺を渡されないだけ、ずっとマシよ。
真理「それでは、ありがたく使わせていただきます」
真理、後ろ髪をまとめ、ポニーテールにする。
*
@三途の川、左岸
蛭子「何だい。常駐じゃなくて、臨時雇いだったのか。しばらく働くんじゃなかったのかい?」
大日「そのつもりだったのですけど、そのぉ」
蛭子「マァマァ、説明し難い事情があるんだろう。皆まで言わなくて良いさ。――ともかく、この文鎮みたいなのを、日が暮れちまう前に、鵲橋に居る嬢っちゃんに渡せばいいんだな?」
大日「ハイ。お使い立てするようで、大変心苦しいのですけれども」
蛭子「なぁに、水臭いことを言いなさんな。立ってるものは、親でも使えっていうだろう? こっちとしては、頼りにされて嬉しいくらいさ」
大日「何卒、よろしくお願いします」
蛭子「オゥ。合点承知の助、心得た」
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@鵲橋
賀茂「初歩的な手品だからね。まさしく、ハンドアーツというわけさ」
真理「どう頼んでも、種は教えてくださらないのね」
賀茂「意外と簡単なトリックだから、知恵を働かせてみたまえ。コロンブスの卵だよ」
真理「思い付くまでが、難しいところなのに」
蛭子「オーイ、そこの嬢っちゃん二人!」
――アラ、蛭子さんだわ。ん? 嬢っちゃん、二人?
賀茂「これはこれは、蛭子氏。どうも、ご無沙汰申し上げて」
蛭子「イヨォ。どうだい、手品師としての調子は?」
賀茂「鳴かず飛ばずだね。もっとも、豆助には鳴いたり飛んだりしてもらってるがね。クックック」
蛭子「ソイツは良いや。谷間に押し込んだままじゃ、窒息してしまうからな」
真理「あの、蛭子さん」
蛭子「やぁやぁ、嬢っちゃん。久し振りだね。実は、坊っちゃんから預かってるものがあるんだ。ホレ」
蛭子、真理にスマホを差し出す。
蛭子「何の道具なのか、アッシには皆目見当が付かないが、大事なものだろう? 忘れちゃいけないよ」
真理「ワッ。わざわざ、ありがとうございます」
真理、蛭子からスマホを受け取る。
蛭子「さてさて。渡すものは、渡したことだし。アッシは舟に戻るよ。ごめんなすって」
蛭子、足早に舟へと戻る。
賀茂「ヤレヤレ。最後の最後に、小生の秘密を明かされてしまったな」
真理「つかぬことをお伺いしますけど、賀茂さんの性別は?」
賀茂「君と同じだよ、川添氏。燕尾服で勤めているのを見たときは、小生のお仲間かと思ったものだが、どうやら違ったみたいだね。オッと。誤解しないで欲しいのだが、こういう格好をしているからといって、同性が好きな訳ではないよ。無論、そういう趣向を持ったヒトを否定するわけではなく、あくまで個人的な好みの話だと理解してくれたまえ。マァ、いずれは特定の異性に恋心をいだくのかもしれないが、いまのところは、奇術と豆助が恋人ってところだね。あぁ、そうそう。弥勒氏も、川添氏と同じように、小生について誤解したままなんだ。ついでだから、参考までに伝えておくよ」
――変わり者だと思っていたけど、ここまでとは思わなかったわ。決して、セクシャルマイノリティーに嫌悪感を持ってる訳では無いし、むしろ、多様性に理解があるつもりだったけど、なかなか奥が深いわね。
豆助になりたいと思った男子諸君。あとで反省文を出すように。フォーマットは、江口先生(=『相談室のシエロさん』の登場人物)に訊きなさい。




