#039「オムカエ」
@ビュッフェ
不動「要望に応えて牛肉で作ってやった。ありがたく思え」
修羅「付け合わせに人参があるんじゃ、嬉しさ半減だよ」
真理「甘く煮込んでありますから、土臭さは残ってませんよ」
弥勒「これは、紛れもなくホワイトアスパラガスですね」
大日「残さず食べましょうね、弥勒くん」
不動「ガロニを出さないでくれ、とは書いてなかったからな」
修羅「揚げ足取りだよ、そんなの」
――チーズと目玉焼きを乗せた、デミグラスソースのハンバーグステーキ。これが、常世での最後の晩餐ということになるのね。アッ。晩餐じゃなくて、昼餐か。
*
大日「正暦の頃、つまり十世紀の末、京の都では、若君や姫君が謎の失踪を遂げるという怪事件が多発していました」
弥勒「いかにも、世紀末って感じですね。世も末だ」
大日「事態を重く見た朝廷は、凶事の原因を安倍晴明に占わせました」
真理「陰陽師に頼るところが、平安時代らしいわね」
大日「占いの結果、京の都から北西の方角にある大江山の鬼の仕業であることが判明しました」
不動「丑寅の方角か。まさしく、鬼門だな。それで、牛のような角を生やし、虎の毛皮を纏った酒呑や茨木たちが出てくる訳だな?」
大日「そうです。そこで藤原道長は、勇名を馳せていた源頼光と、その四天王である渡辺綱、坂田金時、卜部季武、碓井貞光、そして藤原保昌の六人に退治を命じました」
修羅「桃が流れてきたり、キビ団子を配ったりしないんだな」
大日「柴刈りも洗濯もしませんし、行く先も鬼ヶ島でもありませんよ」
真理「そのあとは、たしか山伏に変装して酒宴に潜り込んで、お酒の毒が回って動けなくなった鬼の首を取るのよね?」
大日「その通りです。実は、途中で神様から授かったお酒は、神便鬼毒酒といって、神霊が飲むと力が増すのですが、幽鬼が飲むと毒に中って力を失うというものだったのです」
不動「酒を渡すくらいなら、その神様がやっつければいいところだし、退治に行った六人も、卑怯な騙まし討ちだし、どことなく胸がスッとしないんだよな」
大日「伝承というものは、不条理で非合理に満ちたものですよ。価値観というものは、時代によって移り変わっていくものですから、深く追及してはいけません」
賀茂「そうそう。過去ってものは、こんな時代があった、あんな時代があった、そんな時代もあったなぁと振り返ってシミジミするものだよ」
賀茂、テーブルの下から出てくる。
弥勒「ワッ。賀茂さん」
修羅「いつの間に、テーブルの下に隠れたんだ?」
賀茂「気配を消すのが、うまかろう? 早めに百貨店での営業が終わったから、もし、残り物があればご相伴に預かろうと思ったが、ソースしか残っていないじゃないか。焼き麩かパンの耳でも持ってくれば良かった」
不動「ひと足遅かったようだな、ハイエナいかさま師」
賀茂「ハテナ? 小生は不動氏にペテンを弄した覚えは無いがね。――先約の通り、お迎えに上がったよ。雨は降ってないし、蛇の目傘も持っていないがね。還る支度は出来てるかな?」
真理「ハイ。荷造りは済ませてあります」
賀茂「それは重畳。話に、ひと区切りついたようだから、引き取らせてもらうよ。よろしいかな?」
大日「あとのことは、賀茂さんにお願いします。川添さんのことを頼みましたよ」
賀茂「任せたまえ。与えられた責務を必ず果たすのが、小生の信条とするところだからね。――それでは、川添氏。荷物を取ってきたまえ」
真理「ハイ」
――いよいよ、ホテルの皆さんとお別れなのか。現世に還れるのは嬉しいけど、四人と会えなくなるのは、ちょっと寂しいなぁ。やっと馴染んできて、これからってところだったのに。




